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105 - 違和感と予兆〜この先(2)


 なんと言葉をかければいいのかわからず、佐藤は逡巡していた。

 それを見て意を決した汐見は、佐藤の視線を真正面から捉えて言った。


「ちょっと、聞きたいんだが、いいか?」

「あ、ああ」


 いきなり質問する体制に入った汐見に、怪訝な顔をした佐藤が返事をする。


「お前はさ……浮気とか二股とか……どう思う?」

「!!」


 その疑問は汐見にとってはあり得ないと一刀両断ものの話だったが、もしかしたら眉目秀麗な人間にとっては当たり前のことなのかもしれない。だが、そう思いたくないからこその質問だった。

 そこで佐藤に当然のように『浮気や二股なんて今時、誰でもしてる』と言われたらそれはそれで衝撃を受けそうだと汐見は感じていた。


「……それ、って、もしかして俺にそういう経験があるか? って聞いてるのか?」

「……」


 汐見はじっ、と佐藤を見つめていた。


 もし、今ここで佐藤が適当な嘘をついて返事を返せば汐見はこれ以上傷つかないかもしれない。


 汐見と出会う前までの、特に出会う1年前までの佐藤は誰彼構わず、それこそ二股など普通にしていた時期があったのは確かで。


(もし、万に一つでも……汐見と付き合えるようになって、その時に今の〈春風〉みたいに俺の過去が知られたら……死ぬほどショックを受けるだろうな……)


 嘘をついて、いつかその嘘がバレた時、その瞬間に汐見の信用を全て失うことになる。

 それは汐見の心を永遠に失うことと同義だ。

 それくらいなら───


(今は、お前が欲しくない答えかもしれない……)


「あるよ。……俺自身がされたことも、俺がしたこともある。だが……」


 佐藤は少し動揺を見せた汐見をまっすぐに見据えて


「今、片想いしてる人ができてからは、ない」


(お前と出会ってからは……)


「本当はその片想いの人とそういう関係になれたらいいんだけどな……その人に似た人と付き合ったりして……でも、被ったことはない」


 ちゃんと伝えた。包み隠さず。

 それが今、佐藤が汐見にできる自分なりの誠意だと思ったからだ。


(本命のお前が目の前にいるけど、お前とは付き合えない。だから他の人と付き合って欲求を解消してる。でも本当はお前と……)


 そこまで考えて佐藤は自ら思考停止した。


「……そう、か」


(片想いの人ができてから……って、佐藤、それ、何年前からの話なんだ……)


 あの部屋を見て佐藤の本音を知った今、佐藤が自分を見る視線の意味が違うことを汐見はようやく理解した。

 佐藤は自分が好きで、でも自分に受け入れてもらえないと思っていると。


 その熱っぽい視線が汐見にそう訴えかけている。

 言外にあふれ出す佐藤の視線からの言葉が、ようやく汐見にも聞こえてきた。


(お前……ずっとそんな目で見てたか?)


 視線を返す汐見の表情がいつもと少し違うような気がした佐藤は、少し目元を赤くした後、長い睫毛を瞬かせてゆっくりと目を伏せた。


「その……本当は、その人と付き合いたいんだけどさ……はは。情けないよな俺……」

「……」


 汐見は何をどう伝えればいいのかわからなかった。 

 自分に対する想いを直接言わない理由をちゃんと知りたかった。


(お前がちゃんと言ってくれればまだ……考えることができるのに……)


 だが、今の汐見には優先事項が複数ありすぎて、そういうことを言われたとしても、許容量を超えて処理できないと感じたため──


「別に、情けなくはないだろ。既婚者相手なら……普通、行動は……起こせないだろう……」


 そう言うと、汐見自身が自分で自分の言葉に得心した。


(そう、だな。結婚してる相手に、何ができるんだ、って話だ……既婚者で、しかも男でってハードル高すぎるな、佐藤……)


 汐見は他人事のように、佐藤の表情から心象を観察していた。

 佐藤の表情にいつもとは違う憐憫れんびんを感じた汐見は自分が佐藤だったらどういう行動に出ただろう、と思った。


(男と……ってのはわからんが、でも……既婚者相手ではどうにもならない、とは思っただろうな)


 俯瞰ふかんしてみると、佐藤の行動の理由はある程度わかる。もっと深く考えれば佐藤の行動原理まで見えてきそうだった。

 だが、今はそれ以上突っ込むことはやめて


「……言いにくいこと言わせた、すまん。とりあえず、明日、色々進むだろ……紗妃のことも……池宮先生と話して今後のことを考えようと思ってる……」


 汐見は薄く笑いながら言った。何かの予兆を感じながら──


(色々片付けないとな……紗妃も、オレも、佐藤(お前)も)





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▼ 他 掲載作品 ▼

君知るや〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜



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