第112話 (100)迷子犬と雨のビート-8
「飼い主さん、すぐ迎えに来るらしいわ。」
「結構夜遅いのに、よっぽど心配だったんですね。」
「そりゃそうよ。ペットって言ったって家族だもん。カッピーも飼ってみればわかるわよ。」
僕に向かってビッグボスが諭すように言ってくる。確かに僕はペットを飼ったことはないので、ペットが家族という感覚を肌で理解は出来ていないのかもしれない。それに対して、ビッグボスはヨルを飼っているので、飼い主の気持ちがわかるということか。それにしても元気かな、ヨル。その姿自体はビッグボスから嫌というほど写真を見せられているので良くみているような気がする。しかし、やはり直に触れ合ってみたい。猫と触れ合うと心が柔らぐ。
「これでエディーともお別れか。」
「オラフさん、寂しいんですか?」
「そうだね、もう会えないのかと思うと…。」
ワン!
「ほら、エディーがまた会えるよ!って言ってますよ。」
「そ、そうだよね。エディー!ありがとう!」
ワンワン!
嬉しそうに尻尾をフリフリとするエディー。この短い時間でエディーはオラフさんに懐いてしまったようだ。やはり、動物でもオラフさんの優しさや包容力に惹かれるのだろうか。見た目は巨大で恐ろしいはずだが。
ワン!ワン!
「あ!エディー!良かったぁ!」
ワン!!
飼い主と思われる女性が現れると同時にエディーが女性の方に駆けてゆく。その後、胸元へとダイブし、飼い主の女性にぎゅーっと抱きしめられていた。
「エディー!勝手に走っちゃダメじゃない!心配したのよ。」
ワン!ハァハァ!
「本当に見つけてくれてありがとうございます。まさかこんなに早く見つかるなんて。」
「いえいえ。こちらこそ無事で良かったわ。」
「そちらの2人が見つけてくれたんですか?」
飼い主の女性が僕たちの方を見る。かなりの美人で少し照れてしまう。正直、僕はコンビニで100番くじを引いただけで、何もしていないが、どうも僕が見つけましたという顔をして、えへへと会釈をした。するの、横でおとなしくしていたオラフさんが普段より上擦った声で突然飼い主の女性に話しかけた。
「あ、あれ?もしかしてエリカちゃん?」
「は、はい!そうですけど…。どうして名前を?」
「ぼ、僕ほら!覚えてない?スクールで一緒だった…。ケンジだよ!」
なんとオラフさん、この美人なお姉さんと知り合いなのか?ていうか、オラフさんの名前はケンジだったのか?色々と情報が多い。スクールとは何なのか。スイミングスクールでも行っていたのだろうか。
「え…。ケンジくんって、あの?!えーー!!久しぶり!!何でここにいるの!」
「本当に懐かしい!色々あって、今はここでダンサーの仕事をしてるんだよ。」
「うわぁ!これがあのケンジくん?!私より昔は小さかったのに、こんなに大きくなったの?!」
ワン!ワン!
「あ、もしかしてこの犬って…!」
「ううん。あの時の犬はエディーじゃなくて、ビート。もう亡くなっちゃったの。この子はビートの子どもなの。」
「あー。そうだったのかー!」
ワンワン!
「すごい運命。あの時のケンジくんがエディーを見つけてくれるなんて。ユウくんも働いてたUPJで。」
「え?!ユウくん、UPJで働いてたの?」
「え?知らなかったの?亡くなる直前の話ね。」
僕のわからない話をひたすらする2人。僕は久しぶりの再会に水をさす程、野暮な男ではない。話も何だか入り組んでいそうだ。この美人なエリカさんとどういう関係なのかは後で詰問するとしよう。僕はビッグボスの裾をくいっと引っ張り、その場から退散した。ビッグボスは2人の会話にズケズケと入ろうとしていたが、僕は適当な話をして、一緒に来るように伝えたのだった。
〜〜〜
「うっ。ケンジくん?エリカちゃん?」
僕はいつもの通りに空中を漂いながら、下のスタッフたちの会話を聞いていた。エディーとかいう犬の行く末を見届けようと思ってのことだったが、なにやらその会話は他人事ではないような気がしていた。
「ユウくん?僕はユー。いや、それはジョージがつけてくれた名前で、たまたま同じってこと?何か妙に馴染むとは思っていたけど…。」
頭が痛い。僕にとっては初めて経験する痛みだった。幽霊になって以降、痛みという感覚を感じたことはなかった。しかし、今初めて頭がズキズキと痛む感覚に襲われていた。
『あ、ユウくん。“だいほん”をおぼえてて…。』
ズキッ
『ありがとうユウくん!ユウくんのアドバイスのおかげだよ。』
ズキッズキッ
『実は僕も役者辞めようかと思ってて。』
ズキッズキッズキッ
俺はケンジと友達だった?それにエリカとも…。何か一緒のスクールで…。うっ…。記憶が戻りそうな刹那、あまりの痛みに気を失ってしまった。
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