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弾薬庫ではお静かに

……………………


 ──弾薬庫ではお静かに



 ロシア人の追跡を撒くのはアメリカ人に任せることにした。


 インディゴ特殊作戦群は日本情報軍も装備していない秘密兵器を持っているようで、軍用犬が追いかけてくることはなかった。


 ただ、足跡には用心し、なるべく敵のパトロールが巡回しない切り立った崖っぶちや急な斜面を人工筋肉に物を言わせて移動し、着実に戦術核の保管庫に迫った。


 長い長い20キロが終わり、ようやく戦術核の保管庫が見えた。


『目標視認。BRDM-2偵察戦闘車1両。歩兵4名』


『突破するしかないな。帰りの輸送機はここに送れるか?』


 羽地が戦術脳神経ネットワークに尋ねる。


『15キロ離れた地点に超国家主義派ロシア軍の対空火器(AAA)と地対空ミサイルのないエリアがあるからそこでランデブーか。ここでちょいと騒ぎを起こすと地獄の15キロになるな』


 羽地は考える。今を切り抜けるのに有効なツールはないかと。歩兵を始末すれば、装甲戦闘車がそれに気づく。そして、あっという間に無線に羽地たちの情報が伝わり、先ほど見た装甲車やテクニカル、歩兵が山ほど押し寄せてくる。


 最悪、超国家主義派ロシア軍は戦術核の保管庫で戦術核を炸裂させるだろう。核兵器は誘爆を起こすことはないが、戦術核も出力によってはこの山肌を削って作られた保管庫を吹き飛ばし、その外に影響を与える。


 フォールアウト──放射性降下物が撒き散らされる。


『レイピアよりレオパード。お困りの様子だが』


『装甲車を無力化しなければいけないが、そうすると騒ぎになる』


『それならいい玩具を持ってきた。世界最高峰の玩具会社(DARPA)の新作だ。試させてくれないか? 歩兵の始末はそっちに任せる』


『レオパードよりレイピア。了解。ヘマはしないでくれよ』


『言われるまでもない』


 インディゴ特殊作戦群から2名、オペレーターが前方にやってくる。


『歩兵は3カウントで片付ける。そっちはどれくらいかかる』


『2秒あれば終わる』


『よし。やろう』


 羽地、アリス、八木、七海が先頭を進み、後方からインディゴ特殊作戦群が続く。


『3カウント』


 3、2、1。


 羽地たちが一斉に歩兵の喉を掻き切り、腎臓にナイフを数回突き立てる。超国家主義派ロシア軍の歩哨はそれで悲鳴を上げる間もなく死亡し、地面に崩れ落ちそうになるところをアリスたちにゆっくりと物音を立てずに地面に下ろされた。


『装甲車、排除したぞ』


『どんな玩具を使ったんだ?』


『何、ドイツがエバン・エマール要塞を襲ったときのバージョンアップ品だ。ミュート爆薬を成形炸薬にして装甲を食い破って、中に焼夷弾の炎を満たす2段構え。装甲車の中の人間は音もなく焼き殺される。一瞬だ』


