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082 - 汐見宅で(8)


 一方、汐見を寝室に送った佐藤は──


(なんでシングルベッドが2台なんだ……しかも離されてた……)


 クローゼットの扉に掛けられたカレンダー。

 それに赤く丸をつけられていたのは汐見が入院して佐藤が泊まった日──


(『妊活』って言っていたのに……でも半年レス……)


 リビングに戻った佐藤は、汐見の言葉を反芻していた。


(妊活中なのに『レス』の汐見と、独身貴族を謳歌している──と思われてる──汐見以外とは『ED』の俺……)


 その言葉通りだとすると──


(ははっ……仲の良い友人2人揃って欲求不満か……なら、互いに慰め合えば万事解決じゃないか?)


 下世話な妄想が自動再生するかと思ったが、今は無理だった。

 

(この家には〈春風〉の気配がする──)


 汐見がこれからどうするのか、佐藤にはまだわからない。

 だが、万に一つでも可能性があるなら──


(同じようにずっと1人でいて、一緒にいて欲しい……そしたら、同居を持ちかける、ってのはどうかな……相手ができるまででいいから、とか言って……家賃浮くだろ、とかなんとか言って)


 汐見夫婦の不和に、浮かれてしまう自分にほんの少しだけ罪悪感が湧く。だが、汐見との未来を描く妄想癖はもう7年になる。そう簡単にやめられるわけがない。


(あぁ、でも……同居したら『あの壁』バレちまうかな……)


 いっそのこと、もうバレてもいいか、と思ったりもする。


(もし、あの壁に貼られた大量の写真をみたら、汐見はどう思うんだろう?)


 幾度となくその想像はした。

 それこそ何百パターンも。

 でも、その何百パターンもの汐見の結果は全部、佐藤が【拒絶されて即終了】という一択だった。


(当たり前だ。だって、気持ち悪いだろ。俺だってストーカーにそういうことされて、その度に、「こいつらマジ気持ちわりぃ。なんで相手の気持ちを無視してこんなことが平気でできるんだ」と思っていたんだから)


 だが、あの時は、まさか自分自身が、そういう行動を誰かに、しかも親友の男相手にやるなんて思ってもみなかったのだ。


「抱きしめたい……」


 せめて。抱きしめて、慰めてやりたい──と思う。


(いや、抱きしめて慰められるのは俺の方か。汐見の手以外にも触れたくてたまらない。別に、性的な箇所じゃなくていい)


 強面の顔や、うなじの生え際の首筋、鍛えられた前腕とか、綺麗なラインでS字カーブを描く背筋から腰を──それを想像するだけで佐藤の脳内には花が舞う。


(その点、女子はいいよな。社員旅行で沖縄に行った時、汐見の身体を見て「触っていいですか~?」とか言って汐見の腹筋にベタベタ触りやがって……張り倒したくなるほど羨ましかった……いや、胸筋に触ってたら無意識に張り倒してたかも……)


 佐藤は、羨ましくて仕方なかった。


〈春風〉が。

 汐見の身体に触れられる唯一の人間が。


(それなのに『レス』って───)


 一回だけ事故で触ったことがあるズボン越しの汐見の尻は、弾力があってすごかった。あの感触を思い出すだけで今でも何度でも……


「はぁーーー……俺のもんに……ならねぇかなぁ……」


(汐見がもし俺のものになるんだったら──)


 佐藤の妄想は止まらない。


(毎日定時に帰ってきて2人分の夕食作って、遅くなるって連絡もらったら先に風呂入ってスマホ握ったまま仮眠取っといて、汐見から『今帰る』ってLIME来たら起きて夕飯あっためて、『ただいま』って帰って来たら玄関先まで出迎えてお帰りのキスをして、汐見のカバンとジャケットを受け取って片付けて、食卓に座らせた後あっためた料理を出しながらまたキスをして、一緒に食べながら汐見が食べ終わるまで眺めて『ごちそうさま』って言った後は会話しながら一緒に食器を洗ってその合間にキスをして、洗い終えたら後ろから羽交い締めに抱きしめて『おい、またこんなとこで……シャワー浴びてから』とか言い出す汐見の首筋にキスして思いっきり汐見を嗅いで、シャツのボタン外しながら顎を捕まえて振り向かせてキスをして、シャツの隙間から素肌に手を滑らせて汐見の豊かな胸を揉んで……)


 さっき下世話、と思っていた妄想を


(うおっ! やべ!)


 一瞬でもルーティンでやると佐藤の下半身は勝手に反応してしまう。

 毎日、自分のものにならない汐見と結ばれて一緒に生活する妄想ばかりしている。


(汐見と結婚式挙げた妄想だけだったら、そろそろ百回は超えるな)


 妄想の中での佐藤と汐見は、世界中にハネムーンに行っている。

 

Googola(グーゴラ)のストリートビューを見るのは佐藤の娯楽の一つだが、佐藤の隣で歩いている汐見の横顔越しに世界各国の街並みを楽しんでいる妄想なら、もう数千回を超えた。

 現実に同じことが起こったら「あれ? なんかここ、前にも来なかったか?」と汐見に聞いてしまいそうな勢いだ。


 だが、現実にそうなる日が来るのか来ないのか、それすらわからない。


「結婚したい……なぁ…………」


 一足飛びにそんなことを考える。

 現実に汐見は既婚者で離婚できるかどうかも怪しいし、ましてや日本では男同士では結婚できないのに、だ。


(妄想の中にいる汐見を取り出して現実に存在できるようにできないかなぁ……)


 だが、きっと【妄想の汐見】で、自分が満たされないことを佐藤は知っている。


(本物が、いい……)


 本物の汐見と、そういうことができるようになったら──


(……毎日……ふやけるまでキスして、腰抜けるまでヤリ倒してそう……)







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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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