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011 - 汐見からの連絡



  ◇◇



 ポロン。 LIMEのメッセージ着信音が鳴った。 


(来た!)


『今、大丈夫か?』


 9時きっかり。相変わらず時間に正確なやつだ。

 そんなところにまで、汐見の几帳面さが滲み出てる。


「大丈夫。俺から掛けるか?」

『いや、いい。ちょっと待て』


 なんだろう? 〈春風〉と喧嘩でもしてるんだろうか?

 ピリリリリ!


「もしもし」


 ワンコールでLIMEの音声通話に出ると


『連絡できなくて悪い。ちょっと緊急事態でな……』

「いや、俺は大丈夫だけど、お前は大丈夫か?」

『ん? あぁ……まぁ、大したことないというか……』


 電話口での様子がいつもより暗い。


「汐見? なんか声が遠いな?」

『……やっぱり、わかるか……』


 いつもの穏やかな声音。

 だが、緊張が張り詰めているのがわかる。


「?? どうした?」

『まぁ、お前に隠し事はできないな……』


 ふぅっ、と汐見が電話の向こう側でため息を吐き出した。


「汐見?」

『今、病院なんだ』


(は? ちょっと待て、今なんて言った?)


「え?! け、怪我ってそんなに?!」

『……まぁ、ちょっと、な……』


(病院?! こんな時間に病院に行くような怪我ってことか?!)


「ど、どこの病院にいるんだ!  すぐ」

『今の時間はもう面会できないから』

「はぁ?! 面会できない? ちょっと待て! お前、入院してるのか?! どういう状況なんだ、おいっ!」

『説明は……ちょっと……電話では難しい、な……』


 電話の向こう側で汐見が苦笑してるのがわかる。

 俺が狼狽すると汐見はだんだん落ち着きを取り戻していくんだ──


「おい! どこの病院なんだ! 一体どんな怪我したんだっ! 汐見ッ!」

『落ち着けって……大丈夫。幸い二人とも命に別状はなかったから……』

「【二人とも】って?! どういうことだ! なんの話なんだ!」

『……今は動けない……紗妃にも……連絡するな。歩けるようになったらまたLIMEする』


 俺はいても立ってもいられず、スマホを握りしめて大きな声で縋り付く……もうすでに泣きそうだ。


「歩けるように?! って、おまえ! 一体どんな怪我を!」

『そんな大きな声で喚かないでくれ。今日1日は何も考えずにゆっくりしたくてな……連絡が遅くなってすまん』

「そんなことどうでもいい! 病院ってどこなんだ汐見!」

『……今言うと、お前、すっ飛んできそうだな』

「当たり前だっ! どこ」


 当然だ……今だって、音声じゃなくてビデオ通話にすればよかったとめちゃくちゃ後悔している──


(顔を見て話したい!)


『お前がすっ飛んで来ると困るから教えられない。明日、お昼前に、また連絡する。それまでちょっと待っててくれ』

「汐見!」

『心配してくれてありがとな。大丈夫。お前がいてくれて心強いよ』


 くくっ、と汐見の小さな笑い声が混じる。


「汐見っ!」

『もう切る。電源も切っとくから。明日、俺から連絡あるまで待っててくれ。頼む』

「しおッ!」

『じゃ、な』


 ブツっと切られたLIMEの画面を見て、俺は呆然としてしまった。

 即座に、折り返しの通話ボタンをタップするも──待機音がずっと流れるばかりで出る気配がない。


(〈春風〉にも電話するな? 病院にいる? 【二人とも】って誰のことだ? 一体全体どういう状況なんだ!?)


 俺は心配のあまり、もう発狂寸前だった。

 俺が汐見であんなことしている間に……もう罪悪感やら何やらでぐっちゃぐちゃになってパニック状態だ。


(どうする?! ……病院がわからない! 〈春風〉にも連絡するなって、でも家に行けば……! 行ってもいない? ……家には〈春風〉がいるのか?)


 ぐるぐると色々な考えが頭を巡る。

 だが、今、何をすればいいのかわからない。


 汐見が心配すぎてどうしようもない。

 なのにあいつは自分から連絡するまで俺に連絡するなと言い放つ。


(何が「心強い」だ! 今そんな言葉はいらない! 俺はただお前が心配なだけだ!)


 お前のそばにいるのが俺じゃなくなった瞬間から、お前がいつ俺の目の前から消えてしまうんじゃないかと、俺はいつもそればかり気にしてる──


(わかるか!? 汐見!? わかってくれ……頼む……俺はお前が……お前、だけが……!)




