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062 - 病院で2人(8)


 

  ◇◇



 原口医師との面談が終了し──


 佐藤は昨日、今日の2日で一体どれだけ汐見夫婦に関する情報を入手してしまうのかと、怖さすら感じていた。


 ひとまず病室に戻ろうと、汐見と佐藤は2人連れ立って歩きだした。


(紗妃と話すのは午後になりそうだな……)


 そう思った汐見が、当たり前のように自分の横を歩く佐藤の横顔を見上げる。


「お前、今日、どうするんだ?」

「ん?」

「オレは原口先生の呼び出しまで待機するが……昼飯とか諸々だよ」

「あ、あ~……」


(……一緒にいてやりたい……いや、一緒にいたい、って言ったら引くか?)


「んー。呼び出しまでは俺も一緒にいるよ。紗妃ちゃんとの面談?も同席することになるかもしれないし……その後は一旦、出るわ」


 眉間を揉んで、佐藤は返した。


(買い出しに行かないとな。汐見用の日用品もそうだけど食材とか必要なもの買っておきたい。汐見がどれくらい俺ん家にいることになるかわからないけど、2人っきりでいられる時間をできるだけ長くしたいしな……あ、明日、有給取ります、って朝イチで連絡しないと!)


 汐見と2人きりになれたからと言って何が起こるわけでもない。

 だが、病院で2人きりになったところで頻繁に邪魔されるくらいなら自宅で汐見と過ごす方がいい。

 それなら汐見が病院にいる間に買い物など外出の用事を済ませて、一緒に家に帰ってからずっと汐見に張り付いていよう、と【汐見と四六時中いられるための計画】をザッと脳内に描いて行動することに決めた。

 


 病室に戻ると、汐見は先ほど原口医師から渡されたメモを見て、スマホで色々検索していた。

 佐藤はそのスマホの画面を汐見の肩越しに後ろから覗き見ながら、汐見の横顔を観察していた。


「……解離症とパーソナリティー障害って、そんなことあるのか……」

「でもまだ確定じゃないんだろ?」

「症状はほぼ同じだ……」

「……」

「オレが不甲斐ないから……」

「それは違うだろ」


 弱音を吐いた汐見に、即座に佐藤は反論した。


「紗妃ちゃんのことは……今後も含めて大変だと思う。けどお前が罪悪感を感じるのは違うだろ」

「……」

「これから色々やることあるんだろ? 紗妃ちゃんのあの様子だとやらないといけないって言ってたこと全部お前がやらないといけないんじゃないのか?」

「!」

「何やるのか知らないけど」

「……弁護士に……連絡しないと!」

「? あ、あぁ紗妃ちゃんに慰謝料請求した、あの?」

「そうだ! 10日以内に返信しろって……今、何日だ?」


 木曜日に文書が届いて、今日は日曜日。つまり、通知書が届いてから4日が経過している。


「落ち着けよ、まだ時間あるだろ」

「だ、だが……あんな大金……」


 すると、まだ食事時間には早いのに、ナースコールが響いた。

 汐見が受けるといつもの柳瀬ではなく、原口医師だった。


『大変申し訳ありません。どうやら紗妃さんの様子が急変したらしくて。お昼の面談は中止にします』


「え?! 何があったんですか?!」


 慌てふためいて汐見がコールのマイクに縋り付く。


『私もよくわからないんですが、観察していた看護師の話によると、突然暴れ出したようで……』

「「!!」」


 佐藤と汐見が2人揃って顔を見合わせた。


『怪我の方は問題ないようですが、彼女の内面で何かが起きてるんだと……』

「ど、どうしたら……」

『とりあえず、このままICUに置いておくのは危ないということなので、一旦病室を移動します』

「はい……」

『後程、追って色々と連絡しますね』

「わかりました……」


 自分の退院は明日だというのに、結局紗妃について何も為す術はないのか、と思って、汐見は途方に暮れた。

 ベッドの端に腰掛けて悲嘆に暮れる汐見に、慰めの言葉をかけたかった佐藤はその隣に座り


「こんなこと言っても慰めにならないかもしれないが……紗妃ちゃんをちゃんとした施設で見てくれるならその方がお前たち夫婦にとってもいいことなんじゃないか?」

「!」


 それが、現実的なんじゃないか、と口添えした。


(そもそも普通はこんなこと起こらない。こんなの1人で対応できるわけないだろ)


「原口先生も言ってたけど、お前は1人で抱え込みすぎなんだよ……俺、何も知らなくて……なのにあんな……」

「……それは言わなかったオレが悪いだろ」

「だから、なんでもかんでも【自分が悪いって思うな】、ってことだよ」

「だが……」


 何でもかんでも自分のせいにしたがるのは汐見の習性クセだ。

 だが、その思考習慣が、責任感が強く、誠実で、魅力的な汐見を作ったのは間違いない。誰かのせいではなく自分のせいだから、自力で解決する、解決したい。

 そうやって汐見は生きてきたんだろう。今も昔も。


(でも、それと〈春風〉が別人格を持ってることは別だろ)


「紗妃ちゃんがあの状態なのは、お前のせいじゃないだろ。『辛い記憶が別の人格を作った』って。それはお前が罪悪感を抱えることじゃない」

「……」


(俺は汐見と結婚した〈春風〉が嫌いだが、同情はする。だけど、それだけだ。俺との約束もあっただろう。それはどこに捨ててきたんだ〈春風〉……(


「……原口先生が、『きっかけがあったんじゃないか』って言ってただろ」

「ん? あ、ああ、そんなこと言ってたな、そういえば」

「オレが、紗妃の【逃げ場所】にならなくなったきっかけが……」

「……汐見?」


 佐藤からは俯いた汐見の表情が見えない。

 病院に来てからというもの、汐見らしさが半分もない、と佐藤は感じていた。


「……あったんだ。【きっかけ】が」

「?!」






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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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