戦術核は……
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──戦術核は……
羽地たちはライブ映像の配信地点まで数百メートルの地点にまで迫った。
敵はようやく兵力が尽きかけ始めたようで、敵の抵抗は散発的なものになっている。
羽地たちは銃弾を撒き散らしながら前進し、戦術核に迫る。
「神聖王国騎士団の指導者は生きたまま拘束しろ。戦術核について尋ねたいことがある。どこからそれを手に入れたか、についてな」
太平洋保安公司の特殊作戦部隊がそう言うのに羽地は意外さを感じた。
太平洋保安公司──そのボスである大井にとってある意味ではこれは内戦のはずだ。過激派大井派閥と穏健派大井派閥の内戦であるはずだ。それなのに、両者の関係を明らかにするような命令が発されている。
大井にとって戦術核を漏洩させたというのは多少のスキャンダルでは済まない話だ。それなのに、この命令は意外としか言いようがない。
「あんたは本当にそういう命令を受けているのか?」
「ああ? 当り前だろ。戦術核だぞ。どこから漏洩したか調べとかないと不味いだろう。また次があるとしたら最悪だぞ」
「そうだな」
羽地は太平洋保安公司のコントラクターの言葉に頷いた、
穏健派大井派閥はここで過激派大井派閥の切り捨てに打って出たのか? 戦術核流出の責任を全て過激派大井派閥に押し付けて、彼らの派閥を切り崩し、彼らを大井から排除するつもりなのか?
だとしたら、とんだ内輪もめに巻き込まれたものだと羽地は思う。
それから羽地たちは残敵を掃討しつつ、走り続ける。
「我々は我々の神聖な国土を敵に渡すようなことはしない! 敵が我々の国土を汚染しようというのならば、我々はそれを粉砕して見せよう! 我々は勝利する! 我々は奪還する! 我々の誇りと、尊厳と、大地を──」
そこで鉛玉が神聖王国騎士団の指導者の側近たちに降り注ぎ、なぎ倒される。
「来たな。異国の侵略者たちめ! 我々は屈しないぞ!」
「武器を置け! さもなければお前もミンチだぞ!」
「我々は屈しない! 貴様らも道ずれだ!」
「不味い。戦術核を起爆するつもりだ! 撃て!」
神聖王国騎士団の団長の腕が撃たれ、肩が撃たれ、頭が撃たれる。
そして、神聖王国騎士団の団長は起爆スイッチを押した。
爆発が生じる。
だが、それは戦術核の爆発ではなかった。
「畜生。不発か? 放射線値は?」
「ノーマル。クソッタレ。こいつは戦術核じゃない。囮だ!」
戦術核だと思われていた爆弾は爆発していたが放射線値は上がらず、ただのプラスチック爆弾の爆発と思われる爆発が生じただけだった。これは戦術核じゃない。戦術核そっくりに作られたダミーだ。
「オリオンよりポセイドン。戦術核は見つからず。繰り返す、戦術核は見つからず。回収のヘリを寄越してくれ。撤退する」
太平洋保安公司のコントラクターたちは撤退の準備に入り始めた。
「引き上げるのか?」
「状況デルタ・デルタだ。戦術核の炸裂は恐らく避けられない。それを防ぐために王都一帯に絨毯爆撃をしかけて、戦術核の破壊を望む。あんたらも引き上げた方がいい。もうじき戦略爆撃機の群れが王都上空に押し寄せるぞ」
「なんだって?」
王都を絨毯爆撃? それで解決しようってのか?
「警告はしたからな! 引き上げろよ!」
やがて太平洋保安公司の輸送ヘリが着陸し、太平洋保安公司のコントラクターたちを回収すると離陸して飛び去って行った。
『どうします、レオパード?』
『王都をどの道、焦土にしようって腹か。どうあってもどこかの誰かさんにとっては戦術核並みの被害がもたらされないと納得できないらしい』
羽地はそう呟くように言う。
『どうあっても戦術核を回収するか、破壊し、絨毯爆撃を止めさせる』
羽地は決意を込めてそう言った。
『タイタンよりレオパード。状況デルタ・デルタが全民間軍事企業に発令された。連中の戦略爆撃機に出撃命令が出ている。戦術核の回収が困難ならば、回収を行う』
『レオパードよりタイタン。状況は認識している。だが、大丈夫だ。なんとかする』
だが、なんとかとはなんだ? どうやって戦術核を追えばいい?
