第109話 (97)迷子犬と雨のビート-5
「そ、そうだけど。え?あかねちゃん、ジャンピース好きなんですか?」
「そりゃジャンピース嫌いな人いないでしょ!仕事終わりに100番くじ引こうと思って楽しみにしてたのに、もしかしてカッピーさんが一等当てちゃったんですか?」
「は、はい。」
「そんなぁ。あそこのコンビニいっつも一等だけ誰かに引かれちゃってて…。前にもルディのフィギュアが…。」
「あ、ご、ごめん。それも僕です。」
「えぇ?!?ちなみに何回引いたんですか?」
「一回だけだけど。」
「んなっ!!」
パーク内のコンビニの100番くじ。入荷すると言う情報を仕入れて、いつも楽しみにしていたのに、私が買いに行くといつも一等のフィギュアが無くなってしまっていた。その犯人がまさかカッピーさんだったなんて。しかも一回だけ引いて当ててしまうなんて。ジャンピースファンは100番くじを何回も何十回も引いてやっとフィギュアを当てるのに…!悔しい!持っている人は持っているんだ!
「おい!無駄話しとる暇ないで!」
「ぎぃぃいやぁぁああ!!」
ハッタリが私たちに声をかけた数秒後、遠くから男の人の悲鳴の声が聞こえた。まさかエディーが人を襲ったのか?
「何や、今の声?急ぐぞ!助手なら、ワイに着いてこい!」
「はっ?!だ、誰が助手なんですか!!あっ、待ってくださいよー!」
「オラフさん、僕たちも向かいましょう。」
「そ、そうだね。僕はちょっとドッグフードのゴミを片付けてから向かうよ。」
「確かに散らかしたままは良くないですもんね。僕も掃除手伝いますよ。」
〜〜〜
ペタッ、ペタッ。
静けさを取り戻したパークの一角。静寂が俺の心に平穏をもたらす。お久しぶりです。パークの塗装屋ダイです。先程までゾンビナイトで人がひしめき合っていたのが嘘のように、今はガランとしている。改めて、俺はこの静けさが好きだ。静寂。静寂。ひたすら続く静寂。心が落ち着くとはこのことだろう。
今日の作業場所は木々が生い茂るジャングルエリアだ。恐竜たちが生きていた時代をイメージしたこのエリアには、ジャングルの奥地に潜む部族のような格好をしたゾンビが出現する。そのゾンビたちが杖やハンマーを使って地面を叩いてお客さんを驚かすのだが、その際に結構地面の塗装が剥げてしまうことがある。なのでゾンビナイト期間は重点的に確認して、修復をしていく。
「ふぅ。」
ここで塗装の作業をしていると、まるで古代にタイムスリップして、1人きりになってしまったような感覚に陥る。この仕事をしている人でしか、体験できないこの感覚が俺は好きだ。ここの塗装の作業は少し難しい。砂のような塗装をする箇所と、ツルツルとした古代の岩のようにする箇所、ところどころには化石が埋め込まれているような装飾も行なっている。かなり繊細な作業が必要だ。もし、俺の横に置いているペンキの缶を倒してしまうようなことがあれば大惨事である。元通りに復旧するのにどれだけの時間がかかってしまうか。まぁ、俺ももうベテランなのでそんなミスはしないが。
ワン!ワンワン!
ーーん?なんだ?
ワン!ワン!
ーーい、犬の声?
〜〜〜
ユーは追ってくる犬から逃げているうちに、ジャングルのエリアまで入ってきてしまっていた。しかしこれは好都合である、とユーは考えていた。なんせこのエリアは道が入り組んでいてまっすぐではない。グネグネと曲がっているので、犬を撒くのには好都合だ。
ワンワン!
「いつまでも追ってきやがって!僕が幽霊じゃなかったら、走りすぎて死んでるところだぞ!」
ワン!
(じゃあな。どこかの犬よ。)
ワン…?ワン!クゥーン。
ーーふぅ。何とか撒いたか。
エディーを何とか撒いたユー。明かりが見えたので近づいてみると、そこにはライトの下でペンキやらブラシやらスプレーやらを置いて作業を行なっている男の姿があった。
ーーこの人、この前ベイサイドらへんで作業してた人だ。今日はここで作業してるのか。
シューシュー
ユーは男が床の塗装を職人技で行っているのをぼーっと眺めていた。その手際はまさに職人で、みるみるうちに塗装が進んでいくのだった。
ーーすごいなぁ。熟練の技って感じだ。
ワンワン!
「うわ!びっくりした!」
茂みの中から突然犬が顔を出し、作業を眺めている僕に吠えてきた。僕がそれに驚いて、後ろに下がった時、足に何かが当たった感触がした。
ガタン!!
「あっ、いっけね。」
〜〜〜
ワンワン!
ガタン!!
ーーえ?何だ今の音。
正面から突然犬が出てきたと思ったら、背後からガタンと言う音がした。俺は恐る恐る後ろを振り返る。そこには、先ほどまで直立していたペンキ缶が倒れ、中のペンキがドロドロと流れ出てる惨状があった。そして、先ほどまで塗装の作業をしていたエリアが真っ黒に塗りつぶされてしまっていた。は?え?なんで??
「ぎぃぃいやぁぁああ!!」
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