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第4話:変わらないものと・・・変わるもの・・・(後Ⅱ)

「国王陛下・王妃様がお入りになります。」


侍従が大きな声を張り上げた・・・その響きで、私は現実の”今”に引き戻された。


「いけない・・・もう終わった過去(こと)よ。


彼には二度と会いたくない・・・。


いいえ、違うわね・・・彼にはお嬢様・・・ヴェステァオ公爵家のルリエティアである彼女と恋に落ちてもらうけど・・・。


それは”今”の”私”でなない・・・ってこと・・・。しっかりしなきゃ・・・。」





華やかな音楽と共に国王夫妻がご入場されると、次いで王太子殿下、他の王子、王女達も会場に姿を現す。


そして、王太子の誕生を祝う為に・・・という名目で、各家門の令嬢たちが玉座の前にて祝いの言葉を捧げる・・・というイベントが始まった。



玉座に座る王太子の表情は終始変わらずにこやかな微笑みを貼り付けているかのよう・・・・


変わらないのね・・・あなたは・・・。


侍女としては退出せねばならない故に、なんとか作っておいたコネで王宮の使用人に紛れ込んだ私は、舞踏会の仕事をするふりをしながら遠目で彼らを観察を続ける。




「ヴェステァオ公爵家ご夫妻とご令嬢方です・・・。」


侍従が家門を呼びあげると、公爵一家が玉座の前に進み出た。


カーテシーを捧げた姉妹が顔を上げた瞬間、ガタっと音が響いた。


会場の皆がいっせいに王太子に視線を向けた。


突然立ち上がった王太子は姉妹を見つめて・・・・



「王太子?」



不審を感じた王妃の声掛けに、ハッとして王太子はまた玉座に座ると、にこやかに微笑んだ。



「失礼した・・・。令嬢方のあまりの美しさに思わず見とれてしまいました・・・」



その言葉に、会場にざわめきが走る。


王太子が令嬢に興味を持ったのは初めてだった故に、国王夫妻も興味深く公爵家の姉妹に目をやった。



「・・・確かに美しい・・・ことだが・・・・またその艶やかな色合いは・・・」


国王がお嬢様のドレスに目をとめると、王妃もまたドレスに興味津々のようで・・・・。



「ええ。わたくしも、気になっておりました。その『青』もさることながら・・・散りばめられた煌めきが・・・・」





おおおお。私は飛び上がりたい衝動を抑え込む。


国王夫妻の目にとまるとは・・・・王家御用達も夢じゃないわ。


お嬢様・・・・頼みますよ!と心の中ででっかい応援旗をふりながら祈る。


お嬢様には、もしドレスについて誰かに問われたら・・・という設定で何度もマニュアルを覚えてもらっていたけれど・・・・・大丈夫かしら・・・?





「光栄でございます。わたくしの専属デザイナーの手によるものでございます。

もし、ご迷惑でなければ・・・後日、王妃様にもこの生地をご献上させていただきたいと存じます。」




よくできました!お嬢様…完璧です!

心の中で拍手喝采しながら、私は黙々と働き続ける。

さあて・・・このドレスでいくら儲かるか・・・明日から忙しくなるわあああ。






家門の挨拶も終わり、舞踏会のダンスが始まる。


王太子のファーストダンスに注目が集まっていたけれど・・・。


過去(まえ)の舞踏会では誰と踊ったんだろう・・・?

私は庭園に居たから知らないけれど・・・そんなことを想いながら厨房にグラスの追加を頼まれた私は大広間を後にした。









久しぶりだわ・・・ここ。


私は王宮の使用人の仕事から抜け出して、舞踏会が終わるまでの時間潰しに庭園に出た。


外灯ランプで照らされた場所は貴族達と出くわす可能性があるから避けて・・・私はどうしてももう一度行ってみたかった場所に足を向けた。




「ああ・・・あったわ」


庭園の奥の奥に設らえられた温室。



一年中明かりが絶やされることのないこの場所は、夜の闇の中にぽわあんと浮かび上がる温かい松明のように、辺りを照らしていた。



そっと近づき、扉を押すと、ぎいいと音を響かせて温室が迎えてくれたような気さえして・・・。


私は温室の中へ足を踏み出した。



「変わらない・・・。ここは、大好きな場所だった・・・。」



思わず漏れた言葉に、過去(おもいで)が私の胸に押し寄せて胸が痛いほどの切なさに溢れる・・・そんな自分を振りきろうと私は自分のほっぺたを軽く両手で叩くと、自分に言い聞かせるように苦言を放つ。



「しっかりしなさい。あなたはもうヴェステァオ公爵令嬢では無いし、ルリエティアでもない。

”今”の私はただのエティ・・・。ヴェステァオ公爵家の使用人でルリエティアお嬢様の侍女でしかないのだから・・・。」




温室の静寂のまま足早に、私は温室の一番奥にある花壇の前に立った。



「・・・・久しぶりね。あなたは・・・・今夜の月を見上げているの?」



ガラス張りの温室の中でも天窓をドーム状に設えてあるその場所に植えられた一凛の花はその蕾の先を天へと背伸びしているかのよう。



そして半球に近い天窓の上空に上がった月は、そのたおやかな花に向かってその光の全てを捧げ尽くしているかのようにさえ見える・・・とても幽美な切なさがそこには在った。



私はしゃがみこむと・・・月の光の只中に佇むかのように立つその花の蕾を眺めていた。



どのくらいの時間が経ったのだろうか・・・もう戻らなければいけないだろうか・・・



私は開かないままの蕾にそっと手を伸ばす。



「・・・相変わらずの気紛れ屋さん・・・。月があんなにあなたを乞うているのに・・・咲いてはあげないの?・・・つれないのね・・・?」



囁くような声になるのは・・・自分が過去(おもいで)に引き戻されないようにと自身の自制なのかもしれない・・・。




「乞うているのではない‥‥恋ているのだ・・・。」



背後に響いた声に驚き飛び上がるかのように立ち上がった私は声の主に振り向いた。



いつの間に・・・?


気配を感じなかった。



「?・・・どうしてあなたが、ここに・・・?」



驚愕そのものが私を打つ・・・その衝撃に上手く言葉が紡げないまま私は彼を見つめる。



彼は私に近づくと、私の手を取りそっと持ち上げる。



「・・・どうして君が?ルリエティア・・・君が彼女じゃないんだ・・・?」



そして彼は持ち上げた私の手の甲にそっと唇を寄せながら、その瞳はじっと私に注がれたまま・・・



・・・・深い、あまりにも深い『青』が私を射る・・・。



私の手に触れる彼の口づけはあまりにも、あまりにも・・・熱かった・・・・。



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