第10話 (10)運命共同体
明くる日の夜、僕とオラフさんは小さく暗ーい劇場の座席にちょこんと座っていた。座席は狭く、オラフさんはキツキツで辛そうに見える。
「いやー、僕こんなところに来るの初めてだから緊張するなぁ」
オラフさんが緊張するのも無理はない。僕たちは狭いライブハウスに来ていた。サチモスが紅白で言っていた、臭くて汚ねぇライブハウスとはここのことなのだろうか。
ライブハウスを見回してみると、その客層はほとんどが女性で男は本当に僕ら2人くらいのものだった。若干の居心地の悪さを感じる。女性たちは大きなカメラを持ってステージの方をじっと見ていた。
「どんな感じなんだろうねぇ。楽しみだなあ」
確かに。どんな感じなんだろう。ダンスのライブなんて見たことない。そういう点では楽しみである。
何で僕たちがダンスのライブに来ているのか。それはメイクルームでの金髪男との会話に遡る。
〜〜〜
「カッピーさ。俺らのダンスチームに入んね?まじ俺ら“グループ”が合うと思うんだよね。お試しでもいいからさ」
「え、グループ??あっ、グルーヴですか?」
「おっ!カッピー!アタマ良い系?やべー!俺らのチームの平均IQあがるべ!もうバイブスじゃん、そのものじゃん!」
ーーこの軽いノリ…間違いない!陽キャだ!
如何にも陽キャオブ陽キャであると全身で表明している金髪の彼は自らをココロと名乗ってきた。
ココロさんは戸惑っている僕の肩に腕を回してきた。ほんのりとタバコの臭いがする。長々と話してはいるが不思議と頭に残らない、なんだか軽い不思議な声をしている。
ココロさんの言葉を要約すると、「カッピーのダンス、最近見てて俺らと超フィーリング合うと思ったんだよね。一緒にダンスしようぜ!さぁ、夢のshow Timeへ!我ら運命共同体、うぉい!」ということだった。
「すいません。あんまりそういうダンスチーム?ってわからなくて」
「そういうと思ってさ!今度俺らのチームが出るライブがあるんだよね!よかったらおいでよ。まぁまぁ、今回はとりあえずチケ代はいいよ。いーっていーって!気にすんな!」
捲し立てるように話すココロさん。ちょっと予定確認してみますと言って確認すると、その日はシフトも入っておらず予定のない日だった。まさか、確信犯で誘ったんじゃないだろうな…。
「予定ないので、一応行けそうですけど…」
僕がそう伝えるとココロさんはとても嬉しそうに笑っていた。
「おーい!カッピーとココロくん!何の話してるのー?」
そう話しながら、オラフさんが近づいてくる。正直助かったと思った。このままだとあまりの勢いに断りきれず、ココロさんのダンスグループに電撃加入させられていたかもしれない。因みに彼のグループ名はドリームビリーバーと言うらしい。
ココロさんはライブの説明を軽くした後に、ライブの最後に投票があるから投票だけ宜しく!とお願いをしてきた。
「僕も行ってみたいなー!」
「まじすか!全然良いっすよ!」
興味深そうに話を聞いていたオラフさんがチケットをねだると、ココロさんは快く承諾して、僕らにチケットを渡してくれた。もらったチケットにはいくつかの出演者が書いていた。沢山の人が出るんだな、と思っていた。そして、何となくドリームビリーバーの名前を探してみた。
ーーん?これか?
そこには英語で『Dream bilibar』と書かれていた。
ーーびりばぁ?
ビリーバーの綴りはこれじゃないはずだ。この綴りに敢えてしているのだろうか?何か意味があるのか。ビリビリするバーのこと?もしかしてこう言う名前のバーがあるのか?
「このビリーバーの綴り間違ってるんじゃない?正しくはbelieverだと思うんだけど」
ぐるぐると考えていた僕よりも先に、ココロさんに間違いを指摘するオラフさん。ナイスです、オラフさん!こういう時のオラフさんは助かる。さぁ、ココロさんはどう返すんだ?
「ん?え?まじ?そうかそうか。あれかな。あーそうだあれだ。まじ主催のミスだわ〜。ちくしょー。言っとくわ!これ。うん。さんきゅさんきゅー」
あっちゃーといいながら、しどろもどろになっていたココロさん。本当に主催のミスなんだろうか?いや、でもここはココロさんを信じてみることにしよう。きっと主催の方のミスなんだろう。うん。
「とりま、わからんことあったら連絡ヨロ〜」
ココロさんはそう言うと連絡先を教えてくれた。ココロさんのプロフィール欄には『夢は見るものではなく、叶えるもの。Dream bilibar kokoro…』と先ほどと同じ綴りで書かれていた。ココロさん、単純に綴り間違えてたんですね。大丈夫です。恥ずかしくないですよ。
後日ココロさんのプロフィールを見ると、『夢は見るものではなく、叶えるもの。ドリームビリーバー ココロ…』とカタカナ表記になっていた。
良かった。無理に英語表記にするから、恥ずかしいことになっちゃうんですよ。カタカナなら間違えないですもんね。それにしても、オラフさんと僕のせいで彼らのグループはカタカナ表記に改名することとなってしまった。彼らがビッグになった時に、Wikiに改名の経緯が僕らだと書かれてしまうのだろうか。
〜〜〜
そんなこんなで彼らの出演するライブへと僕らはやって来ていたのであった。なんだかんだ言っても僕もダンスを見るのは好きなので、すごく楽しみではある。
「そういえばオラフさん、UPJでのダンサー長いのにココロさんに誘われたりしなかったんですね」
「確かに…。ココロくんと同じエリアになるの初めてだったからなのかなー。あとはやっぱり、カッピーが人気出そうだから、唾つけとこうと思って誘ったんじゃないかな?パークで人気のダンサーはファンがつくし、外部イベントでも結構集客するらしいし」
「外部イベント?」
「そう!パークでダンサーやってる人がパークに関係のないところでやるイベントを外部イベントっていうらしいよ。ハナさんに聞いたんだけどね」
「へー!そうなんですね。じゃあ、りゅうじんくんなんて凄いんだろうなぁ」
「あっ、りゅうじんくんは外部イベントやってないみたい。何か拘りがあるのかなぁ」
とりとめのないことをオラフさんと話していると、突然会場が暗転した。いつの間にか開演時間になっていたのか。いよいよ始まるみたいだね、とオラフさんがこちらを見ながらヒソヒソ声で呟いた。
ステージの下手から、手を振りながらしゃくれたおじさんが現れる。どうやら今日の主催者の人で、司会でもあるらしい。ココロさんが綴りの間違いをあなたのせいにしてましたよ、と告げ口したい衝動に駆られたが我慢した。
シャクレた男性は軽快なトークで笑いをとりながら、無駄話はこの辺でと言って早速最初のグループを呼び込もうとしていた。
「最初はこいつらだ!!ダンスで世界を変えてくれ!ドリームビリーバー!」
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