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095 - 佐藤の気持ち(5)


   ◇◆◇



 白々と夜が明けた頃。

 佐藤は部屋に入ってくる少し明るい朝日で起きた。

 机に突っ伏したままで寝落ちてしまったため、腕も足も腰も痛い。それ以上に


「……ったま、い、ってー……」


 日本酒は思った以上に二日酔いが酷い。それを知っていてもなお飲みたくなる時がある。酔っ払って前後不覚になることができるからだ。

 頭を動かすとさらに頭痛が酷くなるため、なるべく頭の位置を変えないようにゆっくり動く。


 突っ伏していた机から起きあがって正面を見ると、PCのスクリーンセーバーが動いていた。PCの下にある古い目覚まし時計は6時を指している。


「トイレ……」


 頭痛を抱えたままでは何をするにも難しいため、一旦、部屋を出て体勢を立て直そうと思った。

 ゆっくりと体ごと振り返って周りを見回すと案の定、部屋は散乱しているし、物は倒れまくってるし、PC裏の方にある壁面が全面出たままで。

 大量の【汐見】が朝っぱらから佐藤を見下ろして笑っている。

 それを見てヘラっと笑った佐藤はボソッと呟いた。


「ああ、そういうこともできるな……」


(壁開けたまま寝て、起き抜けに汐見の写真が見れるってのはいいかも……)


 朝起きた時1番に汐見に会えるのはいいな、と思った。

 寝室どころか、この部屋以外には汐見の匂いのするものは何も置いていない。何かあって自分以外の人間に見つかったとき、言い訳できないからだ。


(寝室に汐見の写真なんかあったら……なんで寝室にあるか聞かれて……誤魔化しようがないだろ……そりゃ寝ながらのお供には最高だけどさ……)


 そこまで考えた佐藤は、のっそり立ち上がると、ズキっと頭痛がした。


「うっ……!」


 吐き気を自覚して、ゆっくりと、だが急いでトイレに向かう。そして──胃の中のものを全部出してスッキリすると、やっと少しだけ我に返った。


(あ~……そういや昨日は結局抜かなかったな……飲むと勃たねえからな……)


 勃ちが悪い方じゃない、と思う。体に相応してそれなりのモノを持ってはいるから身体が小さい女性には痛がられることも多々あった。

 長身の女性を求めるようになったのはそれからだ。


(汐見くらいの身長の女性は人口比から言っても少ないけどな……)


 たまたまそういう女性に当たると行為時にかなり楽で、ストレスが少なく、快感を得やすい。そのため、そういう長身の女性との付き合いは長くなりがちだった。

 それでも1年続けば良い方だったのだが。


「……汐見、今日何時くらいに来るかな……」


 会社の人間が見たらあまりの別人ぶりに驚くこと間違いないくらいの格好と姿でリビングに出て、ベランダの掃き出しの上にある時計を確認する。


(一応、来る前にLIME入れるように言っといたから……)


 が、今すぐ急にLIMEが来て今から行くと言われても困るな。とも思った。あの部屋を現状回復しないといけない。それも早急に。そして、回復に──


(……前回よりひどいな……片付けに、2時間くらいかかるかな……)


 そう考えて、スマホを手に取るとLIMEを立ち上げ


『おはよう。起こしたらすまん。悪いけど、今ちょっと立て込んでるから、来るんだったら3時間後くらいにしてくれるか?』と、余裕を持った時間を送信した。


 何も考えたくなかったが、考えずにはいられない状況で、悪い考えばかりが頭をよぎる。だから飲んで一瞬でも忘れたかった。

 眠れなくなって一人で悶々と過ごすよりは、一瞬でも汐見を忘れて──


「結局、飲んでる時も……汐見のことしか考えてなかったけどな……」


 記憶を抹消するM○B特製のニューラライザーが欲しいと非現実的に考えてしまうのも仕方ない。


(そしたら、俺の記憶から汐見だけ消してもらって……いや、ダメだ。そんなこと……)


 汐見の記憶すら失くしてしまったらまた昔の自分に戻ってしまう。

 あの、自分のことだけ考えて、なんとも思わない異性を手当たり次第に渡り歩いたクソみたいな生活。生きてても死んでも構わないような──


「……今の俺があるのって、汐見のおかげなんだよなぁ……」


 だからこそ、手放せない。こんなにも執着してしまう。

 でも、汐見は佐藤から離れていこうとしている。


「転職って……」


 ああなってしまった汐見を止めるのは困難だろう。

 そして、職場が変われば汐見とは徐々に疎遠になるだろう。

 そういう未来がリアルに見える。


 リビングで機械的に朝食の準備をしながら──

 昨日忘れようとして結局、消去できなかった記憶で、また寂しさと侘しさを感じて二日酔いの頭痛がさらに酷くなった気がした。


「だから、考えんな、って……」


 汐見と離れたくない、と思って行動するのは佐藤の都合。

 汐見がこの機会を逃さずに自分を試したい、と行動するのは汐見の都合。

 どちらにとっても各人の都合を最優先すべきだろうということはわかっている。頭では。


「……刑事さんも……言ってたしなぁ……」


『あんたの人生だってあんたのもんだろう?』






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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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