第103話 (91)忍者ロック-1
「はぁ〜。」
休憩室で休んでいるとビッグボスが突然ため息をついた。ゾンビナイトが始まって1ヶ月ほど経つが、私が聞いただけでもかなりの回数ため息をついている。おおよそであるが、50回程度はため息をしているだろう。ため息をつくたびに幸せが逃げていく、なんてことを言われるが、もしその通りならビッグボスの元にどれだけの幸せが逃げずに残っているのだろう。
チラリ
そんなことを考えながら、ビッグボスを眺めていた。すると彼女は、私の方に視線を向けて何か話したそうにしている。それを察した私はビッグボスに定型文のように返事を返す。
「ど、どうしたんですか?ビッグボス?」
「いや〜。あかねちゃん、聞いてくれる?」
私の返事を待ってましたと言わんばかりに、ビッグボスはぐいっと私の方に近寄ってくる。最近、ビッグボスから私への信頼がすごい気がする。信頼がある、と言えば聞こえが良いが、私を二代目ビッグボスに担ぎ上げようとしている気がしてならない。勿論この仕事は楽しいし、やり甲斐は感じているのだが、今の私は単なるバイトである。社員でもない私がビッグボスの名前を襲名させられそうになっていることに危機感を感じている。私まだそこまで覚悟決まってないです。
「…?あかねちゃん?話聞いてる?」
「あっ!すいません!今日は少し疲れちゃってぼーっとしちゃってました!で、何の話でしたか?」
「前にニンジャってお客様の話したの覚えてる?」
ニンジャ。あぁ覚えている。かなり衝撃的な話だったので、脳に強く刻まれていた。ニンジャさんとは、前にオールナイトパーティというイベントがあった時に、本物の忍者のように隠れ身の術を使って、オールナイトパーティに忍び込んだ迷惑客の1人だ。オールナイトパーティは抽選で当選したお客様だけが参加できるのだが、彼女は落選したにも関わらず、パーク内に居座るという方法で強引に参加した彼女。迷惑客という言葉では括れない超問題客である。
「ニンジャさんがどうしたんですか?遂に逮捕されましたか?」
「逮捕までは行ってないわ。上司さんにも話したんだけど、証拠不十分だって話になってね。」
「まぁ確かに、ちゃんと不法侵入したって証拠はありませんもんね。あの映像も不鮮明でしたし。」
この間の件に進展があったのではないのなら、何の話だろう。まさか今度のゾンビナイトのオールナイトイベントにも忍び込もうと画策しているとでもいうのだろうか?
「流石あかねちゃんね。その通りよ。」
「え?!何でそんなことわかったんですか?」
「数日前にゾンビナイトのオールナイトのチケットが発売されたのよ。」
「されてましたね?あんなにすぐ売り切れるとは思いませんでしたね。」
「これがその時のニンジャの投稿よ。」
そう言ってビッグボスはひび割れた画面のスマートフォンを私に見せてきた。それにしても、この人いつになったら画面を直すんだろう。もう1ヶ月以上このままだぞ。割れた画面がいつ修理されるのかの話はさておき、画面を見るとニンジャさんの投稿が映し出されていた。
『オールナイトのチケ。時間ぴったりにアクセスしたら、混雑してるから時間を置いてからアクセスしてくださいって画面が出て、リロードしまくってようやく繋がったと思ったらもうソールドアウトしてた。悲しい。あまりにもチケット少ないんじゃないですか?』
『ありえない。何でパークに寄生してるインフルエンサー共がチケット取れてて、私が取れてないの?』
『オールナイトチケット取れたとか投稿する人、デリカシーなさすぎる。取れなかった人の気持ち考えたことある?デリカシーない人はブロックします。』
『そもそも抽選販売もなしに先着でしか売らないってありえなくない?ゾンビナイトの人気わかってるの?』
『はぁ。つら。』
可哀想に。チケット争奪戦に敗れて悔しい気持ちはよくわかる。しかし、疑問が残る。これだけだと単にチケットが取れなくて悲しんでいるオタクの投稿でしかない。
「ビッグボス。これだけでニンジャさんが侵入しようとしていると疑うのはやり過ぎでは?」
「これだけじゃないわ。続きがあるのよ。で、こっちがニンジャの裏アカの投稿よ。」
「え?ちょ、ちょっと待ってください!何で裏アカを把握してるんですか??」
「当たり前じゃない。迷惑客の裏アカを把握するくらいパークスタッフとして当然よ。」
当たり前?当然?何を言ってるんだこの人は。そもそもどうやって見つけたんだ。恐ろしい。恐ろしすぎる。
「どうやって見つけたかは企業秘密よ。とりあえずこの投稿をみて頂戴。」
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