  ◇◆◇




 汐見がLIMEを取らないため、居ても立っても居られなかった俺は、汐見に言われた通り〈春風〉には連絡しなかったが、夜の10時前だというのにタクシーをすっ飛ばして汐見のマンションに来ていた。


(〈春風〉がいるかもしれないし、いないかもしれない……)


 どちらにしろ何の手がかりもないまま一人まんじりともせず自宅にいられるわけがなかった。


 ピンポーン

 呼び鈴を鳴らすが返事はない。


 ピンポーン

 再度鳴らしてもうんともすんともない。ドアに耳を当ててみるが、何も聞こえない。


 仕方なくマンションの汐見宅の玄関前。廊下の手すりにもたれてスマホを見ながらどうしようか考えてると、廊下端のエレベーターから出てきた若い男性が不審に思ったのか、俺に声をかけてきた。


「どうかしましたか?」

「あ、あー、ちょっと……ここに住んでる人と連絡取れなくて……あ、僕、この部屋の男性の方の会社同僚で……」

「あ~……昨夜、大変でしたからねぇ……」

「? 何かあったんですか?」

「救急車が来てちょっとした騒ぎになってましたから」

「え?!」

「……って、あれ、聞いてないんですか?」

「あ、え~と、連絡したんですが、通じなくて」


 これは半分嘘だ。


「……う~ん……」


 男は口元に手を当てながら、俺を足元から顔まで舐めるように見る。どういう人間か判断してるんだろう。


(咄嗟だったとはいえ、ジャケット羽織って出て正解だった……)


 汐見からのLIMEの後、風呂上がりの私服のまま玄関を飛び出した俺は、一瞬考えた後、もし誰もいなければ玄関前でうろつくことになるかもしれない、と思いカジュアルスーツっぽいジャケットを羽織って出たのだ。


「僕から聞いたってご本人には言わないでくださいね。一応、後々怖いんで身分証とかあれば……、確認させてもらっていいです?」

「あ、ああ! はい!」


 そう言って俺は財布に入れっぱなしの社員証を見せた。口は軽そうなのに用心深い男だ。


「女性の方が、頭を打ったそうです。なんか打ちどころが悪かったみたいで、意識なかったですね。男性の方は、腹部から血が出てて……」

「え?!」


(し、汐見が?! 腹に怪我?! 〈春風〉が頭を打つって、一体どういう……!)


「はい。その、腹部から血が出てた旦那さん? の方は割と平気そうだったんですが、一応、一緒に救急車に乗って行きました。その後……何時だったかなぁ……多分今よりは早い時間だったと思いますが……警察が来て、たまたま僕、家にいたので聞き込みされましたね」

「え? な、なんでですか?」

「旦那さんのお腹の怪我、どうやら刺し傷だったらしくて」

「は?!」

「……夫婦喧嘩? なんですかね?」


(なぜ?! 〈春風〉が……汐見を、刺したのか?!)


「でも奥さんが刺す、ってよっぽどだと思うんですよね……旦那さん、いつも帰りが遅かったみたいだから……浮気でもしてたんですかねぇ? 仲良さそうに見えたんですけどねぇ……」

「……!」


 二人の間にどういうことがあったのか、俺は知らない……

 知らないし、夫婦の事情で夫婦間の問題だろう……


 だが! 浮気してるのはお前の方だろう〈春風〉!

 なんでお前が! 非のある方のお前が!


 なんで汐見を刺すんだ……!


(一体どういうことなんだ〈春風〉!)


「でもおかしいんですよね……刺されたのが旦那さんとしたら刺したのは奥さんでしょ? なのに奥さんの方が担架に乗って運ばれてったんですよ」

「……」

「僕の部屋からはわからなかったんですが、僕の反対側の部屋の人が言うには……割とよく奥さんが喚いてるのは聞いた、って言ってましたね。なんか、美人なのに……いつも元気なさそうな感じだったんで……そういう人だったんですかね?」


 うわさ好きにも程がある。だが、その男の情報は有用だった。


(〈春風〉、お前……)


 理由はわからないが、〈春風〉が汐見を刺した。

 だが、〈春風〉の方が頭を打って重症?


(汐見が殴った? そんなバカな……)


 誰よりも大事に、〈春風〉を優先させて、自分の体調すら顧みずに仕事に没頭するような男だ。汐見は。そんな夫が〈春風()〉に危害を加えるだろうか?


(汐見はそんなやつじゃない……じゃあなんで〈春風〉は……というか、逆にどうして汐見が刺されたんだ……なぜ汐見を刺したんだ〈春風〉!)


 考えてもわからない。


 わからないことを考えてもどうしようもない。

 今の汐見はわからないことだらけだ。


 だが──考えなければならないような気がして俺は……その隣人から聞いた話を反芻しながら、家に帰った────





1章:──── 佐藤視点<1> ──── 終了


▷ 次話から汐見視点の章になります。



次章から入ってくる「〜鳥〜」と書かれた話は当作品でのウツ回です。

ストレスを感じる方はサブタイトルから「〜鳥〜」が消えてるのを確認後、お読みください。

(ウツ展開の部分は一気に投稿します。よろしくお願いします<(_ _)>)




◇次章の展開が気になる、と思っていただけましたら──

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君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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