100 - 佐藤の気持ち(10)
シャワーに入っていた佐藤は隣の部屋、つまり趣味の部屋から何か物音が聞こえたような気がして不審に思い
(とりあえず、バスルームから出たら確認しにいこう……それにしても……あの写真どこに行ったんだ……)
風呂から上がると手早く体の水滴を拭き、腰にバスタオルを巻いた格好で浴室のドアを開け、リビングのソファに座っている汐見を確認した。
テレビの音量が結構大きかったため、足音を忍ばせてバスルームから隣の部屋に行ってドアハンドルを押し下げてみた。が、動かなかった。
(鍵、掛かってるよな……)
鍵が掛かってることにホッとした後、浴室に戻って着替えた。もちろんズボンはつい先日購入した3Lサイズのアレだ。
(やっぱり汐見がいるときはあの部屋には出入りしないほうがいいよな……)
改めて思い直し、(でも後でちょっとだけ確認しよう)と思った。
佐藤がシャワーを浴びていた頃の汐見は、リビングでテレビを見ながら考え事をしていた。
(……どうすべきだコレ…………オレはこのまま佐藤の世話になってていいのか? ……あいつオレのこと好きなんだろ…………しかも6年くらい前から……それなのに告白してくる気配も、手を出すこともないって……)
自分のことではないので、考え込んだところでどうにもならないと思いつつ考えずにはいられない。
(なんで、そんなに長いこと片想いしてるくせにオレに何も言ってこないんだ?)とか
(常に彼女いたのに、なんでオレに片想いしてんだ?)とか
(そもそもお前、なんでオレなんか好きなんだ?)とか、諸々。
翻って、自分だったら、と考えてみる。
(オレ、オレが佐藤のことが好きだったら? …………男同士で?)
最大の疑問はそこだ。
汐見は常に『そこ』が汐見にとっては一番の問題だったからだ。
「……」
(……佐藤が男、じゃなければ……)
きっと問題はなかっただろう。
いや、事実、『佐藤が女だったらよかったのに』と思ったことは幾度かあったのだ。
汐見にとって、佐藤くらい一緒にいて居心地が良くて楽で、隣にいて安心できる人間はいなかった。
だが、今思うとそれは常に佐藤が汐見に好意を抱いて接していたからなのだろう。
佐藤からは常に『友情』を感じていたし、それを同じだけ返していたつもりだ。
『つもり』だった。
(でもあいつは……そういう感情だった、って……こと、だよな……)
汐見が考えたこともない『恋愛』感情から、佐藤は汐見を見ていた。
それも6年以上前から、ずっと───
考えると居た堪れない。
そんな長い期間、近くにいる一人相手に告白することもなく片想いなど、現実に有り得るのか? という疑問だ。
(……わからん……オレ、だったら……)
好きだと自覚したら、ダメ元で告白して付き合って、そこから相手との関係や感情を育んでいく。
『恋愛』とはそういうものだと思っていたし、今でも思っている。
ただし、これまでに2回しかない機会の中でその恋愛関係育成計画が成功した試しはなかったのだが。
(それに……男同士って、どうするんだ?)
そこも、汐見にとっては疑問だった。
アソコにアレを入れる、ということは知識として知っていても、そもそもアソコは出す場所だろう? と考えると抵抗がある。
実際にどうやるのかは曖昧でよく知らない。今まで知る必要もなかったため、そんな情報を入手しようとしたこともない。
(そもそも、佐藤はオレに抱かれたいのか? それとも……抱きたいのか?)
男同士ならそこも問題になるだろう。
同性なら体の構造は同じだ。持っているものは同じモノしかないのでどっちも抱く側にもなれるし抱かれる側にもなれる。
(そういうのでマッチしないこともある、って聞いたことあるな……双方が同じ側を希望するならできないとかなんとか)
付け焼き刃的な知識しかない汐見にとって、同性愛者なのかどうかもわからない佐藤の気持ちが理解できない。腑に落ちない。
汐見には、男同士という以前に、こんなに長いこと一緒にいるのに? 今まで? なぜ? という感覚が強かった。
(……こんなに長いことそばにいて……未知との遭遇すぎるだろ……)
 




