鉄道奇襲
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──鉄道奇襲
アルファ部隊とインディゴ特殊作戦群は事前に駅から民間人を装って乗り込むことにした。鉄道の旅のいいところは手荷物検査のないところだ。アルファ部隊はサプレッサー付きの短機関銃を、インディゴ特殊作戦群はサプレッサー付きのサブコンパクトモデルの自動小銃を、それぞれ車内に持ち込んだ。
予定時刻にアルファ部隊は先頭の運転室を制圧し、列車を止める。インディゴ特殊作戦群は客車と貨物車を切り離す。どちらも乗務員と乗客に扮して潜入した超国家主義派ロシア軍の妨害を受ける可能性がある。
そして、その前に羽地たちがコンテナを爆破して戦術核を押さえる。
ミスは許されない。戦術核のIDチェックは直前まで行われるし、アルファ部隊とインディゴ特殊作戦群は民間軍事企業の妨害にも注意する。
そして、作戦が開始された。
アルファ部隊とインディゴ特殊作戦群が駅で別々に鉄道に乗り込む。
それから静音仕様の特殊なローターとステルス素材を利用した輸送機が羽地たちを乗せて走行中のシベリア鉄道のコンテナに接近する。ローターの音は輸送機に乗っている羽地たちですら、僅かにしか聞こえないほどだった。
「IDチェック」
「先ほどの駅でも確認が行われていますが、間違いなく目標の戦術核です。今、リアルタイムでのIDチェックを実行中」
羽地の指示に月城がそう報告する。
「リアルタイムのIDチェック完了。事前の情報通りです。後方から3列目のコンテナ。2発の戦術核のIDはそこから発されています」
「よし。不確定要素は可能な限り排除したな」
後はコンテナを制圧し、戦術核を押さえる。
そして、客車から切り離された貨物車から戦術核を輸送機で運び出す。
「八木大尉。準備はいいか。ここからは戦術脳神経ネットワークを介してコミュニケーションする。準備は?」
「できています」
八木が頷き、七海も頷いた。
『それでは行くぞ』
輸送機が降下していき、しっかりと後列のコンテナと速度を同じくする。
そして、後部ランプから羽地たちが飛び降りる。
目標のコンテナから2つ離れたコンテナに着地、音には気づかれていないはずだ。
『足音と足元に注意。他のコンテナに超国家主義派ロシア軍がいないとも限りないし、連中は不審な物音に銃撃で応えないとも限らない』
『了解』
羽地たちはコンテナの上を着実に進んでいく。
『目標のコンテナ』
『爆破用意』
羽地とアリスが警戒する中、八木がブリーチングチャージに加工したミュート爆薬をセットする。ミュート爆薬はその名の通り静音性を有する爆薬だ。特殊な化学物質の組み合わせと爆破の衝撃波のコントロールによって爆発による音を限りなく小さくする。
強襲制圧用のスタングレネードが音を飛び切り大きく出して非殺傷性を維持しているのとは違い、こちらは全く静かに殺傷性と破壊力を有する。
『爆破用意よし』
『3カウント』
羽地は強襲制圧用のスタングレネードを準備する。
『点火』
ブリーチングチャージが静かに炸裂しそれと同時に羽地が強襲制圧用スタングレネードをコンテナ内に投げ込む。
炸裂音が響き、悲鳴が響く。
『行け、行け、行け』
羽地はアリスを援護し、それから自身もコンテナ内に降下する。
アリスと羽地はコンテナ内にいた超国家主義派ロシア軍の兵士たちを射殺し、コンテナ内を捜索する。
『クリア』
『クリア』
羽地とアリスが背中を預け合ってコンテナ内を制圧した。
『しかし、戦術核はどれだ?』
『先輩。ガイガーカウンターに反応がありません』
『何だって?』
しかし、羽地のARは確かにここからの戦術核のIDの送信を確認している。月城ももっと精密な端末でチェックして確認した。
『畜生。最悪だぞ。IDはどこだ』
『見つけました。戦術核の追跡IDだけを切り取ったようです』
『やってくれる。こいつは一番取り外し難い場所に設置されていたはずだぞ』
そして、羽地は最悪の事態を想定する。
『レオパードよりジャガー。他のコンテナの放射線値を測定してくれ。もしかすると、俺たちは釣られたのかもしれない』
『了解、レオパード。確認を急ぎます』
八木たちの装備しているガイガーカウンターはごく微量の放射線値でも検出できる機械だ。コンテナのケージ越しでも中に戦術核があれば確認できる。
『レオパードよりジャガー。どうだ?』
『ジャガーよりレオパード。全てのコンテナで反応なし。探知できません』
『なんてこった』
戦術核は積み込まれていない。戦術核はここにもない。
『レオパードよりシープドッグ。目標は存在せず。繰り返す、目標は存在せず』
『シープドッグ、了解。シープドッグより全ユニットへ、作戦中止、作戦中止』
戦術脳神経ネットワークを作戦中止命令が駆け巡る。
『ジャガーよりレオパード。テクニカルが接近中。民間軍事企業のIDです。こちらに銃口を向けています。50口径の機関銃と思しきものを視認』
『レオパードよりジャガー。そろそろインディゴ特殊作戦群が車列を切り離す。離脱準備を。テクニカルへの応戦は許可する』
それと同時に重機関銃も重々しい銃声が響き始めた。
『アリス。上に上がるぞ。ジャガーたちを援護する』
『了解』
人工筋肉にものを言わせてコンテナの上部まで飛び上がる。
『敵のテクニカルをマーク。クーガー、やれ』
『了解』
戦術脳神経ネットワーク上でマークしたテクニカルに、古今が25ミリという超大口径ライフル弾を使用する対物ライフルを向け、叩き込んだ。25ミリの炸裂弾はエンジンを吹き飛ばし、衝撃でテクニカルが転げまわりながら脱落する。
だが、すぐに次のテクニカルが登場する。
『戦術脳神経ネットワークより連絡。忠誠派ロシア軍の早期警戒管制機が民間軍事企業の攻撃ヘリ4機を確認。こちらに向かって急速に接近中。接敵まで10分』
『畜生。またか』
『攻撃ヘリは空対空ミサイルを積んでいる可能性があります。輸送機が危険です』
『レオパードよりシープドッグ。輸送機を一度退避させる。航空支援は?』
戦術脳神経ネットワークをメッセージと情報が飛び交う。
『シープドッグよりレオパード。その民間軍事企業のヘリは忠誠派ロシア軍の空軍を任されているアリオール・タクティカルのヘリだ。航空支援は行えない。独自の判断で交戦せよ。こちからからも可能な限りの支援を行う』
『レオパードよりシープドック。了解!』
半ば自棄になりながら、羽地はそう言った。
『輸送機はステルス機だが、目視で攻撃されれば危ない。退避させよう』
『了解』
羽地たちはインディゴ特殊作戦群が客車から貨物車を切り離すまで輸送機に移れない。途中で速度が変わってしまうと事故を起こす可能性がある。
本来ならば客車から戦術核を遠ざけて、回収するために必要な措置だったが、今となっては足枷でしかない。
『敵のテクニカル!』
『グレネード弾を使う』
羽地は目標をマークしグレネード弾を放つ。
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