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092 - 佐藤の気持ち(2)


   ◇◆◇



 汐見がタクシーに乗って佐藤の家まで来てみると、ベランダから見える家の電気は消えていた。

 出かけているか、寝ているかのどちらかだとは思ったが


「やっぱ寝てるよな……」


 佐藤から家の鍵を預かっている。本人が家にいるのであれば、不法侵入じゃないかもしれないが、少し躊躇する。


(『来る前にLIMEしろよ』とは言ってたが……)


 佐藤の部屋はマンションの5階だ。佐藤はこのマンションが気に入ってるとは言ってたが、汐見から見ると、一人暮らしには大きすぎないか? というのが正直な気持ちだった。だが、昨日話してみて、誰かと暮らすつもりだったということがわかり、そうだったのか、と納得した。


 玄関の前まで来て、連絡するかどうか迷って、一応LIMEを打つ。


『今、玄関前にいる。入っていいか?』


 送信しようとすると


 ガシャーンッ!!


「?!」


 家の中から大きな音が聞こえた。防音してるような部屋から、夜中にそんな大きな音が聞こえることがあるとは思えなかった。

 汐見は一瞬、自宅でのことがフラッシュバックして立ち尽くす。


(いや、紗妃はここにはいない。いるのは佐藤だけだ……そのはずだ……)


 足元がすくんでいるのが自分でもわかる。

 玄関のドアに耳を当てて様子を伺う。


(誰かと一緒か?)


 もう何も聞こえてこなかった。

 少しほっとした汐見は、ゴクリ、と喉を鳴らし、佐藤から預かった鍵を尻ポケットから取り出してドアに差し込んだ。

 ゆっくり鍵を回す。

 カチャ という音が聞こえた。汐見の家の鍵と違って静かだった。


 ドアのハンドルを押し開けると、音もなくドアは開き、中は真っ暗だった。


(? あれだけすごい物音がしたのに……暗いな?)


 家中の電気が消えていた。ベランダから見える窓はリビングのはずだ。音がするとしたらそこにいるのだろう、と思った汐見は


「……じゃま、するぞ……」


 小声で確認するように暗い廊下を伝って奥へと進む。すると、ツンとする独特な匂いが漂っていた。


(酒?)


 佐藤はあまり酒を飲まない。


(日本酒は悪酔いするはず、だろう……?)


 だが、今部屋中から漂ってるのは日本酒を飲んだ後の独特な匂いだ。


「……」


 足元がなんとか見えるほどの暗さの中、汐見はひとまずリビングに向かう。


 ガン! がつん!


「!!」


 別の部屋から音がした。


(リビングじゃなくて……佐藤の部屋か?)


 佐藤が、あの部屋にはあまり入って欲しくなさそうな顔をするため、汐見が立ち入ったことはほとんどない。誰にだってプライベートは大事だ。


『元オタクだったから、ちょっと、その、な?』と言った後の佐藤は、見られて困るようなものがあるわけじゃないが、とボソッと付け加えていた。


 リビングに向かう前に通り過ぎたその部屋の前に来る。


 ドアが少し開いていた。

 ボソボソと何か聞こえる。


「佐藤?」


 部屋の中も電気は点いていない。なのに少し明るい。

 そっと中を覗くと、でかいパソコンのモニター2面だけが光っていた。


 そこに映し出されているのは──いつぞやの……紗妃も一緒に行った鎌倉観光の時の映像だ──

 波打ち際をはしゃいでる紗妃と、それを眺めている汐見が映し出されている。


 デスク上に置いてあるデスクトップPCにはイヤホンが刺さっていて、音は聞こえない。

 そして佐藤本人は──そのイヤホンを耳につけたままPC机につっぷしていた。


(めちゃくちゃ酒臭い……)


 そっと部屋の中に入る。

 匂いの元を辿って見ると薄暗い部屋の中、デスクの足元に一升瓶が転がっていた。


「しおみぃ……」


 佐藤が呟いたその一言に、起きたのかと思った汐見は一瞬驚いた。だが、突っ伏したままの佐藤の体勢は変わらない。


(……この映像……まさか…………)


 そこまで考えて、汐見は先ほど佐藤が吐露した片想い相手の話を思い出した。


(既婚者で、長いこと片想いで、告白しようと思ったら、結婚したって……)


 汐見の頭の中で混乱が起こる。

 

(まさか、まさか……おまえ、紗妃のこと……?! ……そんな……そんなこと……! オレは……!)


「……うしお……」

「?」

「……なんで……俺じゃ、ない……んだ……」


(? 今、うしお、っつった、よな??)


「俺……お前と……」


 そのまま、本格的に寝こけてしまったようだ。

 薄暗くて部屋の中がよく見えないが、なにか、物が散乱している。


(もの……というか……)


 部屋の電気をつけて佐藤を起こすのも気が引けたため、寝室まで運ぼうとPC机の上を見たら


「?」


 佐藤の顔の下にやけに大きなサイズの一枚の写真があり、よく見ると──


「!?」

(こ、これ!! オレ!?)


 汐見(自分)の、顔だ──

 口元を片手で押さえた汐見が後ずさると、今度は、ズルっと何かを踏んだ気がした。


(??)


 不審に思い、ボディバッグから取り出したスマホのライトで床を照らしてみると────大量の写真が、散乱して────


「!! !!」


 そのどれもに……【汐見潮】が写っていた────


「うしぉ……」






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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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