追跡
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──追跡
先遣隊指揮官のリカオンと羽地は爆破された商会内を見て回った。
『ここの端末に爆発物が仕掛けてあったらしい。しかし、太平洋保安公司もなってないな。爆発物を想定して行動するべきだっただろう。全員が室内に入るべきじゃなかった』
『そうだな。しかし、彼らは戦術核の取引相手を割り出した』
『俺たちよりも早く。降参だよ。奴らはよくやった』
リカオンは端末を調べようとしたが、完全に物理的に破壊されており、データを復元することはできそうになかった。
『畜生。太平洋保安公司の言うことを信じるしかないな』
『待て。無線が鳴っている』
太平洋保安公司のコントラクターが身に着けていた無線が音を発していた。
『ベータ・チームよりアルファ・チーム。アルファ・チーム、応答せよ。アルファ・チーム、応答せよ。戦術核を現在追跡中。応援を求む。アルファ・チーム、応答せよ』
焦ったような口調で無線から音声が聞こえる。
『連中、コントラクターたちに体内情報タグを埋め込んでいないのか? 連中はもうアルファ・チームとやらが全滅していることを知らないのか?』
『その必要はないと思ったんだろう。それに上空じゃ、うちの電子戦機がうろうろしてる。余計な電波を出して、作戦について察知されるのを嫌がるのは当然だ。この部隊そのものが秘匿された存在であるならば、なおのこと』
『それもそうだな。太平洋保安公司が戦術核を取り逃したことを知られれば、叩かれるのは大井だ。大井としては知らぬ存ぜぬを貫き通しつつ、最悪の事態の回避に動いている、というところなのだろう』
羽地とリカオンがそう言葉を交わす。
『まあ、いい。電子情報軍団にベータ・チームの居場所を割り出してもらおう。そうすれば戦術核まであと数歩だ。確実に獲物を捕える』
『了解、リカオン。戦術脳神経ネットワークに要請する』
体内の反応に戦術脳神経ネットワークが反応し、行動を起こす。
『特定できた。王都内部で電波を出しているのは一か所だけだ。地図の表示する。AR上で確認してくれ』
『確認した。割と離れているな』
『車両の援護は?』
『一応足は準備している。装甲の張られていないトラックだが。それでも目標まで近づくには十分だろう。そっちは車両部隊がいたよな?』
『ああ。装甲と武装がある』
『先頭を頼めるか? 俺たちのトラックじゃあ些か不安だ』
『了解。要請しよう』
羽地が車両にいる八木たちを呼び出す。それと同時に先遣部隊のトラックも到着する。トラックは本当に装甲も武装もない、軍用トラックだった。
『ジャガー。先頭で誘導してくれ。目的地の情報は戦術脳神経ネットワークで共有できているだろう?』
『了解、レオパード。向かいましょう』
八木たちの軍用四輪駆動車が先頭を進み、その後からトラックが続く。羽地たちは軍用四輪駆動車の方に移り、羽地が1台の軍用四輪駆動車を運転する。
『敵は過激派に戦術核を渡している。渡しているのが戦術核だけとも限らない。最悪を想定して動くぞ。対戦車ロケット弾や重機関銃に警戒』
『了解』
戦術核を与えるぐらいだ。対戦車ロケット弾や自動小銃の類も渡していると見るべきだろう。得てしてこの手の排外主義者とやらは、口では都合のいいことを言いながらも、他国で作られた品を嬉々として使うものだ。
『空間情報軍団が空からカバーしてくれている。空軍基地に攻撃ドローンも到着した。いざとなれば戦術核を吹っ飛ばしてもらうぞ。炸裂する前にな』
QA-10無人攻撃機2機が空軍基地に到着していた。今はいつでも出撃できるように待機している状態だ。マーヴェリック対戦車ミサイルとロケットポッドを搭載している。
『前方に暴徒の集団と思しきものを視認。どうします?』
『威嚇射撃で追い散らせ。面倒ごとはごめんだ』
『了解』
古今が報告するのに羽根がそう言う。
重機関銃の重々しい銃声が響き、暴徒の群れが押しのけられるようにいなくなる。
かと、思った瞬間、噴煙が見えた。
『対戦車ロケット弾!』
『回避! 回避!』
羽地たちはアクセルを全開にし、対戦車ロケット弾をギリギリで回避する。対戦車ロケット弾はそのまま後方に飛び去り、建物に命中して炸裂した。
『畜生。敵は対戦車ロケット弾を持っているぞ。洒落にならん』
『どうします!?』
『戦術核がいつ炸裂するか分からんのにのんびり応戦している暇はない。突っ切るぞ。重機関銃から50口径を叩き込め!』
『了解!』
2台の軍用四輪駆動車は50口径重機関銃から大口径ライフル弾を叩き込みつつ、迅速に群衆の引いた道路を突っ切ろうとする。その中から対戦車ロケット弾が飛んできて、かなりきわどい場所で爆発する。
『リカオンよりレオパード。突破できるのか!?』
『できなきゃ終わりだ』
『了解。こっちも応戦する』
トラックの荷台からも周囲の建物から飛来する対戦車ロケット弾の発射地点に向けて鉛玉が次々に叩き込まれる。アリスたちミミックはサーマルセンサーも利用して、対戦車ロケット弾の発射地点を割り出し、目標をマークして行っている。
マーカーに従って重機関銃や自動小銃、グレネード弾が火を噴く。
『前方から対戦車ロケット弾、複数!』
『回避しろ!』
爆発音とともに先頭を進んでいた八木の車両が横転する。
『畜生。ジャガーたちを救出する。月城、マーカーに従って撃ち続けろ』
『了解』
羽地がアリスとともに横転した軍用四輪駆動車に向かう。
『クーガー、クーガー。おい、古今、しっかりしろ』
『あ、ああ。大丈夫ですよ、レオパード。オールグリーンです』
『ならとっとと外に出てトラックに乗り込め。このままだと蜂の巣にされるぞ』
『了解。スミレは?』
『俺たちが助けておく』
『頼みますよ、レオパード』
羽地は軍用四輪駆動車をアリスとともに押すと、軍用四輪駆動車が元の姿勢に戻る。
『ジャガー。しっかりしろ、ジャガー』
『畜生。七海は無事ですか?』
『無事だ。彼女は起きてる。脱出して、トラックに乗り込め』
『了解』
八木は七海を抱き上げると、トラックに急ぐ。
『スミレ。無事か? 無事だな?』
『ええ。大丈夫ですよ、少佐。怪我はなし。オールグリーンです』
『上等だ。急いでトラックに移れ。クーガーが待っているぞ』
『イエス、サー!』
スミレも軍用四輪駆動車の扉を開けてトラックに急いだ。
『レオパードよりリカオン。こっちの4名は無事にトラックに乗ったか?』
『搭乗を確認した。準備完了だ』
『火力はさっきより落ちるが仕方ない。突破しよう』
『了解』
羽地たちは重機関銃と自動小銃を乱射しながら押し進む。
『この先王立記念公園。電波の発信源までまもなくです』
『このまま突破するぞ。戦術核が炸裂する前に押さえないと、今回は輸送機がギリギリで助けに来てくれるという保障はないからな』
羽地は全速力で軍用四輪駆動車を飛ばし、やがて王立記念公園という広場に入った。電波の発信源はこの公園の中だ。
この近くに戦術核がある。
そう思うと羽地はぞわりとするものを感じた。
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