表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

第5話

今まで誰にも何にも興味がなかった。

興味があるとすれば死のみだった。

永遠の命がある不死身な身体はどんな最後を迎えれば華々しく咲き誇れるだろうか。

私が吸血鬼の中で唯一不死身という概念をぶち壊し新たな幕開けをしてやろうと考えていた。

人間のように刺されたぐらいではびくともしない。首を吊ろうがビルから落ちようが海底に沈もうが数分で身体は回復する。海底に至っては呼吸せずとも水圧で肺が破壊されようとも平然と泳ぎ簡単に沈む事が出来る。つまり意味はない。海が好きな吸血鬼がいるのならば海月(くらげ)とぷかぷか漂いながら長い旅に出ているかもしれない。

私は然程海は好きではないので海月と散歩など願い下げだ。

死ねるのならば付き合ってやってもいいが。

光利に出会ってからは死と言うものが悲しくて寂しいと知った。

たくさんの本を読んでくれた中には大切な家族との死別、飼っていたペットとの別れ。

どの本の話でも悲しみ、寂しさ、辛さが伝わってきた。

私は物語に興味が湧いた。

今まで本になど微塵も興味がなかった私だが、自室にあった本を暇な時に読むようになった。

雑誌、小説、図鑑、絵本。

様々な分野が並んでいた。

本を読めば知識が付いた。今まで知らなかった全てが知っている全てに変わっていった。

割と楽しいものだった。

何より光利との話が広がっていた。

私はその時気づいていなかった。

本よりもっともっと私の興味を引いたのが光利という人間だった事に。


1日休めば身体は全回復した。

凛はつきっきりで看病してくれた。

「もうお身体は大丈夫ですか?」

「寝る前に輸血してくれたからもう大丈夫」

「それはよかったです。お出かけされますか?今日は日差しが強いのでパーカーのフードではなく帽子でも被っていかれますか?」

凛はリボンの付いた可愛らしい帽子を差し出してきた。

「そんな女の子っぽい帽子似合わないよ。私はパーカーのフードで充分」

「似合うと思うのですが。フードは熱が篭りやすいので適度に涼んで下さいね」

「うん、わかった」

「では、行ってらっしゃい。今日は窓からではなく玄関から出て下さいね。大切な方が窓から飛び出す姿を見たら驚きますよ」

「あー、、、わかった」

「素直なのはいい事ですね。いってらっしゃい、桜花様」

「いってきます」

私は部屋を出ようとしたが、未だ部屋で頭を下げている凛の方へ振り向いた。

「あのー、えっと、そのー、凛」

「はい?」

「あー、のー、あ、あ、あ、ありがと、とう」

私は照れ臭くなりドアの影に隠れながら呟いた。

凛はくすくすと笑って言った。

「いえいえ。それが私の仕事ですから」

「真面目。じゃあね」

私は頭を再び下げる凛に軽く手を振り部屋のドアを閉めた。

光利。光利。

早く会いたい。

私は早歩きで屋敷を飛び出し外へ出て目一杯息を吸った。

暖かい木漏れ日と澄み切った空気がとても気持ちがいい。

「よし!」

コウモリが調べた情報を元に私は光利の学校へ向かった。

近くへ行けば匂いでわかる。

光利の匂いは覚えた。

日差しが照り付けている中私は歩いた。

凛には休憩するように言われたが私は休まず歩いた。

見覚えのある町並み辺りで大きな学校が見えてきた。

「多分あそこだ。野原からそんなに遠くないんだ。全然知らなかった」

いつも行っていた野原からは然程離れていなかった。

学校に着いたものの人気はなく静まり返っていた。

「帰っちゃったかな?」

私は辺りを見渡していると学校からそう遠くない公園から数人の声が聞こえてきた為公園へ向かった。

「あ、いた」

そこには光利がいた。

それと2、3、4人の男。

光利の友達だろうか。

たくさんいて羨ましいと思いつつ私の入る隙はなさそうと思い帰ろうとした時だった。

「調子に乗ってんな!」

強い口調と共に光利の呻き声が聞こえ私は急いで元の位置へ戻った。

「だ、からもうお金はないって言ってるだろ」

「金がないなら盗めばいいだろ?お前の母さん金持ちじゃん」

「母さんのお金は盗まない。頑張って働いてくれてる大切なお金をお前たちみたいな遊ぶ事にしか使わない奴に渡したりしない」

「うわーこいつ生意気。おい、あっきーもっとやってやろうぜ!」

明久(あきひさ)の怖さまだ分かってないんじゃね?こいつ馬鹿だし。抑えてようか?」

「おう!」

明久と呼ばれる男を中心に他の男達が光利を抑え付け殴る蹴るといった暴力を振るっていた。

光利はただただその痛み、苦痛に耐えてた。

私ははっと気づいた。

初めて光利と出会った時に気づいた傷。

それからも度々傷は付いていて治ったところにまた新しい傷が出来て。

癒えるどころか更に増していっていた。

