試練の山
試練の山に到着しました。ここでユーディット様達が受けた試練とは一体どのようなものか、調べてみましょう。
「いらっしゃいませ! ここはかの有名な冒険者ユーディットが修行した試練の山だよ!」
入り口に管理人さんがいました。ちょっと想像していたより気楽な場所のようです。
「いやー、以前は厳格な場所だったんだけどね。バルバロッサが倒されてからは観光客がたくさん来るようになって」
「そういえば、邪竜に支配されていたのになぜ修行場が存続できていたのですか?」
考えてみれば不思議な話です。自分を脅かすようなものはすぐに取り壊してしまえば良いものを。
「脅威とは思っていなかったのでしょうね。実際、ここの試練を乗り越えて素晴らしい力を得たのは彼女達が初めてでした」
なるほど。困難に打ち勝って力を得た者がそれまで存在しなかったのなら、脅威と認識しないのも無理はないでしょう。納得しました。
「それで、試練とはどのような内容なのですか?」
「自分自身と戦うのです」
――――――
邪竜に敗北した勇者達は、力を得るため試練に挑む。
現れたのは鏡写しの彼女ら自身。猛然と襲い掛かって来る自分の影を、勇者達も全力で迎え撃つ。
自分自身との戦いは熾烈を極め、いつまでも終わらないかのように思えた。
だが、いつしか彼女達は気付く。
目の前にいるのは心の内に秘めた様々な感情。怒り・憎しみ・嫉妬に怠惰、そして慈悲の裏に隠れた功名心。
己の内に秘められた負の感情を倒してしまえば、真の聖者になれるであろう。
彼女達は己と向き合い、己を知った。
すぐに武器を収める勇者達。
自分の弱さを受け入れられずに、どうして弱き者を助けられよう?
聖者ではなくただの人間として、人々と共にあるべきと彼女達は自分の醜い心を受け入れた。
かくして試練は終了し、神は「人」としての彼女達を讃え力を授けたのだった。
――――――
「もし倒してしまったらどうなったのですか?」
「醜い心を持たない聖者として生まれ変わったでしょう。試練に挑む人に嘘をついて騙すような事はしませんよ」
これは意外。倒してしまったら試練が失敗に終わるのかと思っていました。
「でもそれまで誰も試練を乗り越えられなかったのでしょう?」
「誰もが己の負の感情にうち負けたのですよ」
そういう事でしたか。とても良いお話が聞けました。
私も試練を受けるかと聞かれましたが、丁重にお断りしてまた町に戻りました。私は強くなりたいと思っていませんので。
負の感情に勝てる気も自分の醜さを受け入れられる気もしませんからね。