ドゥームズデイ
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──ドゥームズデイ
羽地たちは王城内を必死に進んでいた。
「遮蔽物!」
「撃て、撃て!」
空中炸裂型グレネード弾から手榴弾、そして大量の鉛玉が相手に叩き込まれ、神聖王国騎士団のゲリラたちが薙ぎ払われていく。
『タイタンよりレオパード。状況デルタ・デルタ。繰り返す状況デルタ・デルタ。クソッタレなドゥームズデイだ。戦略爆撃機が王都に向けて飛行中。上空到達まで15分。その後は絨毯爆撃だ』
『レオパード、了解。それまでに核を奪取する』
『引き上げろ、レオパード。もう俺たちにはどうにもできない。企業は核が奪還できようとできまいと爆撃するぞ。それを防ぐ方法はない。王城はターゲットの中に入っている。恐ろしい規模の爆撃が来るぞ』
『それでもだ』
『……分かった、レオパード。そちらの任務を支援する』
羽地たちはウサギが跳ねるようにして前進していく。相互にカバーし合い、相手を撃ち抜きながら、爆散させながら、鉛玉と爆薬で強行突破を続ける。
『前方に重機関銃陣地』
『面倒だな。空中炸裂型グレネード弾もほいほい使えるほど数がない』
『レオパード。俺に任せてください』
『分かった。任せる、クーガー』
古今が名乗りを上げるのに、羽地が受け入れた。
『まあ、狙撃手の腕の見せ所ですね』
中距離向けの選抜射手ライフルで狙いを定め、古今が引き金を引いた。
重機関銃陣地の敵兵が倒れ、次に射手につこうとした敵兵も射抜かれる。
『ざっとこんなもんです』
『よくやった、クーガー』
羽地たちは重機関銃陣地を制圧し、重機関銃を爆破して進む。
『放射線値、さらに増大。戦術核の発する放射線値とかなり近いです』
『もうそろそろご対面だな』
羽地たちは周囲を見渡す。
『ここからは隠密でいくぞ。接近に気づかれて自爆されたくない』
『了解』
全員が熱光学迷彩を起動する。
熱光学迷彩を起動していても昼間は用心して行動する。夜の闇がなければ、輪郭などが露になることもあるのだ。そして、今は真昼間である。用心するに越したことはない。
羽地たちは足音を立てずに走る。
前方で敵の歩哨が警戒しているが、無線機は持っていない。
『ナイフで静かに片付けるぞ。3カウント』
それぞれの受け持つ相手がマークされ、羽地たちはナイフを構える。
そして、3秒のカウントののちに突撃。
相手の喉笛を掻き切り、腎臓を滅多刺しにする。敵は出血性ショックにより数秒で意識を失い、そのまま羽地たちに抱えられながら静かに息絶えた。
羽地たちは音を立てないように静かに死体を床に下ろし、再び前進を再開する。
『レオパードよりタイタン。王城内で無線の通信は行われているか?』
『ネガティブ。敵は王城内で無線のやり取りはしていない』
『分かった、タイタン』
どうやらカラシニコフはたっぷりと供与しても、無線機の類は供与しなかったらしい。これも“ウルバン”の仕業ならば、“ウルバン”は武器を供与する相手にアンバランスさを与えるのが好きらしい。核爆弾という強力な武器を与えた相手には初歩的な通信手段である無線機を与えないと言った具合に。
それがどういう意味を成すのかは分からない。謎だ。
正直、“ウルバン”はそこまで深く考えていない気すらする。“ウルバン”はただ地球製の玩具をばら撒いて遊んでいるだけのように思える。
そう思うのは“ウルバン”への嫌悪感故か?
いずれにせよ、今回の件で“ウルバン”は上げられない。“ウルバン”はとうの昔に逃げ去っているはずだ。“ウルバン”は戦術核が炸裂するか、王都が絨毯爆撃されて、灰になるさまを楽し気に眺めてるのだろう。
楽し気に? どうしてそう思った?