何度もはぐらかされていたが理由は今明確にわかった。

私は沸々と怒りが込み上げてきた。

私はパチンと指を鳴らした。

コウモリは数秒で集まり私は行けと促すように指を指す。

コウモリは数匹の大群となり男達の方へ向かった。

「うわ!なんだ!こいつら!」

「おいっやべーぞ、これ!逃げようぜ!」

男達は頭を隠しながら一目散に逃げていった。

残された光利は未だ地べたに寝っ転がり起き上がれずにいた。

私は静かに光利に近づいた。

「あなたの言うバスケって中々にチームワークがなってないみたいね」

「えっ!?」

光利は私の声がするとは思っていなかったのだろう。

驚いて起き上がり声の方へ振り向いたが瞬間的に振り向いた為痛みに顔を歪めた。

「大丈夫?」

「桜花、、、いつから見てたの?」

「んー少し前から?」

「見られて、、、たんだ、、、。君には絶対知られたくなかったのに、、、。こんな情けない姿見られたくなかった、、、」

光利はゆっくりと起き上がりよろけながら立ち上がった。

「ねぇ、本当に大丈夫?ふらふらだよ?」

「ごめん、僕今どういう顔していればいいかわからない」

「別にどんな顔でもいいけど。とりあえず顔や腕についたその砂埃気になるからこっち来て?」

未だ俯いている光利の手を強引に引っ張り近くのベンチに座らせた。

「私女の子って感じの性格じゃないからハンカチとか持ってないんだけどあなたの貸して?」

私は手を出したが俯いて無反応だった。

「早くして」

私は更に催促する様に手を揺らした。

光利は観念した様で渋々自身のハンカチをポケットから出し私の手に乗せた。

私はハンカチを近くの水飲み場で洗い光利の顔や腕を拭った。

「いっ!」

「あ、ごめん。痛かった?」

力加減のわからない私は半ば強引に拭っていた為痛かったのだろう。光利は顔を顰めた。

「はい、綺麗になった」

「ありがとう」

小声で呟く光利に私はハンカチを返した。

「それにしてもなんなの、あいつら?群れる事でしか威張れない典型的な雑魚なのに。あなたはなぜ反撃しなかったの?」

「僕には、、、無理だよ。力だって弱いし」

「あんなにボコボコにされたら私ならキレて何するかわからないぐらい怒り狂うわ」

「確かにちょっとは腹は立つけど我慢してればいつか終わるから耐えるのが一番だよ。下手に刺激しない方がいいよ」

「あなたが出来ないなら私が殴ってもいいけど?」

「え?」

「私偉そうな奴嫌いなの。一度痛い目に遭った方がいいでしょ?それに面白そう」

「ちょっと待ってよ。僕でも力で敵わないのに君みたいな女の子が出ていったら僕より酷い目に遭うよ」

「あなたさっき自分で力弱いって言ってなかった?」

「いや、あの、そう、だけど」

バツが悪そうに視界を逸らした光利に私は笑みを浮かべる。

「あなた私が吸血鬼だって事忘れてるでしょ?そこら辺の女より力はあるしあなたみたく殴られたぐらいで傷付かないしなんなら痛みすら感じない。あんなへなちょこパンチ」

「でも、、、だめだよ」

「なぜ?」

「桜花が殴られるなんて見たくないよ」

「だから全然大丈夫だから」

「それでも!、、、嫌だから」

静かに悲しそうに光利は呟いた。

「自分でなんとかするし出来るから桜花は何もしないで。お願い」

強く貫く眼差しに私はもう何も言えなくなった。

「、、、わかった、、、」

「ありがとう」

「あなたがこの前約束とやらに来なかった理由何となくわかった。さっきみたいに絡まれてたんだね」

「あー、、、そうなんだ。行きたかったんだけど全然動けなくて。その、、、今更なんだけど、、、ごめんね」

「大丈夫。今日会えたからよかった」

「え?もしかして僕の事探してくれてたの?」

「あっえっと、、、、まぁ、、、そう、、、なるの、かな?」

照れ臭くなり私はパーカーのフードを更に深く被る。

それを見て光利はくすくすと笑った。

「相変わらず桜花は可愛いね。僕も桜花に会えて元気になった。ありがとう。僕もう少しで塾の時間だけど途中まで一緒に行く?」

「こんな時に勉強するの?」

「今が大事だからね。それに勉強は嫌いじゃないから」

「変な人。私は勉強なんか絶対したくないのに」

「今度教えてあげるよ。知識が入るのは凄く面白いよ」

「結構です」

「まあまあ。じゃあ行こうか」

差し出された手を見て私は首を傾げた。

「何?」

「あ、ごめん。手出して?」

「はい」

差し出した手を光利は強く握って歩き出した。

「ちょっと!?何!?」

「僕が手を繋ぎたいだけ。気にしないで」

笑いながら歩く光利の後ろを私はついていく。

傷だらけの身体からは想像もつかない逞しい背中に私は不思議と目が離せずにいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