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004 - 大学の同期との飲み会(1)


 本日、6月23日(木)の3日前の月曜日、俺の繁忙期が終わるタイミングを見計らったかのように大学の同期から「飲みに行こう」と連絡があった。

「平日だからあまり時間ないぞ」と断ろうとしたが、相手から「おれも明日仕事だからそんな時間まで飲まねぇよ」と返された。


 チェーン店の居酒屋に到着し、連れが先に入店してる旨を伝えるとホールに響く喧騒をあとにして個室に案内された。


「おーッす!」


 顔を見た瞬間、ビールジョッキを掲げた相手に景気の良さそうな声をかけられた。


「よぉ、久しぶりだな」

「お前もな!」


 隣県の会社勤めのこいつ・坂田均とは大学2年からの付き合いだ。

 学部が違っていたからサークルで知り合ってからの飲み仲間で、フットワークが軽くネットワークも広い。俺も割と人脈はある方だがこいつには敵わない。


 坂田はとにかく懐に飛び込むのが異常に上手いやつだった。

 なんだったら飛行機で隣席になった気難しそうなおいちゃんと2時間会話しただけで、何年もメールのやりとりをしちまうくらいだ。


「わざわざ遠征してまで来るって、お前、暇なのか?」

「佐藤くん……相変わらずお仕事以外では塩対応なんデスネ?」

「……何を今更……俺のキャラ作りだっつってんだろ」

「そりゃそうですヨネ~」

「お前が他己紹介の時に変なこと言ったのが原因じゃねぇか。あ、生一つ、これと同じので」


 隣に来た店員から受け取ったおしぼりで手を拭いながら、坂田が飲んでるビールを指差して注文する。


「え~、おれは親切ゴコロで君を助けたノニ……」

「……なにが親切心だ。ネタだろうが。バカみたいに『佐藤は砂糖みたいに甘いからな~』とか。あの後、真に受けた勘違い女子が大量に湧いて大変だったんだからな……」


 まぁ、そういう女性は未だに若干湧くんだが。


「まぁでも、あの時の他己紹介でお前の認知度はかなり上がったじゃん?」

「ただでさえ面倒なんだから、認知される必要はなかったんだ」

「冷たいなぁ、ホント。お前は砂糖じゃなくて、塩だよ」

「お前に言われたくない」


 どこか懐かしい軽口を叩きながら、汐見とは違う会話の妙を楽しむ。


「で? 珍しいじゃん。深酒するのが大好きなお前がこんな平日に呼び出してまで誘うとか」

「っあー、うん……」

「? どうした?」

「……おれとお前の仲だしなぁ……」

「?」


 ぐびっとジョッキを思い切り傾けて坂田は大きく一口を飲み干すと、自分の手前のおしぼりにドン! と置いた。


「お前のさ、なんだ? その、同僚? だっつったっけ? シオミ? っているじゃん?」

「ああ、汐見。ん? 俺、お前に汐見の話したっけ?」

「ん、ちょっとな」


 ますますわからない。こいつと汐見に接点があったか?


「よからぬことを聞いてしまってだな……」

「へ? 汐見が?」

「まぁ~、シオミくん? は、春風紗妃と結婚したんだな?」

「? なんだ、お前? 春風紗妃まで知ってるとは、どこまで繋がってんだよ~、こえぇなオイ……」

「だよなぁ、おれもそう思うぜ……ったくよ。で、お前、春風の話、知ってんのか?」

「は? なんのことだ?」

「そうだよなぁ……」


 は~~~っと、坂田はでっかいため息を漏らすと、ごくり、とビールではないものを嚥下して俺に向き直った。


「春風紗妃はおれの元同僚だ」

「は? って、前職はお前の会社にいたってこと?」

「そうだ」

「ぅわ、こわッ! 世間、せまっ!」

「だよなぁ……」


 ふう、とまたため息をついてる。

 どうした坂田? 今日はお前らしくないな?


「……で? 何か問題でも?」

「……退職理由とか……知ってるか?」

「はぁ? 知るわけないだろ、そんな個人情報」

「だよな……」

「なんだよ、俺の同僚の幸せにイチャモンつける気か?」


 俺が、あいつを諦めるためにどれだけ苦しんだか、こいつは知らない。

 俺の事情を知らない相手に言うつもりもない。

 だけど、知らないが故にそういう話題ですら心を抉られる。


 もう十分だ。

 俺はもう十分傷ついて、ようやくあいつを諦めることができたんだ。

 今更、あいつの嫁に関する情報なんか知りたくもない。


 俺も勢いをつけてジョッキを傾け、大きくあおる。

 坂田と同様、俺が自分の手前にドンっ! とジョッキを置いたのを見た坂田は


「春風紗妃の退職理由はな……」


 珍しく真顔になって吐き出した。


「【会社の上司との不倫】だったんだ」

「!!!!」


 ガシャっ!


 俺は、とうとう持っていたジョッキを今度こそ落っことした。

 幸い、空だったので被害はなく……


「そ、それって……」

「……これは社内でも一部しか知らない。おれはたまたま寝物語に人事の人間から聞いちまったんだけどな……」


 坂田、お前なら凄腕のスパイになれるぞ! と関係ないことを考えてハクハクしながら坂田の顔を見ると……


「で、でも! それが理由で退職したんだったら、もう関係な」

「それだけなら、おれだってわざわざ平日にお前を居酒屋まで呼び出したりしない」


 いよいよ悲愴な顔つきをした坂田が、ギッと俺に視線を合わせて言い募った。


「その上司と今も会ってるらしいんだ。春風紗妃は」

「!!!!」







※GM:General manager=ゼネラルマネージャー。経営や経営企画に関して決定権を持つ(主に欧米の)管理職のこと。

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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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