第118話 (106)日常-2
「あの!あそこの荷物無くなってるんだけど!」
「あちらに置かれていた荷物でしたら、こちらで預からせて頂いております。」
「はぁ!どうしてよ!」
「ショーをお待ち頂く際、荷物だけを置いての場所取りは禁止されておりまして…。」
「なによ!ちょっと席を外しただけなのに!おかげで場所取られちゃったじゃないの!もう!」
「ですから、荷物だけの場所取りの際は撤去させて頂く場合があると何度もお伝えしているので…。」
〜〜〜
「申し訳ないです。こちらの魔法スティックケースは持ち込めないんですよ。」
「は?なんでやねん!前のスタッフはええゆうてたで!」
「それはスタッフ間で認識違いがありまして、申し訳ございません。正式なルールでは、中身の見えるものでないと…。」
「なんやそれ!中身が見えようと見えまいと魔法スティックやで!」
「凶器が入ってる危険性もありますので…。」
「はは!なんやそれ!仕事のできひん無能の融通効かへんスタッフやのー。凶器なんかあらへんわ!ボケ!」
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「こちらでの喫煙はご遠慮頂いておりまして…。」
「え?電子タバコなんだけど?」
「電子タバコでも喫煙所でお願いします。」
「ちっ。遠いんだよ!喫煙所少ねーし!」
「申し訳ないです。ご協力お願いいたします。」
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「こちらのショップ入る際、転売対策として入場予約時の身分証の提示をお願いしております。」
「はー?なにそれ?そんなの持ってないんだけど。」
「申し訳ありません。でしたら、本日入場お断りすることになっております。」
「はー?私カード派だから、身分証なんか持ち歩かないんだよね。そもそもそんなのどこに書いてんだよ!」
「一応公式ホームページの方に書いてありまして…。」
「こんなの誰が読むねん!てか、転売なんかしねーっつーの。私がどんだけ金落としてると思ってんだよ!もういい!買いませんから!残念でしたー!ばいばーい!」
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「はぁ〜。疲れた。」
「昼過ぎまでにこの忙しさだと、ゾンビナイトが始まる夜になるとどうなることやら。」
「今日は特にクレームオールスターズだったわね。本当にお疲れ様、あかねちゃん。」
「いえいえ。私は何も…。最終的にはビッグボスが睨みを効かせて、解決しましたから…。私舐められてるんですかね。」
「常連の怒りっぽい人たちは、新人のスタッフを舐めて下に見る傾向があるからね。毅然とした態度で対応するしかないわよ。」
「そ、そういうものですか。」
私とビッグボスは自販機横のベンチで休憩しながら、今日対応したお客様のグチを言い合っていた。中には威圧的な態度で喧嘩のように迫ってくる奴もいて、流石にイラッとしてしまう瞬間もあった。おっといけない。お客様のことを奴呼ばわりしてしまった。あんなのでもお客様である。落ち着け、私。
「私ちょっと思ったことがあるんですけど、良いですか?」
「なに?どうしたの?」
「いや、こう問題を起こすのって殆ど常連さんだなと思いまして。今日、怒ってた人達もよくパークでお見かけする方々だなと…。勿論一部なんですけど…。」
「…来たわね。」
「はい?来た?」
「その域まで来てくれたのね。あかねちゃん、ありがとう。」
ビッグボスは私に向かって、パチリパチリと拍手を送ってくる。域?何の域だろうか?ビッグボスの域に到達したということだろうか。
「私、その事について考えてることがあるの。」
「考えていることですか?何ですか、それ?」
「私が思うにあの人達は、このパークが“日常”になってしまっているのよ。」
「“日常”ですか?」
ビッグボスは「そう、日常よ。」と言いながら、持っていた缶コーヒーをグイッと飲み干した。そして、缶をぐしゃっと潰したのだった。それは、日々のストレスを込めたように見えた。缶コーヒーがビッグボスの苛立ちを全て受け止めているようだった。
「例えば、普段使ってる電車とかで出入り口に溜まってる人なんかイライラするでしょう?あるいは、マンションのゴミ捨て場でいつも分別しないで捨ててる奴とか。狭い歩道で広がってゆっくり歩いてる集団とか。」
「あー。電車とかはありますね。ほぼ毎日乗ってると、何でこの人詰めないの?とか、そこに荷物置くなとか。」
「そうそう。そういうのが気になるのって、そこが日常の空間だからだと思うのよ。それを逆に、旅行先だったと思ってみてよ。」
「旅行先ですか?」
「そう、初めて行く場所で、右も左もわからない状態だと小さいイライラには目が行かないのよ。不安だったり、楽しみな気持ちが多くて。旅行先だったら、狭い歩道でゆっくり歩いてる集団がいても何だか許せるものなのよ。」
「んー。なるほど、そんなもんですか。」
「あれ?!あんまりピンと来てない?」
「正直、納得100%!までは言ってないです…。」
そう言うとビッグボスは、あかねちゃんには伝わると思ってたのにと残念がっていた。しかし、ビッグボスの例えが私にはピンと来てなかっただけで、非日常より日常の方が小さなイライラが気になるというのは少しわかる気がする。
「でも、言っていること少しわかりますよ。普段の生活のほうが、細かいところに目が行って気になるから、イラッとする頻度が増えるってことですよね。」
「そうそう。そんな感じなのよ。だから、あの常連の人達はもうパークが好きすぎて、普段の生活になってしまっているのよ。だから、どうしてここがこうじゃないんだって怒ってしまうし、前はこうだったのに何で変わってるんだって憤ってしまったりするのよ。」
ビッグボスの言う事に納得する。この話をもっと突き詰めて言語化できれば、何か解決の道が見つかるかもしれない。しかし、常連の人達側もそれを理解する必要があるあたり、やはり難しそうな気もする。あぁ、悲しいかな。私たちは無力です。
『UPJで未体験の非日常をあなたにーー。』
パーク内のアナウンスが不意に聞こえてくる。そうだ。パークとは非日常を提供する場なのだ。私もジェットコースターを乗る為に、いろんな遊園地に遊びに行くが、コースターに乗っている間は特に日常では味わえない感覚を味わいに行っているのだ。非日常のはずが、日常になってしまう。常連の方々も非日常を求めてやってきているはずなのにな。何とも皮肉な話である。
「さっ。休憩は終わりよ!私達は私達の日常に戻りましょう。」
「そうですね。非日常を提供すると言う日常ですね!」
こうして休憩中にビッグボスと話すことも、私にとっての日常になってきている。これはイライラする悪い日常の一つではなく、楽しい日常の一つだ。私はせめて、日常の中のキラキラとした良いところを見つけていきたいと思った。悪いところと違って、見つけ辛い気もするが、きっとまだ気づいてないだけで、まだまだ沢山あるはずなのだ。
「あれ!あかねちゃん達、もう休憩終わりですか?」
遠くの方からタテノくんが走ってやってくる。片手には先ほど買ったと思われるペットボトルを持っていた。よほど急いできたのか、はぁはぁと息が上がっていた。
「タテノくん!お疲れ!タテノくんは今からなの?」
「そうだよ!なんだー、見かけたから一緒に話せると思ったのに。」
「ふふ、残念だったね!また今度!」
じゃあねー、と言ってタテノくんと別れる。その後数秒すると、背後から「うわぁあ!」と言う声が聞こえてくる。何かと思ったら、タテノくんが炭酸ジュースのペットボトルを吹きこぼしたようだ。炭酸持って走るからだよ。バカだな〜。私は、タテノくんの失敗を遠目に見ながら、これは面白い良い日常だよねと思い、思わず笑うのだった。
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