過激派と過激派
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──過激派と過激派
電子情報軍団は未だに通信を傍受し続けている。
非常事態宣言のレベルが2から1に引き上げられた。事実上のデフコン1だ。
王都郊外の空軍基地からは頻繁に戦闘機が離着陸すると同時にさらに遠方に設けられた空軍基地には各社の戦略爆機機が集結しつつある。量子暗号通信のため一部の通信は解読できなかったが、彼らは『状況デルタ・デルタ』に備えつつあるという。
空間情報軍団のドローンは王都郊外の空軍基地からさらに民間軍事企業が撤退する様子を映し出し、多数の輸送機が戦闘機の合間を縫って着陸してはコントラクターたちを回収している様子を映し出していた。
まさに沈む船から逃げるネズミの群れだ。
チェックポイントの人員も引き上げを始め、もはやどこにも民間軍事企業のコントラクターたちはいなくなりつつあった。
それとは逆方向に王都内部に向けて進んだ羽地たちは、先遣隊として派遣されていた特別情報軍団の兵士たちとの接触を目指していた。
突如として銃声が響く。
『クーガー。自警団の発砲か?』
『違うようです、レオパード。統制された銃撃戦です。自警団のようなでたらめな発砲とは明らかにことなります』
『発砲者を確認しろ。ドローンも使っていい』
『了解』
古今がバックパックから戦術級小型ドローンを取り出し、飛ばす。羽地はそれと同時に戦術脳神経ネットワークを介して、現場周辺の映像を空間情報軍団に要請した。
ドローンが放たれ熱光学迷彩で守られたそれが上空を飛行し、上空からの映像を羽地たちに提供する。空間情報軍団の戦略級超大型ドローンも向きを変え、現場上空の写真を撮影し始めた。
『レオパード。撃ち合っているのは大井の特殊作戦班とやらとうちの会社の部隊です。不意な遭遇戦だったらしく、お互いを認識しないまま撃ち合っているようです』
『確認した、クーガー。お互いの間に割り込んで止めるぞ。お互いに潰し合っても何の得もない。全員、戦闘準備』
『了解』
音を立てて自動小銃のチャンバーに初弾が送り込まれる。
『空間情報軍団からの朗報だ。敵は対戦車火器は保有していない。50口径をばら撒いて、敵を蹴散らせ。殺す必要はない。向こうは少なくとも戦術核を回収に来ているはずだ。それなら間接的にはこっちの味方だ』
『了解』
防弾仕様の軍用四輪駆動車ならば、銃撃戦のただなかに割り込んでもどうにかなるだろう。相手が対戦車榴弾のグレネード弾を使用して来ない限り。
『行くぞ。突っ込むからな。3カウント』
3秒のカウントの末に軍用四輪駆動車が銃撃戦を繰り広げる太平洋保安公司とシェル・セキュリティ・サービスの部隊の間に割り込み、50口径の機関銃を乱射した。
太平洋保安公司の部隊は羽地たちのIDを見たのか、はたまた50口径の機関銃に押されたのか、すぐさま撤退していった。
『クリア』
『用心して降車しろ。友軍と合流するぞ』
友軍の方もピリピリしているだろうからなと羽地が言う。
「シェル・セキュリティ・サービスか!」
『そうだ! 戦術脳神経ネットワークを使ってくれ』
『ああ。すまん。ついさっきまで話の通じない連中と撃ち合ってたんでな』
シェル・セキュリティ・サービス所属のはずの特別情報軍団の兵士たちの所属は民間人となっていた。道理で太平洋保安公司に怪しまれて銃撃を受けるわけだと羽地は呆れたように思った。
『どうして会社のタグを剥いでるんだ?』
『どこで誰が見ているか分からないからだ。俺たちはかなり粗っぽい方法も使うものでね。会社の看板を下げていてはやれないこともやる』
『なるほどね』
羽地が一応の理解を示す。
『それで戦術核は?』
『王都に運び込まれたことは確認した。問題はその送り先だ』
『特定できたのか?』
『ああ。現地住民の商会に送られていた。戦術核を地球の雑貨を扱う店に送りつけたんだぞ。何かあると見ている。これから踏み込むところだ。いざとなったら戦術核を解体しなければならない』
『作戦には参加できるぞ』
『ありがたい。さっきの撃ち合いで2名負傷した。代わりに2名参加してくれ』
『分かった。俺とアリスが行こう』
羽地はアリスの方を向く。
『アリス。準備はいいか?』
『大丈夫です、先輩』
『よし。戦術核の奪還だ』
羽地が八木たちの方に向かう。
『ジャガー。バックアップを頼む。いざという時は車両の支援が必要になるはずだ。近い位置で待機しておいてくれ。だが、作戦の主導権は先遣隊の方にある。俺からの指示ではなく、先遣隊の指揮官の指示で行動してくれ』
『了解、レオパード』
先遣隊のIDが切り替わり、シェル・セキュリティ・サービスのIDになる。名前と階級は隠されているがコールサインは表示される。指揮官のコールサインはリカオン。
『リカオン、早速始めよう。目標の建物は?』
『ここから2ブロック先だ。大井の方が先についているかもな』
『了解』
羽地はリカオンの指揮下に入り、アリスとともに散発的な銃声の響く王都内を進んでいく。銃声は遠くから響き、近くは静かなものだった。太平洋保安公司の特殊作戦班とやらが制圧したのかもしれない。
そこで突如として巨大な爆発音が響いた。
『なんだ?』
『畜生。目標の建物だ。吹っ飛ばされている。だが、核の爆発じゃない』
『それぐらいは分かるよ』
全員がガイガーカウンターを持っているが、ピクリとも反応する様子はない。戦術核を解体しようとして爆破したわけでもなさそうだ。
『リカオンよりレオパード俺たちが先行する。後方から援護してくれ』
『了解』
先遣隊部隊6名が先に進み、羽地たちが後ろからバックアップする。
『太平洋保安公司の特殊作戦部隊だ。やられてやがる。全滅だ』
問題の商会の建物では通常の爆発物が炸裂したらしく、鉄片に引き裂かれて、大勢の太平洋保安公司の特殊作戦部隊のコントラクターたちが倒れていた。いくら痛覚をマスキングしていても、体内循環型ナノマシンがあったとしても、これでは即死だという傷だった。数は5名。どうにもおかしい。
「動くな」
そこで路地裏から兵士が出てきた。太平洋保安公司のコントラクターだ。
「警戒するな。同業だ。何があった?」
「トラップに嵌った。俺たちは戦術核の行方を特定したところでドカンだ。畜生」
「戦術核の行方を特定したのか?」
「ああ。見つけた。あのクソ野郎ども。よりによって過激派に戦術核を渡しやがった。“神聖王国騎士団”だ。異世界版のナチどもだ。極度の排外主義者と人種差別主義者。連中が核を受け取っている」
「確かか?」
「証拠は消し飛んだ。俺の頭の中にあるのが全て……」
そこで太平洋保安公司のコントラクターが倒れた。
『畜生。出血多量だ。出血性ショックだろう。助からない』
『だが、戦術核の行方は分かった』
『ああ。神聖王国騎士団の話は聞いたことがある。連中なら核を使うだろう』
『過激派が過激派に武器を供与するとは』
『世の中、信じられないことだらけだな?』
リカオンがそう言うと爆発現場を調べ始めた。
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