171 - 後日(3) ー 回顧 - 1 -
佐藤に対する、気持ちを────
* * *
東北へは2泊3日の出張だった。
佐藤は新規案件の営業が1件で、オレは別件の開発部メインの案件だった。
支店を構えたばかりの得意先の某社が、東北でシステムの完全リプレース版を導入したいと要望してきたためシステムの納品と、その後の最終調整に現地に向かうことになったのだ。
当然、開発のプロジェクトマネージャー兼リードプログラマーだったオレが行くことになり、備え付けたばかりという市販のデータベース管理システム(=DBMS)との接続不具合の確認から始まった。コマンドからDBMSの起動と停止を繰り返し、SQLクライアントツールで抽出データを確認後、誤っていたテーブル設計の修正──再設計──に丸2日費やすことになった。
とりあえず、納品後の現場での本番環境への導入が一番緊張する。今回は少し手間取ったものの、なんとか無事終えることができた。
佐藤の商談も成功したらしく、明日帰るというその日は2人して久しぶりに浮かれていた。
地酒の利き酒ができると聞いていた店に入り、オレと佐藤は久しぶりにうまい料理と勝利の美酒に酔い痴れた。
佐藤と違ってオレはそれほど酒に弱い方じゃない。飲んで酔うと眠くなるタイプのオレはその時の佐藤の酔いっぷりがすごく、さすがに心配になってペースを少し落としていた。
初めて見るくらい陽気になっていた佐藤は酔った勢いだったんだろう。珍しくオレの肩を組んでクダを巻き始めた。
『なぁ、紗妃ちゃんは美人だけどさ、嫁としてはどうなんだ?』とか
『まさか本当に結婚するとはなぁ』とか
『社内一の美人なんだぞ、ちゃんと大事にしろよ』とかだ。
言われなくてもわかってる、と言いたいところだったが、その笑顔になぜか哀愁が漂っていたのを覚えている。
肩を組まれたまま、オレは佐藤に酒を注いでいたが顔の紅さが首あたりまで来てるのを見て、いつだったかの「日本酒は悪酔いする」という佐藤本人の発言を思い出し、それ以上飲まないようにストップをかけた。
『おい、もう止めとけ。なんかお前、顔色? おかしいぞ?』
そう言って盃を取り上げると
『そんぁことらぃってぇ……ぁ~……れも、れむい……か、も……』
舌も回ってなかった。大丈夫か? と思いつつ観察していた。
『ちょっと……ねる……』
そう言って佐藤はオレの隣で仰向けになって寝始めた。だが、みるみるうちに苦しそうな表情をし始めて
『佐藤?』
オレが話しかけても揺すってもつねっても反応をしなくなってしまい……
『おい! 佐藤?!』
慌てて佐藤の手を触るとさすがの東北でも7月後半の夏場なのに冷たく感じられた。
オレはちょっとどころじゃなく、激しく動揺した。
この時のことを思い出すだけで気分が悪くなる────
その症状は、数年前の新人歓迎会で遭遇したことがあったからだ。
急いで佐藤のネクタイを緩めてジャケットを脱がし、佐藤の体勢を横向けにすると大声で近くにいる店員を呼んだ。
『すみません! 救急車を呼んでください!』
『どうしました?!』
そこからはもうバタバタだった。
救急車が来るまで佐藤を動かすことはできないため、オレはいつ吐いてもいいように店員に吐瀉物を入れる容器を用意してもらった。追加で持ってきてもらった毛布で佐藤をくるんで体を温めてそばで見守っていた。
そのうち、佐藤は激しく咳き込んだかと思うと嘔吐し始めた。
オレはそれをあらかじめ用意していた容器に入れるように佐藤を支えながら吐かせる。苦しそうに吐き出した後は少し沈静化したが今度は体温の低下が著しくなり、オレは激しくなる動悸に襲われていた。
『佐藤! 佐藤ッッ!』




