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“ウルバン”の巨砲

……………………


 ──“ウルバン”の巨砲



 作戦名となっているバシリカとはハンガリーの技術者であったウルバンがオスマントルコ帝国に提供した巨大な射石砲の名前である。コンスタンティノープル包囲戦においてそれは使用されると同時に、爆発事故を起こしウルバンの命を奪ってる。


 現代に蘇った“ウルバン”の提供するバシリカは戦術核だろう。果たして“ウルバン”は己の提供した武器によってまたしてもこの世を去ることになるのか。


 羽地たちを乗せた輸送機はティル・アンジェル王国の飛行場に着陸する。現地では既に作戦のための軍用四輪駆動車も準備されていた。


 アリオール・タクティカルは古い野戦飛行場に積み荷を運び、ハヌマット・セキュリティは今も現地にいる。その状況から考えるならば、まだそこに戦術核が留まっている可能性はゼロじゃない。


 もちろん、敵がそこまで間抜けではないことはあり得るだろう。ハヌマット・セキュリティが移動していないのは、ただ単にそこが彼らの拠点だからという可能性もある。いつまでも危険な戦術核と同居したいと考えるほどロシア人も馬鹿ではないはずだ。


『では、全員AR(拡張現実)を開け』


 軍用四輪駆動車の車内で羽地が命じる。


 AR上に目標の地図が表示される戦術脳神経ネットワークのデータだ。


『作戦の第一目標はアリオール・タクティカル、超国家主義派ロシア軍、そして“ウルバン”の確認だ。俺とアリスで内部を偵察し、戦術核の有無と“ウルバン”の在否を確認する。古今軍曹とスミレはマークした地点から援護に当たれ。八木大尉と七海、月城曹長とリリスは合図があるまで脱出ルートの確保』


『了解』


 羽地はAR上で地図にマークを付けていく。


 古今の配置、八木の配置、月城の配置。


『飛行場には正面ゲートがあるが、わざわざそこから侵入はしない。外縁のフェンスを切断して、内部に浸入する。作戦オプションは隠密(ステルス)。現地にはハヌマット・セキュリティの部隊が最低でも1個小隊は存在する。俺とアリスが古今軍曹たちの支援を受けて潜り抜けられない。見つからないことが肝心だ』


『では、夜間に?』


『そうだ。夜間に仕掛ける。午前2時から作戦開始だ。戦闘前戦闘適応調整は全員受けているな? まあ、今回はロシア人たちは子供兵を使っている様子はないが、現地の政府軍は子供兵を動員している。紛争が始まったら、そいつらを薙ぎ倒して、脱出を目指すことになる。覚悟しておけ』


 羽地はそう言いながら、AR上の地図を見つめる。


『恐らくだが、可能性として一番高いのは空港の倉庫施設だ。そこを洗えば何か出てくるだろう。戦術核なり、“ウルバン”の痕跡なり。何も収穫がなければお手上げだ。“ウルバン”を追う手掛かりはなにもなくなる』


『ドローンを飛ばしますか?』


『仮にも相手は忠誠派ロシア軍を相手に長年戦争し続けてきた連中だ。小型の戦術ドローンになら音響システムなどで気づく可能性がある。俺とアリスがギリギリまで行って調べてくる方が確実だろう』


 第6世代の熱光学迷彩で姿を消せるドローンでもローター音で気づかれる可能性は皆無ではなかった。可能限りの静音設計だが、最新の音響監視システムは特定の周波数に対して、特に鋭敏に反応するようにできている。


 これまで軍閥がその手のセンサーを使ってくることはなかったが、相手は超国家主義派ロシア軍だ。ドローン対策もしていることだろう。彼らはこれまでこの手の見えないドローンを使用する忠誠派ロシア軍と西側の特殊作戦部隊を相手にしてきたのだから。


 隠密(ステルス)が優先事項。まずは戦術核と“ウルバン”に関する情報を集めなければならない。物事を荒立てていいのはそれからだ。それまでは静かにことを運ばなければならない。


『ここで降りる。ジャガーとオセロットはいつでも突入できる準備を。クーガーは配置に付け。クーガーが配置に付き次第、作戦を開始する』


『了解』


 羽地と古今たちは軍用四輪駆動車を降り、それぞれの配置に向かう。羽地たちはぐるりと大きく飛行場を回って、外縁のフェンスに取りつき、古今たちからの合図を待つ。


『クーガーよりレオパード。準備完了。いつでも始めてください』


『了解』


 羽地は静音ボルトカッターを取り出すとフェンスを切り裂いて穴を開ける。


 そして、そこから侵入を開始する。


 これまでの作戦を見てた作戦運用AI“建御雷”はウルバン追跡作戦“バシリカ作戦”を高度に有意と分析している。確かに“ウルバン”は未知の存在のままだが、幽霊のように姿を消したりすることはなくなった。


 羽地とアリスは現地の超国家主義派ロシア軍の支援団体であるハヌマット・セキュリティの警備を制圧し、回避しつつ、野戦飛行場の倉庫に迫る。


 そして、倉庫の中には空になった大井海軍のコンテナ。


 ID上では破棄されたそれが、この場所にあった。


 戦術核を輸送しただろう痕跡を残して。


「“ウルバン”は。そして、戦術核はどこに消えた?」


 羽地は呟くようにそう言う。


『クーガーよりレオパード。敵の歩哨がそっちに向かっています。暗視装置装備。警戒してください』


『了解。静かに片付ける』


 敵の歩哨は倉庫付近に来るとカギが破壊されていることに気づいた。


 それについて警告の声を上げようとしたところで、既に倉庫の外に出ていた羽地に喉笛を掻き切られ、腎臓を滅多刺しにされる。そして、死体を倉庫の中に押し込む。


 後は脱出するだけ。


 羽地たちは静かに飛行場を縦断し、反対側の外縁のフェンスに穴を開け、そこから逃げ出した。完全な隠密(ステルス)の達成だ。


『大井は海運事業から発達し、今のような巨大グループに変わった。大井海軍の破棄されたはずのコンテナがあった、というのは何かしらのかかわりを感じさせる。この件には本当に大井が関わっているのかもしれない』


『それが“ウルバン”の正体を暴く最後のピースになるでしょうか?』


『なることを祈りたいな。じゃなきゃ今回の遠足には全く意味がなくなる』


 羽地たちが発見したもの──大井海軍のコンテナ。


 そこからは放射線反応があった。


 そして、アリオール・タクティカルに金を出し、ポータル・ゲートの警備に当たっていた企業を傘下に収めていた大井。まずはコンテナの輸送IDを追跡し、破棄されたはずのコンテナがどうして今も存在するのかというのを確かめなければならない。


 確かに第501統合特殊任務部隊の司令官が懸念していたように、ポータル・ゲートのこちら側には高度な輸送追跡ステムは存在しない。どんな荷物でも民間軍事企業が適当に届けてしまう。記録を残すこともせず。


 だから、IDのない武器などが出回るわけである。


 だが、アリオール・タクティカルを捜査すれば何かしらの記録は出てくるだろう。大井海軍の破棄されたコンテナをどこから持ち出したのか、などについて。


 何も見つからないということはないはずだ。コンテナは実在した。後はアリオール・タクティカルがどこで、どうしてそれを輸送することになったのかを調べればいい。ハヌマット・セキュリティはいくら洗っても埃だらけで本当に欲しい情報は手に入らないだろう。超国家主義派ロシア軍の支援団体というだけで改定モントルー協定における民間軍事企業の資格剥奪対象だ。


 羽地はそう思いながら古今と合流し、八木たちと合流し、戦場を離脱した。


……………………

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