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101 - 佐藤の気持ち(11)


 様々なことが汐見の脳内を駆け巡っていた。


(そういえば……)


 特に入院前後の佐藤の態度や様子が少しおかしかったことが気になってはいたが──


(考えてみると、アレは……)


「お? この番組、まだやってたんだ?」


 汐見はテレビに向いていながら何も見ていなかったが、流れているバラエティ番組は一時期、流行していたものだった。


「もう上がったのか」

「まぁ、汗流すだけだったし、寝る前にもう1回入るしな」

「そうか……」


 汐見はソファに座っていた向きをキッチンに向けつつ、濡れ髪をタオルで拭きながら出てきた佐藤を眺めていた。


(……なんでオレなんだ? お前、死ぬほどモテるだろ。ってか、お前と付き合いたい男女なんか、それこそ腐るほどいるだろうに……)


「? どうした?」

「なんでもない……」


 思わず佐藤を見ていたことを指摘され、汐見はふ、と思った。


(お前には紗妃みたいな美人とか……男でも、美少年とか、そういうのが似合うだろ? お前とオレ、ってなんか、変だろ……)


 釣り合いが取れるとか取れないとかそういうことを考えてしまう。

 見た目偏差値の格差がありすぎる佐藤と自分ではおかしいだろう? と。友人としてなら、そこになんの疑問も躊躇いもなかったが、それが連れ合いという意味を持つのだとしたら話は別だと思う。

 自分と紗妃の見た目の釣り合い以上に、同性で付き合うのなら、もっと。


(……だって、な…………)


 そこに仄暗い嫉妬のような感情すら目覚めてしまいそうな嫌な感覚を感じた汐見は、目を閉じて湧き上がりそうになった黒いモノに蓋をした。


(……佐藤には関係ない。これは、オレの問題だ……佐藤がオレに言えないように、オレもお前に言えないことがある………今は、まだ………)


 佐藤も汐見も、自分の気持ちにも事実にもまだ向き合えていない。


 その状態のままでは動き出すこと自体が不可能に思われた。



 佐藤が外出から帰ってきた水曜日は丸1日、佐藤の家でまったり過ごすことになった。

 テレビで録画していた番組を流してそれを2人で突っ込みながら観ているが、実際の2人は別のことが脳裏を駆け巡っていた。


(汐見が転職……橋田に連絡取る前にあいつと一回サシ(1対1)で話したほうがいい気がするな……汐見がもし橋田の会社に行くなら俺も……)


 佐藤は汐見と離れる気は毛頭ないので、何らかの手段を講じてでも汐見と一緒にいられるように動こうと思っていた。

 一方の汐見は、昨夜知った事実に混乱してはいるが今の佐藤の機嫌が良さそうなのを見て。


(この状態が続くのは良くないな……紗妃のことも、慰謝料のことも、転職も、佐藤……も……)


 積み上がっていく課題がどんどん増えていくだけでどこから手をつけたらいいのかわからなくなる。


 汐見は差し当たって、明日予定している池宮弁護士との面談について整理しなければいけないだろうと思っていた。

 ふと思い出した佐藤が


「明日、病院は午後だろ? 何時でもいいって?」


 汐見に聞いた。


「ああ、予約は特に必要ないけど4時までには受付してほしいって言ってたな」

「じゃあ、その後弁護士事務所ってことになるな。……外出時間短い方がいいよな?」

「そうだな……事務所は何時だって?」

「一応、午後7時くらいでどうですか、って言ってたな。その後は特に予定とかないよな?」

「それは大丈夫だ」


(とすると、病院に行った後、夕飯食って、それから事務所って感じになるかな)


 汐見は池宮秋彦とまともに話したことなどないが、温厚そうな容貌をしていた。紗妃の旧来の友人と言うからどんな派手な人間かと思いきや、まるで正反対の人物だったのだ。


(交友関係は派手じゃなかったってことかな……)


 色々と思いを巡らせていると、佐藤が汐見の横顔を見ながら話しかけてきた。


「あの、な、汐見……」

「ん? どうした?」

「その……」


 珍しく言い渋っている様子の佐藤に汐見が怪訝けげんな表情を返す。


「俺、悪いかとは思ったんだけど……紗妃ちゃんのこと、聞いてたんだよな……その、俺たちの会社に来る前の話……」

「!!」

「……先週木曜日にさ、聞いた、って話。あれ」


 佐藤は汐見の様子を伺いつつ、でも思い出すように左上を見ている。


「俺の大学の同期の坂田ってやつがさ、紗妃ちゃんが元いた会社での元同僚だったらしくて、そいつから、その……」

「……」


 佐藤の話す言葉に嘘はないだろう。だが、その言いにくそうな表情や口調を見て、汐見は思っていた。


(オレに恋愛感情を抱いているんだろう佐藤から……今、紗妃の話を聞くのは、複雑だな……)


 汐見の感情はない混ぜで、周囲にできた事実は複雑に絡み合っていて、果たしてどちらに向かって片付けていけばいいのかわからない。


 一方の佐藤は、坂田から聞いた話を今の汐見に話すことは傷口に塩を塗りたくることだと理解している。だが、話すべきことだと思っていた。明日、弁護士事務所に行けばきっとそこで紗妃のこれまでの行動だのなんだのは聞かれるし、話題に上がることは必至だからだ。


(夫である汐見以上に〈春風〉の情報を知ってしまったのは親友として複雑だけど、汐見は知っておくべきだ)


「これから話すことは、その大学の同期から聞いたことで……紗妃ちゃんがお前と出会う前の話だ。その同期はちょっとしたルートからその情報をたまたま入手したらしいし、俺もその真偽は知らない。だが、信憑性は高いと思っている。だから、その……」

「……回りくどいことを言わなくても、わかってる。お前がオレを気遣ってなかなかはっきり言えないってこともな。だから、遠慮なく話してくれ。オレは紗妃のことをできるだけ知るべきだと思う」

「……わかった」


(〈春風〉が今後どうなるのかはまだわからない……だが)







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