表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/211

038 - 事情聴取(1)


「とりあえず、今回は簡易的な任意の事情聴取、という形になります。よろしいですか?」

「はい」

「あなたには黙秘権と拒否権があります。ただし、嘘の報告などが発覚した場合、後日、偽証罪ぎしょうざいあるいは詐欺罪に問われることがあるのでその点は気をつけて話してください」


 でかくて厳つい男が前口上のように述べたその文言で汐見の身が引き締まる。でっぷり腹の方が上司なのだろう、でかい男の方がメモを取り出して筆記と聴取の姿勢をとる。


「では、汐見潮さん、救急車で運ばれる前に貴方を見ていた第三者がいたのは木曜日の何時ごろですか?」


 でかい男の思った以上に丁寧で穏やかな口調に佐藤は驚いた。


「……たしか……午後3時半くらいだったと思います」

「なるほど。救急車で運ばれるまで、かなり時間が空いてますね。それはどこだったんですか?」

「会社です。3時ごろに会社で上司に呼び出されて、帰るよう促されました」

「? 退社するには早いですね、どうしたんです?」

「……会社に……内容証明郵便が届いたからです」


 佐藤はここで脳内に再度、疑問符が飛んだ。


(内容証明? 会社に? というか、その日の午前中、俺ら自販機前で会ったよな……)


 案の定、でかい男はでっぷり腹と顔を見合わせて訝しみ、再度聞き返す。


「? 会社に?」

「はい。内容を確認して連絡するように言われたので早上がりするよう指示されました」

「? その場で確認すればよかったのでは?」


(そうだよな。なんでわざわざ……)


「いえ……その内容証明は紗妃……妻宛てだったので」

「えっ!」


 思わず声が出た佐藤は慌てて口元を抑えて「す、すみません」と謝罪する。一瞬2人組は佐藤を見たが、また汐見に向き直る。


「? なぜ奥さん宛ての内容証明があなたの会社に届いたんです?」

「……妻の元いた会社だから、だと思います……」


 最後の方は、呟きつつ俯いていた。


「そうでしたな。奥さんとあなたは職場結婚だ。しかし……たしか、奥さん専業主婦では?」


 でっぷり腹が持っている情報で合いの手を入れる。


「そうです……去年、退職しました……」

「なぜ去年退職した奥さん宛ての郵便が、前職の勤め先とはいえ、あなたの会社に?」

「……脅し……だったのだと……思います。あるいは僕に知らせるために……」


 暗い表情を隠すように俯いていく汐見に、佐藤は思わず声をかけたくなるのを堪えるのに必死だった。

 焦れたでっぷり腹がハンカチでこめかみの汗を拭きながら少し大きな声で


「? 要領を得ないですな。その内容証明郵便はどういう内容だったんです? 貴方には黙秘権があるし、奥さんの話なら言いたくないことも多いでしょう。しかし、ここはできれば正直にお話し願いたい」


 そう問うと


「……通知書、でした……」


 汐見が、らしくない、か細い声で答えた。


「通知書? 何の?」

「慰謝料の請求です」


(あっ!!)


 事ここに至り、佐藤は自分が木曜日の夜に得た情報と汐見の供述している内容の符号を合わせてしまった。


(こんなに早く!?)


 佐藤が同期の坂田から情報を得たその日のうちに内容証明が届いていた。ということは思った以上に迅速に不倫男の妻・女社長が動いたということだ。

 つまり、それだけの逆鱗に触れたのだ──〈春風〉は──


「奥さんに慰謝料? 奥さん何かしたんですか?」


 不審がる刑事二人組と、消沈した汐見の顔。

 もうこれ以上聞いてくれるな! と佐藤は叫びたかった。だが───


「……妻が……」


 汐見は唇を引き締めて顔を上げ、でっぷり刑事の目を見据えた。


「不倫を……して、いると……」


(あぁ……汐見……お前……!)


 思わず声を上げてしまいそうになった佐藤は、必死で唇を噛んだ。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お読みいただきありがとうございます。
今後とも応援いただけますと大変励みになります。

─────────────────────────

◆人物紹介リンク(1)

▶ 登場人物紹介・イラストあり(1)◀


─────────────────────────

◆人物紹介リンク(2)
▶︎▶︎前半部未読の方はご注意ください◀◀

▶︎ [7章開始前 ] 登場人物紹介(2)◀


─────────────────────────

▼ 他 掲載作品 ▼

君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