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188 - 佐藤と汐見(1)面影

   ──── 視点切り替えあり<2> ────


◇【同名】エピソードの 佐藤視点(Side:佐藤) と 汐見視点(Side:汐見) は同一時系列.

 ▷ エピソード名が異なる場合 時系列は別.


◇ エピソード横に何も付記していないのは 三人称視点 になります.

 ▷ 三人称視点は同一時系列ではありません.


■最終章直前につき、視点移動が激しくなっております. ご了承ください.


   ──── Chapter 12 ー 三人称視点(1) ────


(仕事終わってから外で、つってたけど……)


 佐藤は玄関ロビーの出入り口付近に立っていた。

 社内の人間のほとんどが佐藤の存在を知っており、また、その容姿のため女子社員のチラチラした視線が刺さっている。


(連絡するって言ってたのに……まだ来ないし……)


 確かに開発部は午後6時が終業時間の営業部とは違い、1時間遅い。だからこそ、汐見は連絡するから待て、と言っていたのだが、佐藤はお昼後に聞いた女子の噂の真相を確かめたくて仕方がなかった。


(会議室を出る直前に感じた違和感は間違ってなかったんだ……でもそれならそうと、すぐ言わなかったのは、なんで……)


 会議室から引き上げる間際、携帯に出た汐見に感じた違和感。

 その違和感が間違いなかったことに佐藤は驚くと同時に、汐見の些細なことにさえ気づいてしまう自分を自覚する。


(あー……乙女だ、俺……)


 内心で顔を覆うほど、恥ずかしい。だが仕方ないとも思う。


(7年以上になる……片想いから……それなのに、3年前〈春風〉と会った時、俺が『女だったら』って考えてたって……)


 じんわりと、温かいものが心に滲んでいくのがわかる。


(汐見もそう、思ってくれてたのか……)


 汐見に似た面影を持つ女性を追い求め続けていた自分。


 ()()()()()()()()」と思った紗妃に見惚れて、結婚した汐見。


(これ、どっちもどっちじゃないか? ……いや、もう嬉しすぎて飛び上がりそう……)


 汐見からもらった言葉1つで、佐藤は何度でも天にも昇る心地を感じる。


(これって、りょ、りょうおもい、だよな……きっと…………でも、返事じゃないっつってた……って、どういう……?)


 最後に言い残した汐見の言葉が気になって仕方ない。だが、会議室での言葉を


『……お前が女だったら、こんな感じだったのかな、って……思ったんだ』


(あぁぁーー!! やばい! もう!! 俺、今日、死ぬのか!?)


 何度も脳内再生していた。その後の、少しはにかむような苦笑する笑顔にさえ、タチそうになる。


(落ち着け息子……こんなところでXXXしたら、通報される!)


 精神統一して股間に意識を集中し、鎮静化させていると


 ポロン とようやくLIMEにメッセージを受信した。


『今、出る』


(!!)


 開発部が終わる5分前なのに仕事中の汐見から連絡が来るのは珍しい。

 そのことに浮き足立つ佐藤の気持ちを知ってか、玄関ロビーから移動する前に、汐見は佐藤を捕まえた。


 2人で歩き出しながら会話を始めると


「悪い。長期休暇明けの仕事量は地獄ってのは本当なんだな」

「あったりまえだ。お前がこんなに休むのって……初めてじゃないか?」

「うん……そうだな……」


 汐見がマジマジと自分の顔を見ているのに気づいた佐藤が質問する。


「? 何かついてる?」

「……いや、目、腫れなかったんだな、と思って」

「!! っ……きゅ、給湯室行って、すぐ目、冷やした……ありがと」

「くくっ バレなかったか?」

「……多分……大丈夫……」

「なら良かった。お前がゾンビになってるって皆が言ってたぞ」

「え!?」

「とりあえず、腹減ったから、どっかで飯にしよう」

「近場だと……ファーストフードとか?」

「いや……なんかちゃんとしたの、食べたい。……ってお前、それ、何?」


 そう言って汐見は佐藤が持ってるキレイな感じの紙袋を指さした。


「あっ、これ……その……汐見……遅くなったけど、誕生日おめでとう」


 語尾が小さくなりつつ、佐藤が汐見に差し出す。


「え? あ?! オレの?!」

「うん……」

「……お前……オレが今日来るって知ってたのか?」


 汐見が出社するタイミングで渡そうとしていたのかなんなのか、どうして今日、こんなものを? と思って尋ねると


「……1ヶ月前には……買ってた……」

「は、あぁ?!」

「誕生日、先週の日曜だったろ……だから、その……買いに行くタイミング、外したら嫌だから、早めに買っといて……その……会社に置いてた……先週には……」

「……あ、りが、とう……」


 そう言った佐藤の顔は夕陽のせいか、本人の火照りなのか、紅潮している。真っ赤になりながら俯いたのを見た汐見は、それだけで胸が苦しくなる。


(お前さ……お前……)


 佐藤が自分からどういう言葉が欲しいか、期待しているか、わかる。

 わかるだけに、どうすればいいのか汐見にはわからない。

 少しの沈黙がありながら歩いていると、佐藤が意を決したように、だがさりげなく、汐見に聞く。


「あの、お前、その……左手……の……」

「ん?」

「その……指輪……」

「ああ……」

「な、なくした、とか?」

「……いや……」


(正直に、話さないとな。……こいつが、ここまでするなら…………)


 汐見がポケットから何かを握ったまま、佐藤に差し出す。


「これ」

「へ?」


 釣られて佐藤が手を出すと、掌には──佐藤の小指にすら入りそうにない、小さな銀の指輪が乗せられた。


「?! これ?!」

「……紗妃がめてたやつ。オレが嵌めてたのは紗妃に、返した」

「!!」

「え? は? かえした??」

「ああ……」


 その指輪がサイズ的に自分へのものではないことは瞬時にわかったものの、渡された意味がわからずに佐藤は困惑していた。

 佐藤の大きな掌に乗るとオモチャのように見えるその指輪をつまんで汐見が呟いた。


「こんなに……小さかったんだなぁ……」


 自分より大きな佐藤の掌に乗った紗妃のサイズの指輪が、あまりにも小さくて笑ってしまう。自分だって紗妃に比べれば大きかったはずだ。

 だが、それでも、つい考えてしまう。


(紗妃は女性でも小柄な方だったからな……小さくて、可愛いってのも……わかる、けどな……)


 摘んだ指輪のその丸い穴から沈みそうな夕陽をかざして見る、汐見の穏やかな表情を見て、佐藤が質問した。


「な、なんで……〈春風〉の指輪?」


 佐藤が聞き返す。その困惑している佐藤の様子を見て、汐見は笑いながら


「……質屋に……持って行こうかと思ってさ」

「は?!」


 ゆっくりと呟くように言った。


「……持ってても……意味ないからな……」

「って! ど、どういう?!」

「……お前は……わかるだろ」

「!!」






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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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