宣戦布告
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──宣戦布告
上空を飛行中の電子情報軍団の電子戦機がその放送をキャッチしたのは羽地たちが王立記念公園に突入してから、3分後のことだった。
『タイタンよりレオパード。インターネットを通じて神聖王国騎士団がライブ放送を実施中。戦術核らしきものが見える。確認してくれ』
『了解』
電子情報軍団からのメッセージに羽地が戦術脳神経ネットワークにアクセスする。
『──宣言する! 我々の神聖なる国土を踏みにじり、穢し、民から搾取したものたちへの懲罰を行うと! 我々は我々の国土を守らなければならない! 異国の敵を討ち取り、素の独立と尊厳を勝ち取らなければならない!』
演説を行っているのは甲冑姿の中年の亜人で、甲冑にカラシニコフというジョークのような組み合わせをしていた。
そして、その背後に戦術核が見える。
間違いない。ロシアの戦術核保管庫で確認したものと一致する。
『レオパードよりタイタン。目標だと推測する』
『タイタン、了解。現在発信源を特定中。畜生、なんだ。3か所から同時に流れているぞ。ライブ映像じゃないのか?』
電子情報軍団のオペレーターの取り乱した様子から羽地は不味い予感を感じ取っていた。3か所からの同時配信。それは録画されていた情報ではないのかと。
『タイタンよりレオパード。大丈夫だ。突き止めた。“ユリカモメ”の回線に同時に送信しているが、元の発信源まで特定できた。座標を送る。太平洋保安公司の部隊が特定された場所の近くだ』
『レオパード、了解』
オーケー。まだ取り返しようがあると羽地は思う。
神聖王国騎士団のライブ配信は自分たちの国の苦難の歴史を演説している。
戦術核を背景にして。
そのまま戦術核を炸裂させるつもりか? 殉教者にでもなろうってのか? どうかしているとしか思えない。あの距離で核爆発を浴びたら影しか残らないだろう。いくら広島に投下された原爆の3分の1の威力でも、核兵器は核兵器なのだ。
『リカオン。ここからの指揮は俺が取る。いいか?』
『了解した、レオパード。頼むぞ』
羽地は王立記念公園内部を徒歩で進む。
王立記念公園は遮蔽物が多すぎて待ち伏せには最適であり、それが羽地の精神をささくれ立たせていた。これは危険すぎる。できれば爆弾で薙ぎ払ってから進みたいものだと羽地は思っていた。
『──国辱である! まさに国辱である! 我々は正当な国家として、神に認められた国家としてここに宣言する! 異国の敵を殲滅し! 勝利し! 我々から失われた精神を取り戻すと言うことを! 愛国心を取り戻すのだ! 我々からそれが失われてから、時間が経つが、今こそ結束と勝利と復興のとき!』
戦術核で取り戻す愛国心とやらは相当大したものに違いないなと羽地は思った。
『ナインテールよりレオパード。無人攻撃機がスタンバイ。いつでも航空支援は可能。オプションはアヴェンジャー、マーヴェリック、ハイドラ70。以上』
『レオパード、了解』
ついに航空支援のオプションが解除された。
いざとなれば戦術核を対戦車ミサイルで吹っ飛ばす。
核兵器の爆発は普通の爆弾の爆発とは異なる。爆縮レンズという精密に構成された構造の中での爆発が核分裂反応を引き起こし、核爆発に至るのだ。外部からの無計画な爆発では核兵器は爆発したりしない。ただ、放射性物質は飛散するので退避する必要はある。
だから、戦術核を対戦車ミサイルで吹っ飛ばすという発想が出るのだ。
そこで不意に銃声が響き始めた。
『誰か銃撃を受けたか?』
『いいえ。銃声は前方からです。太平洋保安公司の部隊が交戦しているのでは?』
『考えられるな。急ごう』
羽地たちは第6世代の熱光学迷彩を起動すると姿を隠して前進する。既にリカオンのチームも熱光学迷彩を起動しており、その姿がAR上でのみ確認できる。
とは言え、昼間の熱光学迷彩の機能はある意味では限定的だ。どうしても背景との微弱な変化が生じる。それをカバーするには特殊作戦部隊のオペレーターの腕前が試されると言ったところである。
隠密作戦を続け、銃声のする方向に向かっていく。
『太平洋保安公司の部隊を視認。現地住民と銃撃戦を繰り広げている。押しているな』
『流石はビッグシックスの犬ってところでしょう、レオパード』
『そうだな、クーガー』
ただの犬ならいいんだけどな。
『太平洋保安公司の部隊と合流するのか、レオパード』
『どうするべきか纏っている、リカオン。こちらと太平洋保安公司が衝突するのは時間のロスだ。だが、共同作戦なら熱光学迷彩は使えない』
『畜生。今は合流するべきだと思う。太平洋保安公司とやり合っている暇はない。連中、かなりのプロだぞ。プロ同士分かり合えることもあるだろう』
『了解、リカオン。接触を試みる。待機していてくれ』
羽地は熱光学迷彩を解除し、太平洋保安公司の撃ち合っている陣地に滑り込む。
「なんだ、お前は!?」
「シェル・セキュリティ・サービスだ。同じ目的できている。あの爆弾に関心があるんだろう? 俺たちも同じだ」
「ああ。同業か。しかし、そちらが派遣されるという情報は聞いていない」
「別の雇い主だ。なあ、共同戦線と行かないか? お互いに撃ち合っても無益どころか有害だ。ここは協力してあのクソッタレな爆弾を取り戻そう」
「……いいだろう。こっちも人手不足で困っていた。1チーム壊滅したらしくてな」
「オーケー。決まりだな」
羽地が頷く。
『レオパードより全ユニット。熱光学迷彩を解除。ARにIDを表示しろ』
『了解』
八木たちが姿を見せ、配置に着く。
「お互いに援護し合いながら前進しよう。こちらはシェル・セキュリティ・サービスのタグを表示している。ARで確認して、発砲には注意してくれ。それではここから飛び出すぞ。まずは俺たちが援護する」
「了解。頼むぞ」
八木たちが銃撃を行う神聖王国騎士団を牽制する射撃を行い、その隙に太平洋保安公司の部隊が前進する。銃弾が駆け抜け、唸り、砕き、爆ぜる中を羽地たちは銃撃を行いながら急ぎ足で突撃していく。
次は太平洋保安公司の部隊が援護を行い八木たちが前進する。
そうやってお互いを援護し合いながら、羽地たちは王立記念公園を前進していく。
『ライブ映像の発信源まではどれくらいだ?』
『残り5キロです』
『無駄に広い公園を作りやがって』
そう言いながら羽地は空中炸裂型グレネード弾を発射する。
空中炸裂型グレネード弾が炸裂し、一気に4名ほどの命が奪われる。
そこで羽地は公園の中の碑文に気づいた。
『地球とティル・アンジェル王国の友好を祝してこの公園を建造した。今後ともこの友好が続いていくように』
碑文にはそう書かれていた。
皮肉なものだ。友好のために作られた公園で戦術核の奪い合いのために地球の人間たちとティル・アンジェル王国の亜人たちが撃ち合っているなんて。
「前進、前進」
だが、今思うのは友好のことではない。如何にして戦術核を奪還するか。それだけだ。今はそれだけ考えていればいい。
銃弾が飛び交い、手榴弾が投擲され、対戦車ロケット弾が火を噴き、友好を記念した公園は完全な戦場と化していた。
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