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068 - 佐藤宅で2人(3)


 帰宅して5時間経過後、佐藤はすでにぐったりしていた。


 今、佐藤と汐見はリビングの主役となっている自慢のソファに2人で並んで60インチテレビを眺めている。

 流れているのは佐藤が録画しておいた、毎週土曜昼にやってるバラエティ番組だ。

 『汐見と一緒に寝泊まりしたり暮らせる!』と病院で汐見が入院していた時の佐藤の内心は『可愛いあの子とワクワクドキドキ同棲体験!』という下心満点だった。

 だが、いざ本当に汐見がずっと2人っきりでそばにいるというのは


(これ、もしかして、俺にとっては拷問じゃないか?)


 汐見に安易に触れることすらできない佐藤は、汐見の一挙手一投足が気になって仕方がない。

 自分が言った言葉にいちいち反応を返されて喜んだり凹んだりして気持ちの上下も著しい。なんだったら血圧すら乱高下している気がする。


(早まったか……いや、でも……)


 退院後の汐見を放っておくわけにはいかなかった。

 単純に佐藤が汐見を1人であの部屋に帰すのが嫌だった、ということもあった。

 佐藤は〈春風〉と一緒に暮らしていた時の汐見がどういう生活だったのか詳細までは知らないが


(絶対、俺と一緒にいた方が居心地がいい、と思わせてやる……!)


 それは、汐見が〈春風〉と入籍する直前まで思っていたことだ。

 そもそも、佐藤自身、EDではなく、ただ単に特定の人間以外に使用不能になっただけだ。

 その根本原因がこの、横にいる汐見自身なのだと汐見本人は絶対に気づいていない。

 だが、自分の恋愛感情に気づいた汐見に、気味悪がられたり、気持ち悪がられるのは死んでも避けたかった。

 だから、慎重に、だが着実に、汐見がゆっくりと自分のことを意識してくれるように仕向ける必要があった。


(どうやって……)


 具体的にどうするのかは考えていない。だが、少なくとも1週間は一緒に暮らす。

 その間に、今の親密さをどうにかしてそういう感情の手前までは深めたいと思っていた。


(あ。ペナルティ……)


 帰宅する時に言ってた『アレ』を何にするか考えていた佐藤に妙案が浮かんだ。


「なぁ、汐見。さっき言ったの、覚えてるか?」

「? 何の話だ?」


 ソファで隣に座ってテレビを見ていた汐見が微妙な顔をして佐藤を見た。


「お前が『悪い』って言うたびにペナルティな、って言ったあれ」

「……あぁ」


 一瞬、何だそれ、と言いたげだったがそこは無視する。


「こうしようぜ。お前が『悪い』って一回言うごとに俺にマッサージしてもらう。希望する場所をな」

「えぇ~……」

「なんだよ、嫌なのか?」


(ここで断られたらこの計画は練り直しだ!)


「……お前そんなに肩こりとかしないだろ」

「だったらお前は何だったらいいんだ?」

「……オレが掃除する、とか?」

「家事ならお前より俺の方が上手いし、そもそもその怪我でやらない方がいいだろ」

「そ、そうだが……そんなこと言ったら、マッサージだって無理だろ」

「そんな大袈裟なもんじゃないよ。ハンドマッサージとかそんな軽いやつだよ」


 それくらいなら脇腹に力を入れずに済むし、お互い体勢的にも無理がない範囲でできる。

 そして佐藤にとって最大の利点は


(汐見から触ってもらえる口実になる!!)


 かなり絶大だった。

 佐藤が寝ている汐見──の手──に触ることは多々あっても、汐見の方から佐藤に触れてくることはほとんどない。せいぜい肩を貸してやるとかそれくらいで。


「それに、ペナルティってのは罰なんだから、お前がいいってことよりは俺がいいってことの方が理にかなってるだろ?」

「う~~~ん……でもオレ、マッサージとかあんまりやったことないぞ」

「野球部だったくせに?」

「下手って言われた」

「……どんなやり方したんだよ」

「わからん」

「……最初に俺がやり方教えるから、お前はそれを真似すればいい」


 ペナルティを口実にそういうスキンシップができるなら、汐見の悪い口癖を最大限に活用してあわよくば自分のことを──


(|そういう【()()()()()()】で意識してもらえるように……でも、きっと……)

 

 汐見が気付くには時間がかかるんだろうな、と佐藤は思う。


 汐見が〈春風〉を選び、入籍し、披露宴に出席しても、佐藤は汐見を諦めきれず、悶え苦しんだ。


 その後は気持ちを宥めるために手当たり次第に汐見に似た面影のある女性を片っ端から抱いた。

 だが──全然満たされなかったのだ。心が。気持ちが。


 そして勃たなくなったあの日。


(本当に、俺は汐見限定なんだ……そう悟った時の絶望を、汐見に理解してもらえるだろうか───)


 どこが、とか何が、とか理屈じゃなかった。


(とにかく汐見が欲しい。全部欲しい。心も、体も、全部。汐見潮を構成する全部。汐見の残りの人生の時間全てを俺のものにしたい)


 だが、現実的な佐藤の理性が囁く。


(何の準備もできてないお前に今そんなこと言ったら、絶対引くだろう? ……だから、俺は今回のこの期間に……ゆっくり、少しずつ、お前に俺を恋愛対象として見てもらえるように……)


 この7年越しの片想いに決着をつけたかった。


(それでお前が俺のことを受け入れられないって言われたら…………どうなるんだろうな、俺は……)






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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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