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183 - 出社(3)疑念と錯誤


 佐藤は、驚きつつ、でも汐見に連行されることすら嬉しくて、涙腺の次は頬が緩みっぱなしだった。


(……会社に来たってことは……どういうあれかわからないけど、でも……よかった……俺見て嫌な顔しなかった……)


 汐見がどういう話をするのか、佐藤は予想すらしていなかった───


 開発部のドアの前に着いた時から少し息が上がっていた佐藤は、足早に進む汐見の背中を見ながら


「ちょ、っと……待って……」


 上がる息を整えるため立ち止まった。


「? なんだ?」

「ごめっ……」

「具合でも悪いのか?」


 両膝に両手をついて呼吸している佐藤の顔を、汐見は不意に覗き込む。


「っ! っちょ! 近い!」

「あ? ……あ! あぁ……すまん」


 佐藤はもう限界だった。


 この目の前にいる同僚に告白をしたのだ。2週間前に。

 汐見本人に、問い詰められるように聞かれて、言わされて。


(その直前には、思いあまって後ろから抱きしめ、て──)


 告白をしてから何の連絡ももらえないまま時間だけが過ぎた。

 返事はまだもらってない。


 今日もらえるのか、もしかして今もらえるのか。それすらもわからない。

 わからないけど、これだけは佐藤にもわかった。


(でも、汐見の態度が変わらないってことは……)


 喜んでいいのか、悲しんでいいのか、それすらも佐藤は考えたくなかったが。


(本当に……汐見は俺のこと、なんとも思ってないんだな…………)


 悲しい気持ちが佐藤の胸を覆い尽くそうとする前に、汐見が


「とりあえず、会議室、入るぞ」

「……あぁ……」


 そう言ってドアノブの近くにある小さなパネルに暗証番号を打ち込んだ。


 ガチャッ と開錠する音が聞こえ、勝手に開いたドアに汐見が体を滑り込ませると、佐藤がそれに続いた。時計を見ながら汐見が告げる。


「ここ、10時から次の予約が入ってるから、それまで、な。……まぁ、30分くらい……か」


 汐見がそう言って振り向くと、佐藤が至近距離に立っていたのに驚く。


「……な、んだ……お前……も、ちかいぞ……」

「……」


 ごくり、と佐藤の嚥下する音が響き、その音が汐見の耳にも届く。

 10cm下にある汐見を凝視する佐藤の視線が、汐見の顔面に突き刺さる。


 佐藤に2週間前の返事を催促されるだろうことは予想していた。


 だが、今すぐ返答するのは難しい。だから、とりあえず仕事の後で、とLIMEを送ったのに。


「……見過ぎ」

「っあ、ごめ……」


 はぁ、と汐見は短くため息をつくと部屋のど真ん中を占領してる会議テーブル沿いに並んだ椅子のうち、2台引っ張り出して、1つを


「ん」


 佐藤の前に置いて座らせる。汐見はその隣の椅子に座った。


「……汐見……その……」


 言いたいことは山ほどある。だが、何から話すべきか、佐藤は考えあぐねていた。


(顔見たら安心して……それだけじゃないのに……)


 佐藤が考えている間、汐見も考えていた。


(主導権はオレが握ろう。佐藤の気持ちはわかっている……だが、その前に……)


 汐見の顔を見る佐藤。しかし、ふい と視線を外したりする。

 少し顔を赤くしている佐藤を見て汐見は、佐藤に対する気持ちとは別に、徐々に冷静になっていく思考を自覚していた。


「し、汐見……その、こないだの、アレ……その、へ、返事……とかって……」


 汐見は、じっ と佐藤の表情を確認するように見つめていた。


(な、なんだ? 汐見、なんか……俺の顔、凝視してないか……?)


「返事をする前に。お前に……聞きたいことがある」


 無表情な強面を維持したまま、汐見は佐藤を見つめていた。


 それを見た佐藤はただならぬ気配を感じて、姿勢を正す。


「な、なんだ?」


 一呼吸置いた汐見は佐藤の鳶色の瞳を見つめたまま。


「なんで……紗妃が不倫してること、オレに言わなかった?」

「え?!」

「……どれくらい前か知らないが……お前、紗妃が不倫してること、もっと前に知ってたんだろ?」

「!!」


(な、なんで?! どこでそれを?!)






※錯誤 =「勘違い」や「間違い」のこと

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◆人物紹介リンク(1)

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▶︎▶︎前半部未読の方はご注意ください◀◀

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▼ 他 掲載作品 ▼

君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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