神聖王国騎士団
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──神聖王国騎士団
王立記念公園での戦闘は激化しつつ、続く。
敵は公園内に装甲車──BMP-3歩兵戦闘車まで持ち込んでおり、100ミリ低圧砲と30ミリ機関砲、7.62ミリ機関銃がでたらめに砲弾と銃弾を打ちこんで来る。公園内の遮蔽物は破壊され、羽地たちは追い詰められる。
『レオパード。航空支援を要請しましょう』
『そうだな、ジャガー。レオパードよりナインテール。航空支援を要請する。目標をマークした。座標と使用する兵装に関する情報を送る』
羽地が目の前のBMP-3歩兵戦闘車をマークする。
『ナインテールよりレオパード。航空支援を要請を確認。攻撃まで2分』
上空からジェット機の音がする。
『目標を攻撃、目標を攻撃』
アヴェンジャー機関砲が装甲車を破壊し、吹き飛ばす。神聖王国騎士団はこれで多少は怯んだようであり、後方に撤退する。
「押し込め! 援護する!」
「行け、行け、行け!」
太平洋保安公司の部隊が羽地たちの援護を受けて前進する。
次は太平洋保安公司が羽地たちを援護して、羽地たちが前進する。
だが、予想外だったのは神聖王国騎士団が羽地たちの予想以上に自分たちの理念と──ドラッグに酔っていたということだ。ドラッグで痛みを消した子供兵などが投じられ、羽地たちは厄介な敵を相手にすることになった。
『胸に二発、頭に一発だ。確実にミンチにしろ』
『了解』
この命令はアリスたちも聞いているのだよなと羽地は思う。
これもまた彼女たちの発育のためには悪影響だろうかと彼は考える。
まあ、教育にいいはずがないかと思った。
銃弾が飛び交い、死を恐れない子供兵相手に牽制射撃は通用しない。確実に胸と脳天に鉛玉を叩き込んでやらなくてはならない。
特殊作戦部隊らしい正確な狙いで羽地たちは胸と頭に鉛玉を叩き込む。痛みを感じない子供兵は痛覚をマスキングしている特殊作戦部隊のオペレーターと同じだ。確実に潰さなければ彼らのでたらめな射撃でも脅威になる。
それにしても数が多い。次から次へと湧いてくる。
羽地たちと太平洋保安公司の特殊作戦部隊は確実に戦術核に向けて前進を続けていくが、死体が積み重なっていく。死体が、大量の死体が積み重なっていく。
無垢な子供兵の死体が胸と頭を撃ち抜かれ、地面に倒れている。それはぼんやりとした瞳をしていて、部隊に配属されたばかりのアリスの多目的光学センサーのようで、羽地にちょっとした嫌悪感を催させた。
それでも羽地たちは前進を継続する。
相手が対戦車ロケット弾を乱れ打ちにしてきたのに遮蔽物に隠れ、空中炸裂型グレネード弾を放つ。グレネード弾に搭載された敵味方識別機能と戦闘行動検出プログラムにより、グレネード弾は対戦車ロケット弾を構える兵士たちのど真ん中で炸裂した。
一気に複数の敵兵がなぎ倒され、同時にロケット弾が明後日の方向に飛ぶ。
「便利な玩具を持っているな?」
「会社が優しいものでね」
「羨ましい限りだ」
太平洋保安公司の特殊作戦部隊のコントラクターが言うのに羽地はそう返す。
「では、前進を続けよう」
「ああ」
羽地たちは前進していく。
子供兵を殺し、大人の兵士を殺し、羽地たちが一方的に悪だと決めつけた連中を殺していく。正義とは何かなんて思春期の子供のような気取った悩みは抱かないが、彼らには彼らの正義があって戦っていると思うと、俺たちの正義ってのも絶対じゃないなと羽地は思った。
ただ、戦術核を使用しようとしているのは明確な悪だ。子供じみた正義感でも、大国思考の極致にあるエゴイズムでもない。
「敵のテクニカル! 対空機銃を搭載! 伏せろ、伏せろ!」
4連装対空機関銃を搭載したテクニカル2台が戦場である王立記念公園に乱入し、機関銃弾を撒き散らす。大口径ライフル弾が遮蔽物を刈り取り、羽地たちは頭を押さえつけられる。
「どうやって潰す?」
「騎兵隊に参上願おう」
羽地は一瞬だけ遮蔽物から視線を出し、2台のテクニカルをマークする。
『レオパードよりナインテール。航空支援を要請する。目標はマーク。敵は対空機関銃を装備。警戒せよ。以上』
『ナインテール、了解。イノシシを突撃させる』
QA-10無人攻撃機が攻撃態勢に入り、上空から地上に向けてハイドラ70ロケット弾をばら撒く。誘導システムが備わったそれは羽地がマークした目標に的確にロケット弾をデリバリーし、2台のテクニカルを完全に吹き飛ばした。
テクニカルが吹き飛び爆発四散すると同時に羽地たちも動き始める。航空攻撃で混乱する敵を押さえつけ、吹き飛ばし、撃ち抜き、テンポよく前進していく。敵は混乱のただなかにあり、散発的な抵抗しか見られない。
『──我々は戦い続ける! 何があろうと戦い続ける! 我々が引くことは決してない! この神聖な国土に土足で上がり込んできた異世界の敵どもよ! 覚悟するがいい! 貴様らはここで絶えるのだ! 我々は決して屈しない! その意志を示す!』
『タイタンよりレオパード。放送は間違いなくライブ映像だ。ドローンの爆撃した音も含まれている。戦術核までは残り僅か。炸裂するまでに押さえてくれ』
神聖王国騎士団の気が狂ったような演説と電子情報軍団の冷静な分析が同時にやってくる。羽地たちは敵を掃討しながら、戦術核に迫る。
戦術核までもう少し。あと少し。
その時、前方でカラシニコフを乱射していた子供の頭が爆ぜた。
「そっちの銃弾か?」
「違う! そっちだろう!?」
「こっちでもない。畜生。狙撃手だ」
羽地が状況を確認しようとして銃を乱射しながら頭を上げるのに銃弾が彼の頬を掠めていった。敵は即席ながら狙撃手まで養成したらしい。
「どうするね?」
「待ってくれ」
太平洋保安公司の特殊作戦部隊が困ったように尋ねると羽地はそう言う。
『アリス。音響システムで敵の位置を割り出してくれ。俺が発砲を誘い込む』
『危険です、先輩』
『大丈夫だ。敵の狙撃手はそこまで腕がよくない』
『……了解』
羽地は用心深く頭を遮蔽物から出す。
銃弾が鼻先を掠めていくのに、すぐに頭を引っ込めた。
『アリス。敵の位置は?』
『この位置です』
『了解。イノシシに頼もう』
羽地は敵の狙撃手の位置情報を戦術脳神経ネットワークに上げるとともに、航空支援を要請する。
『ナインテール。何度も悪いが航空支援を要請する。敵の狙撃手だ。位置は戦術脳神経ネットワークに上げた。排除してくれ』
『ナインテールよりレオパード。了解』
再び上空をQA-10無人攻撃機が旋回し、狙撃手が隠れている建物に向けて対戦車榴弾仕様のロケット弾とアベンジャーズ機関砲の砲弾が叩き込まれた。
『爆撃戦果確認中……。よし。目標と思しきものを排除した』
『了解、ナインテール。感謝する』
ドローンの撮影した映像には狙撃銃と散らばった狙撃手の肉片が映っていた。
「前進再開だ」
戦術核までもう少し。
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