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企業間交流パーティー

……………………


 ──企業間交流パーティー



「手荷物検査です。ご協力を」


 国際経済センターの入り口には太平洋保安公司のコントラクターが陣取り、警戒に当たっていた。それもそうだろう。今日はビッグシックスを含めた異世界に進出している企業の代表や重役が集まるのだ。


 ここがテロで狙われる標的になりかねないことは彼らも把握している。それ故に自爆トラック防止用の防壁や50口径の機関銃を搭載した軍用装甲車が配置されているのだ。


 国際経済センターに入る際にはID認証が行われ、所属を確認され、それから手荷物検査を受ける。羽地たちは偽装が完璧な状態で手荷物検査を通過する。自動拳銃の所持は護衛手段として認められていた。


 ここでは何が起きるか分からず、常に自衛のための手段を持つことは推奨されているのだ。この野蛮な大地で多国籍巨大企業のお偉方も武装しているのである。


 羽地たちは国際経済センターの入り口を通過すると、スマートグラスをかけた。スマートグラスのAR(拡張現実)画面に経路案内が表示される。羽地たちはその案内に従って、パーティー会場を目指す。


 パーティー会場の前にも武装した太平洋保安公司のコントラクターが立っていた。恐らく予備の部隊を含めれば1個小隊規模の太平洋保安公司の部隊がいるだろう。


 それらと自動拳銃1丁でドンパチするのは、流石にぞっとする。


『予定通りに行くぞ、八木大尉。暫くはパーティー会場で過ごす。それから俺とアリスはそれとなく会場を抜ける』


『了解』


 羽地たちはパーティー会場に入る。


 パーティー会場では和やかな雰囲気が漂っていた。いつもは敵対し、憎み合い、間接的に殺し合っているビッグシックスの代表たちも、ここでは静かなものだ。


『適当に挨拶して回ろう。取引相手から』


『自分はリストの下から』


『じゃあ、俺はリストの上から』


 ナイト・ファスト・ロジスティクスは複数の企業と取引関係にあった。ナイト・ファスト・ロジスティクスの仕事は主に輸送サービスで、それから輸送インフラの整備も請け負っている。輸送会社と土建会社が組み合わさったような会社だ。


 この未開の地ではそれなりに需要のある企業であり、ナイト・ファスト・ロジスティクスは企業のために飛行場を整備したり、ヘリでの輸送を行ったりと、幅広く活動している。だが、その中身は日本情報軍のダミー会社である。


 日本情報軍は異世界で活動するのにシェル・セキュリティ・サービスだけでは不十分と判断し、ナイト・ファスト・ロジスティクスを起業していた。ナイト・ファスト・ロジスティクスは最初はシェル・セキュリティ・サービスのために飛行場を作り、物資の輸送に従事していたが、仕事ぶりを聞いた他の企業からの依頼を受け、今に至る。


 羽地は取引先リストの上から挨拶回りをする。どの参加者がどこの企業の人間なのかは、AR上に表示されているため、迷うことはない。所属、役職、人名。それらが全てAR上に表示されている。


「どうも、西田重工業さん。お久しぶりです」


「ああ。ナイト・ファスト・ロジスティクスさん。この間はお世話になりました。おかげで商品がスムーズに運べるようになりましたよ」


「それなら何よりです」


 何も異世界に進出しているのはビッグシックスだけではない。普通の重機メーカーや土建企業も進出している。異世界特需というものはまだ続いており、地球の経済を大きく支えていた。


「それで、ナイト・ファスト・ロジスティクスさん。新規を開拓するつもりはありませんか。我々も偶然ながら、チャンスを手に入れましてね。大手企業なんですが、インフラ整備に人手が不足しているというのです」


「興味深いですね」


 羽地は本当のナイト・ファスト・ロジスティクスの社員のように頷いて見せる。


「私がご紹介しましょう。こちらへどうぞ」


 重機メーカーの役員に連れられて、羽地は移動する。


 そして、ぎょっとした。


「大井さん。例のうちのために飛行場と道路を整備してくださった会社の方です」


「これはこれは。初めまして。大井のシャルストーン共和国支部長をしている司馬宗司といいます。どうぞお見知りおきを」


 重機メーカーの役員が紹介した相手は、羽地がこれから端末にウィルスを仕掛けようとしている相手だった。


「どうもご丁寧に。ナイト・ファスト・ロジスティクスの羽地と言います」


「いやあ。こうして日本風の挨拶ができる相手と話せるのは良いことですね」


 他の外国企業はもっと図々しくてと司馬は笑う。


「ナイト・ファスト・ロジスティクスさんは外資系ですか?」


「ええ。アメリカ系企業です」


「ほう。うちのハスロ・スタークスと競合しているかもしれませんね」


 そう言って司馬は小さく笑った。


「まさかまさか。ビッグシックスと争うなんてとんでもない。うちのような零細企業ではおたくのような大きな企業とは相手になりませんよ」


「今はグローバルな時代ですからね。どんな相手が競争相手になるか分かりませんよ」


 そう言って司馬はシャンパンを飲み干した。


「それでは、西田重工業産さんの紹介でもありますし。うちもかなり手を広げていて、限界が近いので近いうちに商談をお持ちしてもよろしいですかな? ちょっとした野戦飛行場を作ってもらうだけでいいんです」


「うちにできることであれば」


「ええ。是非ともお願いしたい」


 そう言って司馬は羽地から離れていった。


『大丈夫ですか、レオパード?』


『寿命が3年ほど縮んだよ、ジャガー。これからパーティー会場を抜ける。そちらは予定通り騒ぎを起こしてくれ』


『了解』


 羽地はアリスを連れて、パーティー会場を出る。


『レオパードよりフォックスハンター。これより侵入を試みる。バックアップは任せた。これからエレベーターに近づく』


『フォックスハンターよりレオパード。エレベーターの一歩手まで止まってください。大井のオフィスフロアに繋がるエレベーターは警戒状態です。不自然に近づくとアラームがなります。こちらが解除するまで近づかないように』


『レオパード、了解』


 羽地はアリスとともにエレベーターから距離を取って待つ。


 太平洋保安公司のコントラクターがパトロールに来ないことを祈りつつ、電子情報軍団がいち早くセキュリティを解除してくれるのを待った。


『セキュリティ。解除完了。こちらで操作するので乗り込んでください。ボタンの類には触れないように。指紋認証がついています』


 エレベーターはひとりでに開き、羽地とアリスが乗り込むと扉が閉まった。


 それからエレベーターは12階に向けて進んでいく。


『すぐには下りないでください。出口に動体感知センサーがあります。それを解除したら4歩先へ。そこでナノスプレーを使ってください』


『了解』


 これじゃあ、完全にドローンの類になった気分だと思いつつも羽地は電子情報軍団の指示に従って行動する。扉の外の動体感知センサーが解除されるのを待ち、そして解除と同時に4歩先に進む。


『アリス。ナノスプレーだ』


『了解』


 羽地たちは全身に満遍なくナノスプレーを噴射する。これで限定的にではあるが第3世代の熱光学迷彩効果が得られる。


『レオパードよりフォックスハンター。次は?』


『そのままこちらの表示するARの情報に従って進んでください。まずは10歩先へ。そこで赤外線センサーがあるのでそれを無力化するまで待ってください』


『了解』


 羽地はただただ指示に従う。


……………………

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