『空間情報軍団に過去72時間の王都の航空偵察映像を要請。ダミーの戦術核がどこから運び込まれたかを調べる。その先に、本物の戦術核があるはずだ』
羽地は戦術脳神経ネットワークにアクセスして情報を得る。
既に羽地の要請を受けて、分析された映像が送られてくる。
戦術核のダミーは王都の倉庫街から運び出され、神聖王国騎士団のいた王立記念公園に送られていた。同時に全く同型の爆弾が倉庫街から運び出されている。
その送り先は王都王城。
『戦術核は王城に持ち込まれている』
王城はこの王都で最も高い位置に位置する建造物だ。戦術核の破壊効果を期待するならば、戦術核を王城に運び込んでも何らおかしくはない。
『王城に向かうぞ! 総員乗車! 急げ、急げ! 戦術核が炸裂しなくとも、民間軍事企業の連中が王都を絨毯爆撃するまでそこまで時間がないぞ!』
『了解』
羽地たちは来た道を引き返し、軍用四輪駆動車と軍用トラックに便乗すると、王城を目指して突き進み始めた。
王立記念公園から王城までは10キロほどの道のり。
ただし、神聖王国騎士団のゲリラたちが山ほど潜んだ状態での10キロだ。
『対戦車ロケット弾!』
『撃て、撃て!』
『弾をばら撒け! そして、飛ばせ!』
神聖王国騎士団のゲリラたちは羽地たちの車両に銃弾や対戦車ロケット弾を浴びせようとする。羽地たちは半ば自棄になりながらその銃弾の嵐の中を突っ切り、王城のゲートを破壊して侵入した。
『放射線値は?』
『基準より高いです。戦術核が輸送されたものと思われます』
『よし。今度こそ当たりだろう』
戦術核を追い続てきたが、これでようやくビンゴだ。
『神聖王国騎士団の新手です! 王城内も連中が占領しています!』
『突っ切るぞ! 行け、行け、行け!』
羽地を先頭に日本情報軍部隊は前進していく。
大量の鉛玉が飛び交い、お互いに降り注ぐ。だが、優勢なのは羽地たち日本情報軍部隊だ。彼らと神聖王国騎士団の間では練度の差に大きな違いがある。ここまで差があるのに、羽地たちが勝利できないはずがない。
羽地たちは先遣隊とともに王城内の神聖王国騎士団のゲリラたちを排除していく。ゲリラたちは王城内の使用人なども無差別に殺害したらしく、あちこちに死体が転がっている。まるでそれが当り前だというように民間人の死体が転がっている。
「異国の侵入者どもを排除しろ!」
神聖王国騎士団の指揮官が叫ぶ。
『レオパード。この城の主はどうなっているんです?』
『この騒ぎが起きてからすぐに民間軍事企業が連れ出している。無事だ』
『いいことなのやら、悪いことなのやら』
『今は考えるな。前の前の敵を殺し、戦術核を奪還することだけを考えろ』
『了解、レオパード』
城内の銃撃戦は苛烈さを増し、あちこちから神聖王国騎士団のゲリラが飛び出てくる。一体どれだけの亜人に武器を与えたのだというくらい、大勢のゲリラが羽地たちの行く手を遮り、通すまいと弾幕を展開してきた。
『手榴弾!』
羽地がそう言って手榴弾を投擲する。
手榴弾はマークされた目標の地点で空中炸裂し、殺傷範囲を広げる。
『このまま押し込むぞ。放射線値は?』
『先ほどより高くなっています』
『近づいている証拠だな』
羽地はそう言うと目の前の神聖王国騎士団のゲリラの頭と胸に鉛玉を叩き込み、突き進んだ。
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