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134 - 追憶(3)


 10畳ほどの加藤の部屋は、ドアを開けると向いが掃き出しになっててちょっとしたベランダに出られる。

 

 左手の壁側にはベッドがあり、その向いの壁際にでかいテレビが対面するように置かれてて、テレビとベッドの間には座卓がある。

 ヘッドボードは南向きのベランダの方に向いていて、部屋に入ってすぐ右手の方には机と椅子があり、普段はここで「一応」勉強しているらしい。それにしては教科書の類や勉強している痕跡は少ないが。


 座卓の上に置かれたゲーム機がテレビに繋がれていて、同じく座卓の上に二つのコントローラとテレビのリモコンが置かれていた。

 オレは背負っていたリュックを定位置であるドアの手前に置くと、いつものようにベッドに背中を預けながら座卓との間に直で床に座る。


 リモコンでテレビの電源を入れ、ゲーム機本体の電源を入れるとロードが始まって画面に表示されだした。ロード時間は3分くらいだろう。

 リュックから携帯を取り出すと、ばあちゃんに今日は少し帰りは遅くなるが夕食は食べる、と連絡をしておいた。


 ゲームのロード中の画面が表示されているテレビ画面をぼんやり見ながら、加藤の家に来るのは久しぶりだなと思って、部屋をぐるっと見回した。 


 加藤はオレが加藤の両親が不在の時にしか行こうとしないのを知っているから、あまり誘ってこない。主婦である加藤の母親が留守にする機会がそうそうないからだ。

 表立ってオレが来るのを嫌がるようには見えなかったが、それでも加藤の母親が友達を家に連れてくるのをよく思っていないのだろうということは肌で感じていた。


 その代わりと言ってはなんだが、加藤はオレの家には割と頻繁に来た。加藤の母親とは違って、加藤が来るのをばあちゃんが歓迎してたってのはあったかもしれない。

 コントローラーの一つを握ったままオレがぼんやりテレビを見ていると


『お待たせ。今日に限って美味そうなのなかった。ごめん』

『いや、別に良いって。オレそんなに腹減ってないし』

『そうか?』

『お前の方が腹減ってんだろ』

『あ、バレたか』


 そう言って加藤が盆に乗せた細長いコップ2つを座卓に置いて、いつものようにオレの右隣に座る。


『まあ、冷蔵庫に冷凍ピザがあったから後でそれあっためて食べようぜ?』

『オレ夕飯前に帰るぞ。さっきばあちゃんに夕飯食べるって連絡したから』

『ええ?!』

『?』


 あまりにも驚いた顔をした加藤を見たオレは


『? なんかあるのか?』

『い、いや、明日休みだし、泊まって行くよな~と思って……』

『明日、学校休みだけど、オレ朝から塾だし』

『……』


 明らかに残念、と言いたげな表情が一瞬雲った。


『……加藤、お前さ……』

『ん?』


 オレは、定位置でオレの右隣に座った加藤を少し見上げると


『なんかオレに話したいことがあるだろ?』


 少しの違和感を感じ取っていたオレは加藤に問いかけた。

 すると横を向いてオレを見た加藤はにっこり笑うと


『なんだよ、それ。そんなんないって』

『本当か?』

『本当だよ』


 オレは不審感丸出しで加藤をじっと見ていたが、加藤は視線を逸らすと、テレビ画面を顎で示して


『んなこと言ってる間に始まるぞ』


 ロードが終わった画面ではオープニングが始まった。

 テレビ画面を見つめる加藤の横顔にオレは話しかける。


『お前、またうまくいってないのか?』

『……』


 加藤が家に誘う時は大体が彼女とうまく行ってない時、別れる寸前ということが多かった。

 また今度もそうか、と思ったオレは、加藤が話す前に先手を打った。


『もうそろそろ受験も間近なんだから、今の彼女と別れるんだったら、早く別れて……』

『……そしたら、潮が彼女の代わりになってくれるのか?』

『……は?』


 加藤はゆっくり、顔だけオレの方に向き直り、真剣な表情で見下ろした。


『なに、言って……』

『……俺さ、性欲強いんだって』

『っは?』

『まぁね。1日に3回は抜いとかないと下っ腹、重くなるからさ』

『なん、の話だ……』


 言いながら加藤は目を細めてオレを見る。


『部活前はいっつも部活棟裏にあるトイレで抜いてんの、俺』

『?! んなこと! 聞いてねぇ!』

『うん。運動してると紛れるんだけどさ、引退してからは、な……』


 加藤はオレと会話をする気がないのか、制止を意味した言葉を無視して続ける。その視線がオレの顔、いや、もう少し下の方を向いていて。


『菜摘はさ、髪も短くて、ボーイッシュなんだけど巨乳でさ。もろタイプなんだよな』

『……』


 心なしか、加藤の体がオレの方に向いてきてるような気がする。それも、ゆっくりと──


『目も……吊りあがってる感じのキツめな方が好みで……』

『そ、そうか……』


 距離がいつもより近い気がする。

 加藤にいつもの少しおちゃらけた雰囲気が消えている。

 家族の、特に父親の話をするときのような重苦しい空気が流れる。


 奇妙な空気感を和らげようとしたオレは、座卓に置かれたコップを取って、麦茶を一息に流し込んだ。口をつけた瞬間、鼻を掠めた麦茶とは少し違う匂いの違和感ごと飲み干してしまった。

 コップを置いたオレは手持ち無沙汰にならないよう両手でコントローラーを握りしめる。


 すると、体ごとオレに向き直っている加藤の右手が、胡座をかいていたオレの右膝に触れてきて


『うしお……』

『な、なんだよ、なんかお前今日、変だぞ?!』

『……「みう」……』

『っから! その呼び方やめろって!』

『菜摘と別れたら……代わりにお前が相手してくれるか?』

『?! なにっ?』

『これ』


 そう言うと、加藤はコントローラーを握っていたオレの右手を取って、ズボン越しに自分のモノに触れさせた。


『?! っお、おまっっ!!』


 明らかに興奮している硬さと熱さだった。

 しかも、想像以上の大きさに驚いたオレは、一瞬固まってしまった。


『彼女の代わり、シてくれるん、だろ?』

『?! っんなこと言ってない!!』


 加藤のその言い草に、オレは我に返って加藤の手を跳ね除けた。


『……俺は発散できるんだったらお前でもいいよ』

『な、んだそれっ! オレは女じゃないっ!』

『知ってる……だから、さ……(こす)り合いっこしよ……』

『ふっ、ふざけんなっ!!』


 友達付き合いも3年になる加藤が、そんなことを言うなんて信じられなかった。

 オレは猛烈に嫌な衝動を感じて部屋を出ていこうと立ち上がった。


 が。


『っ……?!』


 突然の立ちくらみを感じて、そのまましゃがみ込んでしまう。


(なんだ? コレ……)


 右隣にいる加藤の気配が、いつものそれとは違っている。


 いや、いつもの、というのは若干違う。


 加藤がオレに無遠慮に触れてくる時、時折感じるゾワゾワする感覚と恐怖心が足元から這い上がってくる。


(……やばい……に、げ、ないと……!!)








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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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