085 - 汐見宅で(11)
佐藤の発言に納得の行ってない様子の汐見が不信感を覗かせながら佐藤に聞く。
「お前……何か隠してないか?」
「へ?!」
(い、いや、隠してることはたくさんあるし一番隠してるのはお前への気持ちだけど、それお前は気づいてないだr……)
佐藤がそこまで考えていると
「橋田が退職したと同時にオレが連絡取れなくなって。なんで営業部のお前が橋田と連絡取ってんだよ……オレも橋田と話したいことあるのに……」
(それが嫌だったから俺がチャラ田をシャットアウトしました……)
汐見と橋田の間でやり取りされる技術的な話に佐藤はついていけない。
少し聞き齧った知識を元に独学をしてはみたものの、エンジニア本職同士の圧倒的知識量には敵うはずがない。
ただでさえ、橋田が会社に入社してすぐ汐見と意気投合したのが気に食わなかったのに、同じ部署で同じ職種で汐見が一目置くほどの能力の持ち主で話がツーカーで、となれば、佐藤が橋田に嫉妬しない方がおかしいだろう。
だから、佐藤は──勝手に──汐見との接触禁止令を橋田に出し、橋田の方も、会社に電話すれば汐見とは連絡が取れるから、と軽く了承したのだ。
「あぁ~……のな……」
(どうする……なんて……どうやって誤魔化す……)
佐藤が言葉を探していると
「まぁ、いいけどな……橋田のやつ、オレの事気に入ってるとかなんとか言ってたくせに、冷たいよな」
(やめてくれ……お前が俺以外の誰かに情があることを、俺に言わないでくれ……腹の奥がぎゅっとする……)
俯いて無意識に腹部に手を当てた佐藤に汐見が声をかけた。
「? 佐藤? 大丈夫か?」
「大丈夫だ……」
(大丈夫じゃない……)
自分と同じように汐見に想いを寄せるのは異性だけとは限らないかもしれない。すると女だけでなく男も自分の敵だと考えるようになってからの佐藤は、全員が自分の恋敵に見えてどうしようもなくて────
その時、最大限の威嚇と牽制をカマした相手が橋田だった。と同時に汐見への片想いが橋田にバレ、それ以降は相談に乗ってもらうようになった。だが
(それとこれとは別なんだ……橋田がいい奴なのはわかってる……だが汐見が俺の恋人じゃないなら誰も信じられない……)
そんな不信感を抱えてもなお汐見と一緒にいたいと願ってしまう。
辛い片想いを癒したくて、別の誰かに縋ってみても、結局どうにもならなかった。
「……橋田、な。わかった。俺から連絡してみるよ。あいつまだバタバタしてるらしいから、返信来るの遅いと思うけどな」
貼り付けた笑顔を向けて汐見に話しかける。佐藤がこんな表情を汐見に向けるのは、汐見が他の人間のことを考えていることに対して、醜い感情を隠している時だけだ。
だが思案しながら佐藤と会話を続ける当の汐見は何も気づいてはいなかった。
「あ、あぁ。そうだよな……もう一国一城の主だもんな」
(俺じゃなくて、橋田に相談したいってなんだよ。俺じゃ話にならないってことか?)
誤魔化しながら、だが核心に近づこうとする意図を持って佐藤がさりげなく質問した。
「なんだよ、橋田に話したいことって」
今までの佐藤からすると、完全に領土侵犯だ。汐見が自分から話してくれないことを逐一質問したり話させようとすることを、佐藤はこれまでずっと避けていた。
それは汐見の地雷を踏まないように常に慎重だった佐藤からすると、逸脱した発言だった。
「……いつになるかはわからんが……ちょっと口利きしてもらおうかと思ってな」
案外軽く返事をした汐見にホッとした佐藤が、その内容を突っ込んでみる。
「? 誰に? なんの口利き?」
「転職しようと思って」
「は、ぁあぁ?!」




