表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/211

001 - Sugar and Salt

   ──── 佐藤視点<1> ────

 

 磯永コーポレーションは創業50年になる中堅企業である。

 全国9箇所に支社を持ち、本社に勤める従業員は2,000人、支社を含めると3,000人強規模の会社だ。


 本社は東京都港区に居を構えており、社屋は地上12階建て、10ある部署では数名の管理職が従業員をまとめている。


 佐藤甘冶(さとうかんじ)31歳は営業部で常にトップの成績を叩き出しながら新卒入社以来7年強勤務しており「磯永コーポレーションで営業といえば佐藤」と言われるほどの看板男だった。


 そんな看板男には、人知れず悩みがあった────




  ◇◇◇◆◇◇◇




 ──2022年6月────


 月の初旬に梅雨入りした東京では、湿った空気が衣類に纏わり付き、スーツ姿で外回りをすると湿気と雨と梅雨冷えの気温の高低差に悩むようになる。


 ここ数日は忙しく過ごしていたが、それも一段落したため、俺・佐藤甘冶は今日、久々に定時で上がる予定だった。


「お疲れ様でした~」

「お疲れ~」


 久しぶりに大学の同期に誘われて飲みに行く予定だった俺は課の出口のドアノブに手をかけ、退社挨拶をおざなりに残して出て行こうとすると


「あ、あのっ! さ、佐藤先輩! い、今からちょっとだけお時間、ありますか?」

「あー……」


 女性が声をかけてきたので、一緒にドアの外に出て立ち話の体勢を取った。


 確か、先月同じ課に転職してきたばかりの子だ。

 肩口で切りそろえられた可愛らしいボブヘアーに控えめなピアスとネイルのバランスがいい。

 まだ外回りの仕事もないのに春らしいおしゃれなワンピースを着てくる第二新卒の20代の女性。


 頭の中でその女性の情報をさらった。


「えっと、溝口さん? だっけ?」

「は、はい!」

「お誘いありがと。でもごめん。今日は予定があって急いでるからさ」

「あ、あっ! っす、すみません! 急にお誘いしてしまって……!」

「いやいや。でも……」


 ぱっと彼女の姿を一瞥する。

 いつもより気合の入ったワンピース。

 ネイルが心なしか前に見た時よりキラめいていて、よく見ると昨日は目立たなかったピンク色のチークがほんのりと濃い。


「この課は当社一イケメンが集まるとこだからさ、これから営業から帰ってくる()()()()()イケメンを狙った方がいいと思うよ?」

「そ! そんなことっ!」

「じゃあね、また明日」

「……はい……」


 彼女みたいな女性の希望はどこか薄ら寒い。透けて見えるのがわからないのだろうか?


(いや、まぁ童貞ならわかんねぇだろうな……)


 我ながら邪推がすぎると思う。

 思うがしょうがない。

 イケメン度数を保ってはいるが、俺はもう三十路だ。

 いまだに割とモテるが、手当たり次第にどうこうするって年齢は過ぎたので女性からの誘いも減った。


 女性の女性らしさを武器にしたその手のお誘いに、ちょっとした計算高さが見えると一気に冷める。

 童貞だった10代の頃、それもまだ自分が普通だと思ってた時期からするとスレっからしになっちまったなぁ、と思ってしまう。


 そんなふうに感じるようになったのは、きっと、あいつのせいだ。


 あいつ・汐見(しおみ)(うしお)は、狡猾さと計算高さがなければ仕事が立ち行かない俺・佐藤(さとう)甘冶(かんじ)とは違い【計算高さ】とは無縁の世界の住人だった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お読みいただきありがとうございます。
今後とも応援いただけますと大変励みになります。

─────────────────────────

◆人物紹介リンク(1)

▶ 登場人物紹介・イラストあり(1)◀


─────────────────────────

◆人物紹介リンク(2)
▶︎▶︎前半部未読の方はご注意ください◀◀

▶︎ [7章開始前 ] 登場人物紹介(2)◀


─────────────────────────

▼ 他 掲載作品 ▼

君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