“ウルバン”の行為もまた彼の仕事だったとしたら? “ウルバン”も羽地たち同様に何かしらの秘密作戦を行っているとしたら? “ウルバン”がこの事態を全く楽しんではおらず、渋々と作戦を行っている可能性は?
どうも“ウルバン”という人間──あるいは組織に先入観がある。軍閥に玩具を与えて遊んでいるようなイメージが。
そうなるのもしたかたないではないかと思いつつも、この思い込みは自分の先入観故だということを把握する。
これまで“ウルバン”の所業を見てきた。両陣営に武器を与え、殺し合わせる残忍な男としての“ウルバン”を。いくら追いかけてもぬるりと逃げ出していく、逃走の天才のような“ウルバン”を。死体の山の上に立ち、飄々とした態度で、その死体の山の上に立っているだろう“ウルバン”を。
最後のは羽地の妄想だ。だが、“ウルバン”にそういう面があるのも否定できないだろう。奴は内戦のことを、虐殺のことを知っているはずだ。知らないとは言わせない。それでも奴は武器を渡し続けた。武器を売り続けた。
まさに、死体の山の王だ。
その王座は死体で出来ていて、冠も死体で出来ている。
王座の足はそれぞれ子供兵の死体で“ウルバン”を縋るようにして見上げている。王座のひじ掛けは虐殺された女性の死体で、カラシニコフで頭を撃ち抜かれている。王座の背もたれは軍閥の主たちで、虐殺の際に纏めて焼いた焼死体のように複雑に絡み合いながら、背もたれを構築している。
王冠は人間の内臓で出来ていて、ぬらぬらとした光を放っている。
その王冠を被り、王座に腰かける“ウルバン”の顔は見えてこない。
きっとろくでもない奴だというのは羽地の妄想に過ぎず、きっと冷酷な人間だというのも羽地の妄想に過ぎない。“ウルバン”もまた仕事をしているだけの一人の男なのかもしれない。羽地たちが中央アジアでやってきたような仕事をする、どこにでもいるただの人間。それが“ウルバン”なのかもしれない。
『放射線値なおも高い水準』
『この先に尖塔がある。なるべく高い場所で起爆するつもりならば、そこに持ち込んだ可能性はあるだろう。尖塔を上るぞ』
『了解』
アリスがポイントマンを務め、螺旋階段を上っていく。
『接敵、接敵!』
『撃て! 撃て!』
螺旋階段の上層から神聖王国騎士団のゲリラたちが発砲してくる。
羽地たちは応戦しながら素早く螺旋階段を駆け上る。ここには遮蔽物もないし、敵を狙うにいは難しい場所だ。
アリスが先頭で螺旋階段を駆け上り、羽地がそれを援護する。
羽地は螺旋階段の上層に向けて最後の空中炸裂型グレネード弾を発射した。それは敵を自動的にマークし、炸裂する。ボールベアリングが撒き散らされ、上にいた敵の戦闘員がほぼ壊滅に近い打撃を受けた。
『クリア』
『クリア』
上層に上がったアリスが数名を射殺し、この階層はクリアとなった。
『これは戦術核だな。今度は本物か?』
『放射線値から見て間違いありません』
『起爆タイマーは?』
『確認中。起爆タイマーはセットされていません』
今回はギリギリでもなく確保できたか。
『タイタンよりレオパード。企業連合が絨毯爆撃を開始した。王城までは5分。上空は飛行禁止区域に指定されて迎えの輸送機は送れない。戦術核は確保できたか?』
『戦術核は確保、戦術核は確保。現在無力化中』
月城が戦術核を解体しつつある。先遣隊もそれを手伝っている。
『ただちに作業を中断して地下に退避することを推奨する。絨毯爆撃は凄まじい規模で行われている。特に王城に向かっている戦略爆撃機の数は半端ではない』
遠くから唸るような爆発音が響く。
『……了解。退避する』
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