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170 - 後日(2)


 スマホに映る、輪郭さえはっきりしない佐藤の白黒映像をしばらく眺めていた。


(まぁ、絶対気づいてないと思うけどな……)


 先週の金曜日に佐藤があの電信柱に来てオレの部屋を見ていることに気づいて以来、夜はベランダに出るリビングの電気を着けず、キッチンの照明だけで過ごすようにしていた。


(ベランダが明るいとオレがどこにいるかわかるから……)


 なるだけ気配を消すためにそういうことをしていたんだが、佐藤は1日置いて今日も来ていた。


(そういやこいつ、あの時の加藤と同じことしてるな……)


 思い出してから……加藤のことを考えると少しだけ苦しくなる。


 あの当時の加藤の事情や状況を考えれば、加藤本人の責任よりも家庭環境の方に問題があるだろう。


(だが……同情で……絆されるように付き合ったって……)


 オレにそういう状況の加藤を背負う覚悟も付き合ってやれるだけの懐の広さもなかった。今もそれらはない。

 なら、あの時、加藤から逃げたのは正解だったと思ってる。……思わないとやってられない。


(じゃあ、サトウは?)


 幼い声が質問する。


(佐藤は……)


 そして……吉永社長の凛々しい姿を思い出す。


『その時その時で好きになる相手が異性だったり同性だったりするだけです』


 交渉の日の後もそうだったが──最近、佐藤のことを考える時、彼女の言葉が頭と心の両方に響く。


『女性同士の方が思っていることを察しやすい、予測しやすい』


(そうだ……紗妃は()()()()で……)


『お互いの意思疎通に齟齬そごが少ない』


(オレが言ったこと、やったことへの勘違いと思い込みがひどくて……)


『予想した相手の行動や真意に乖離かいりが少ない』


(オレが何か提案すると、すぐスイッチが入って……地雷が……どこにあるのか……)


悪戯いたずらに不安になることが少ない』


(……いつも不安で……紗妃にとっての正解が何なのか……毎日……探してた、な……)


 吉永社長はオレが思っていることを代弁し、具体的に列挙しているようにすら感じられた。


 でも紗妃のスイッチが入るようになったのは──


(……オレのせいだ……オレが、()()()()()()()()()()()()()()から……)


 結婚したのに──

 何をおいても妻《紗妃》を()()()()()()()()のに────


 結婚して紗妃と過ごしていた1年間。


 不似合いな夫婦だと周りから言われつつ、一緒に暮らす内にそれなりに夫婦らしくなりかけていた。

 オレは、このまま紗妃と家族を作って、夢に描いていた理想の家庭を築くのだと意気込んでいた。


 だが──


(何かが……違う……)


 ずっと()()()()()()が喉の奥で()()()()()()()()()()()()いた。


 その違和感を払拭するためにも紗妃と過ごす時間を極力取るようにした。それまでオレの呼称に冠されていた【残業戦士】も返上して定時帰宅を敢行していた。


 新婚の年は珍しく炎上案件も少なくて済み、定時で帰れる日が増えた。年末調整の給与明細をざっと見ても残業時間の少なさに人事の人にも驚かれたくらいだ。それまでは、警備員に何度か注意されるまで残ってることが多かったから。


 だから、というべきか──佐藤と会う機会も時間もかなり減っていた。


 当然のことながら、結婚後にアパートからマンションに引っ越してからは、佐藤の家で宅飲みすることは無くなった。

 要するに、結果として佐藤と会わない日が1週間以上続くこともままあったのだ。


 その時に(あぁ、そういえば、佐藤元気かな……)と思うことはあってもあえてこちらからアクションを起こすことはなかった。


 今思うと──少し意地? になっていたかもしれない。


 いつも佐藤の方から来てくれることが当たり前のようになっていたから──何かあれば佐藤が会いに来るだろう、と。


 だが考えてみると、既婚者になった新婚男を独身の同僚がそうそう誘いに来るはずがなかったんだ。

 その考えに至らないほど、オレは佐藤から声がかかるのを当たり前だと思っていた。



 だが、1年前のあの日────




 オレが……出張で、佐藤と東北に行ったあの日────






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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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