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196 - 佐藤と汐見(9)贖罪

   ──── Chapter 12 ー 三人称視点(4) ────


 汐見の、その問いかけは半ば脅しだった。そう言えば、佐藤が反論しにくくなるだろうことを予想して。


「し、汐見! そ、それ、は!!」

「オレの子供はもう未来永劫見ることはできない。なら、お前の子供くらいこの手に……抱かせてくれ……」

「そ、そんなことっ! ……お、お前っ!!」


 佐藤は混乱していた、今さっきまで自分の中に淡く甘い何かが漂っていたのに、それを全て破壊するような汐見の言葉が信じられなくて。


「お、お前は! 俺が、そのっ! きっ、嫌いなのか?! それとも……!」

「……お前が……」


(……もう逃げられない、な……)


 汐見は観念したように、言葉を探して。でもそれ以外の言葉が見当たらず───


「好きだよ、佐藤」


「!!!!」


 声に想いを、眼差しにいつくしみを込めて。気持ちとともに、告げた───


「お前と……同じ意味で」


「しっ、しおみっ!!」


 この期に及んでまた何か言い訳らしいことを言い出すなら、今度こそ汐見を問い詰めようとした。


 なのに、汐見はあっさりと、眩しそうな顔で微笑みさえたたえて、佐藤に言った。


「っな、なら! なんでっ!」

「好きだからだ。お前が」


()()()()()()()()だ……)


「?!?! っい、意味がわからない!」


()()()()()()()()()()は、オレにはできない」


(……紗妃でさえ……彼を、巻き込まなかったのに……)


 不倫の代償に様々なものを支払うことになった元妻のことを思う。


(オレが、お前を選ぶ先に待つ……何も残せない……未来を……)


「なんだよ! 不幸って!」

「不幸、だろ……男同士で一緒になって、どうなる……」


(……その未来に……()()()()()()()()()()()日が、来たら……)


 自分と佐藤が想いを遂げて歩む未来に、今度は()()()()()()()、その時が来たら。


「ど、どうなるって! す、好きで一緒にいるなら! 誰にも迷惑がかからないなら! 問題ないだろう!?」


(オレはきっと……今度こそ、自分を許せない……)


「……男同士、で…………何も、残してやれ、ない……」

「!!」


(お前には、子供ができる、可能性がある……なら……)


「それに……【()()()()()()】だ……」

「っそ、そんなのっ!!」


 汐見は、自分にかけられた()()()()()()()を、胃の底から吐き出した。

 その呪いを再び、自分にも掛けようとして。


「お前……彼女が、いただろう? 男に性的な欲求を感じるのか? 違うだろう?」

「!!」


 だが、それ以上に佐藤に、一番大事だと、最も失いたくないと思ってしまった、佐藤に


「きっと、それは()()()()()()みたいなもんだ」

「!!」


 ──自分の()()()()()()()()()()


()()……()()()()()()()()……だ……」


(そんな顔して……オレを、見るな……お前は、加藤じゃない……のに……)


 言い募る汐見を愕然と見ていた佐藤の顔がみるみる内に歪んでいく。


(? 佐藤?)


 滲んでいく佐藤の顔に、悲しいような苦しそうな感情を見て、汐見の言葉が止まる。


「……汐見……お前、本気で……そう思って、言ってるのか?」


 いつもなら、汐見に否定意見を出されると混乱するはずの佐藤の方が、汐見以上に冷静で。


「どう、いう……」

「……汐見。お前……また……」

「ぇ……」


 今度は佐藤が、小さなハンカチを汐見に差し出す。


「……泣きながら、言うことじゃない、よな?」

「?!」


 言われて初めて、汐見は自分の目から再び熱いものがしたたってるのを自覚した。


(……お前は、そう思って今まで……生きてきたのか……)


 佐藤の胸に哀しみが去来する。

 異なる環境で育った汐見と自分とではきっと価値観も人生観も違う。


 そのことを如実に表した言葉。

 それがようやく佐藤にもわかった。


(……お前にとって、血を分けた家族を作ることが1番で、夢、で……)


 その夢が果たせないことを知って、絶望したであろう汐見の影を、佐藤は理解した。


(俺に……その夢を……)


 自分が果たせなかった【夢】を、誰かに──


 自分を好きだと言ってくれた佐藤。

 佐藤のことが好きだと自覚した汐見。


 ()()、最も身近で、最も大切だと思っている()()()()()ことで、汐見は自分を慰めようとしている。


(……()()()()()()、している……)


 夢を実現する可能性が高い、自分を好きだと言う佐藤を()()()ことで。


(……〈春風〉と別れた自分を……責めて……)


 自分が佐藤と共に歩む人生では、佐藤に「何も残してやれない」と言った。

 そう語る汐見の胸中が、佐藤にも少しだけ、わかる気がした。


(お前は……そうなんだな……)


 だが、佐藤は思っていた。


(……子供を作らないと、俺が、不幸? なんで?)


 佐藤自身が思う幸せと、()()()()()()()()()()()


 そこには()()があると。


(俺は……お前しかいらない)


 それを、佐藤は冷静に見つめていた──正確に判別していた────


(お前が勝手に、俺に夢を託して……俺を諦めようとするなら……)


「なぁ……汐見……」

「……」


(俺は、お前への気持ちを……諦めたりなんかしてやらない、絶対に )






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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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