『アメリカ人ってのは焼き殺すのが好きだな』


『日本人だって切り殺すのが好きみたいだぜ?』


 インディゴ特殊作戦群のオペレーターはそう言って首を裂かれた超国家主義派ロシア軍の兵士の死体を見た。


『静かにやるにはこれが一番いい。さあ、お喋りはお終いだ。保管庫を制圧しよう』


 再びアリスが先頭に立ち、保管庫に入る。


 保管庫には電子キーが付いていたが、歩哨が持っていたIDカードで開くことができた。ここまでセキュリティがざるだと敵ながら心配になってくる。


『データサーバーは入ってすぐの場所だ。アリス、敵は?』


『1個小隊規模。奥の方です。素早くやれば、データサーバーから情報を抜き取って気づかれずに逃げられます』


『建御雷のご神託だな。それで行こう』


 羽地たちが保管庫に入り、アルファ部隊が続く。インディゴ特殊作戦群は外で退路の確保に当たることになっている。


 アリスを先頭に羽地たちは一列に進み、データサーバーのある部屋に入った。


「ここから先は任せてくれ」


 ロシア人の機械はロシア人に任せるしかない。


 日本情報軍にも戦術脳神経ネットワークでデータを送りつつ、ロシア人がデータを完全に解析し終えるのを待つ。


「3発だ。3発しか持ち出されていない」


「畜生。ということは、やはり2発は行方不明か」


 いいニュースと悪いニュース。


 いいニュースは戦術核は“ウルバン”が購入した分しか漏洩していない。


 悪いニュースは戦術核2発は未だ行方不明ということで確定。


「IDの情報をこちらにも送ってくれ」


「今、そっちのネットワークにアップロードしている。クソ、回線が遅い」


 そこでアリスたちがはっと顔をサーバールームの外に向けた。


『先輩。サーバールームへの侵入が気づかれた可能性があります。こちらに向かって歩兵小隊が向かって来ています。迎撃するか、あるいは退避するかです』


『IDの情報はどうあっても欲しい。迎撃だ。全員、外に出て悪いロシア人を迎え撃て』


『了解』


 今度は後列の月城たちから外に出ていく。全員が第6世代の熱光学迷彩を纏っているため、その姿を迫りくるロシア人たちは視認できない。


 羽地たちは遮蔽物として停車していたトラックを利用する。


『射撃開始』


『了解』


 サプレッサーに抑制された銃声が微かに響き、超国家主義派ロシア軍の兵士たちの胸と頭が撃ち抜かれる。超国家主義派ロシア軍の兵士たちは攻撃を察知し、敵の姿を探すが、その間にさらに撃ち殺される。


 最終的に超国家主義派ロシア軍の兵士たちは無線に向けて叫び、銃を乱射した。


『レイピアよりレオパード! 今の銃声は何だ!? 国家安全保障局(NSA)が超国家主義派ロシア軍の無線通信が急に活発化したとも言っているぞ!』


『もうすぐ終わる。それまで持たせてくれ』


『畜生。了解した』


 超国家主義派ロシア軍の兵士たちはAK-12自動小銃をメインに銃火器で鉛玉を思う存分羽地たちに叩き込んでくる。AK-12の分隊支援火器モデルのRPK-16機関銃も銃声を轟かせる。羽地たちはそれに対して強襲制圧用のスタングレネードを使用する。


 一瞬で閃光と炸裂音が超国家主義派ロシア軍を制圧し、羽地たちが反撃に転じる。


 超国家主義派ロシア軍に鉛玉を送り返し、頭と胸に確実に銃弾を叩き込んでいく。一部の超国家主義派ロシア軍の歩兵がコンテナの陰に隠れるのにはグレネード弾を使用して殺傷した。空中炸裂型グレネード弾はキャニスター弾のように小さな鉄球をばら撒き、陰に隠れた超国家主義派ロシア軍の歩兵を殺傷する。


『マークした全目標の排除完了だ。アリス、他に敵は?』


『振動なし。敵は他にいません』


『ご苦労だった、諸君。だが、地獄はこれからだ』


 ここから15キロ。装甲車とテクニカルと歩兵と追いかけっこしながら逃げなければならないのだ。まさに地獄はこれからだ。


「IDのデータを取得した。そちらに送ってある。行けるか?」


「いける。……何をしている?」


「戦術核を吹き飛ばしていく。戦術核そのものが爆発する必要はない。中の放射性物質が飛散すれば、超国家主義派ロシア軍はここを維持できなくなる。半永久的に封鎖することになるだろう。そうすればもう核の漏洩は起きない。我々はそう踏んでいる」


「ダーティーボム代わりか。超国家主義派ロシア軍は放射性物質を中和できるナノマシンを持っていない。有効だろう」


「ああ。いずれ我々がここを取り戻した日には汚染を除去して、核を解体するさ。綺麗な方法でな」


 そう言って忠誠派ロシア軍のアルファ部隊は戦術核にプラスチック爆弾を装着していった。10個ほどの戦術核に爆弾が取り付けられる。


「ここから15キロは地獄だ。こいつを拝借しよう」


「ああ。ロシア製のトラックは信頼できる」


 羽地たちは超国家主義派ロシア軍のトラックを鹵獲し、保管庫の門を開いた。


……………………

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