第105話 (93)迷子犬と雨のビート-1
ワンワン!
「よしよし。エディー、今日は一段と元気ね。」
ワン!!!
ダッ!
「あっ!エディー!待って!エディー!」
ワンワンワン!
シュタタタ…
〜〜〜
「だから!エディーを探してください!」
「待ってください!ちょっと、話を整理させて欲しいです。」
飼っている犬が逃げてしまって困っているという女性がいる、という連絡が警備員の方からビッグボスの元へと来た。その話だけ聞くと、そんなのパークの運営に問い合わせされてもしらないよ、という話なのだが、話をよく聞くとちゃんとパークに関係のある話のようだった。
「つまり話をまとめると、あなたはパークの近所に住んでいて、いつも通り飼っているエディーという犬の散歩をしていたところ、エディーが逃げ出してしまったと。そして、エディーが向かっていった先がパークの方角だったという事ですね?」
「はい。そうです。パークの方角というか、パークの外周の茂みに入っていったので、昨日の時点では間違いなくパークの中に入っちゃったんだと思います。」
またか、と私は思っていた。少し前に野良猫がパークに侵入していた事件に続いて、今度は飼い犬である。こうも動物が立て続けに侵入してくるのはどうなんだ。何か対策を立てなければいけない。
「これがエディーの写真です。ボーダーコリーっていう種類で、白黒の毛です。緑色の首輪をつけていて、エディーって英語で刻印もされてます。」
「ありがとうございます。パークの中といえど、入れるような場所は限られているので、見つけるのにそんなに時間はかからないかと思います。」
「そうですか…。うっ…。どうか、エディーを見つけてあげてください。きっと…、寂しがってるの思うので…。寂しがりやなんです。」
目の前の飼い主の女性が涙ぐみながら、頭を下げる。大学生ほどの年齢なのだろうか。とても若く見える。よっぽどエディーのことを可愛がっているのだろう。スマートフォンの待受は幼い頃の彼女とエディーがお互い抱き合っている写真だった。
「もうパークの外に出てるかもしれないので、私は外周を回ったり、近所を探してみます。」
〜〜〜
「というわけで、エディーの捜索を行うわよ。」
「今度は犬の捜索…。猫ちゃん探しもやったし、パークの仕事も幅が広いですね。」
あかねちゃんは、ビッグボスに様々な相談をされるのにもすっかり慣れてしまっていた。今度は犬探しである。それにしてもボーダーコリーか、中型犬なのですぐ見つかりそうな気もする。写真を見る限り、成犬にも見える。50cm程はあるであろうか。手間ではあるが、そんなに探すのは苦ではなさそうだ。
「それで、今回もあかねちゃんに協力をお願いしたいんだけど…。」
「イエス、ビッグボス!と言いたいところなんですけど、今はニンジャの隠れ場所探しもあるし、そもそもゾンビナイトの繁忙期でもあるし、流石に忙しすぎますよ。」
「そうね。だから、今回はあの人に協力を要請したわ。」
「あの人って誰ですか?」
「そうか。あかねちゃんは会った事ないわよね。」
あの人とは誰だろう。もしかして私が知らないだけで、迷い犬捜索課のようなものがUPJには存在していて、その専門の方が来てくれるのだろうか。それなら助かる。私のような一介のバイトが駆り出されずとも済むのだから。
「迷い犬捜索の専門チームでも派遣してくれるんですか?」
私はビッグボスに冗談めかして言ってみる。そんな人いないわよ、と微笑され一蹴されると思っていたが、彼女の反応は私が思っていたものとは全く異なった。
「まぁそうね。専門みたいなもんね。」
「は?専門の人がいるんですか?」
「そう。なんて言ったって、“パーク探偵”だから。」
ーーパーク探偵ぃ?何なんだその謎の職業は。探偵なんか、ほぼほぼフィクションではないのか?探偵が事件を解決するのは創作上のお話で、現実の探偵とは興信所で浮気調査や便利屋のようなことをする人たちのことではないのか?
バァン!
私が呆気に取られていると、勢いよく部屋のドアが開いた。そこには、古の映画でのシャーロックホームズがスクリーンからそのまま飛び出してきたかのような格好をした男がスラリと立っていた。キセルこそ持っていないが、道ゆく人が彼をみたなら、きっと探偵なのだろうと認識するに違いない。彼は鹿撃ち帽をくいっと人差し指であげて、笑顔をこちらに向ける。
「パーク探偵のハッタリや。どうもよろしゅう〜。」
ーーパーク探偵のハッタリ??
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