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再びロシアへ

……………………


 ──再びロシアへ



 接触してきたのは向こう側からだった。


ロシア対外情報庁(SVR)から接触があった。ロシアの戦術核についての情報だ。彼らは西側──我々との共同戦線を望んでいるとロシア連邦保安庁(FSB)が言っていると伝えている。どこまで信じたものかは分からないが」


 ロシア対外情報庁(SVR)はこれまで食わせものだった。半分が忠誠派ロシア軍に付き、半分が超国家主義派ロシア軍についた。そして、ロシア国外でプロパガンダ戦争を繰り広げ、元スパイや活動家を暗殺してきた。


 プロパガンダすらも外注する時代だ。西側のPR企業に今のロシアの凄惨さを伝えて、超国家主義派ロシア軍を批判する忠誠派ロシア軍。東側のPR企業に今の体制の矛盾性を伝えて、忠誠派ロシア軍を批判する超国家主義派ロシア軍。


 お互いにPR戦争と暗殺を繰り広げている。


 そういう組織の申し出に安易に乗るほど日本情報軍は甘い組織ではないが、これは正直に言って両方の足元を見ているようなものだった。


 日本情報軍は戦術核の情報が欲しい。忠誠派ロシア軍はこれ以上ロシアのイメージを落としたくはない。お互いがお互いの足元を見ている。


「その提案に乗るんですか?」


「少なくとも向こう側は望んでいるし、我々としても戦術核の漏洩については把握しておきたい。確かにお互いは信じあえる存在とは言えなくなったが、向こうが望むのであれば、我々はそれに応えるのもやぶさかではない」


 そうはいっているが、もう決まったようなものなのだろう。


 羽地たちに話が下りてくる段階で、もう日本情報軍上層部は決断したということだ。つまりはロシア人の提案に乗ると言うことに。


「ロシア人の提案に乗るんですね?」


「少なくとも1発の戦術核の漏洩については確かだった。残り2発が全くの虚偽だという反証もない。ロシア人は3発の戦術核についてコントロールを失った。そして、連中はポータル・ゲートの向こう側に戦術核を運ぼうしている。忠誠派ロシア軍を攻撃するわけでもなく、純粋な商品として戦術核を扱っている」


 忠誠派ロシア軍に対して戦術核を使用すれば、忠誠派ロシア軍も戦術核で反撃するだろう。そして、今のところはロシア人の中でも忠誠派ロシア軍が核のほとんどを押さえている。核の使用が解禁されれば、不利な立場に陥るのは超国家主義派ロシア軍だ。


 だから、戦術核を同じ同胞に対しては使用しない。商品として売り捌く。そして、得た資金で戦争を続ける。とてもではないが、同じ同胞同士で殺し合っている連中とは思えないほどに理性的な判断だ。


「ポータル・ゲートの向こう側に運ばれなくとも、行方不明の戦術核という時点でそれは脅威だ。テロリストの手に渡れば、この地球上のどこかで使用されるかもしれない。日本だけが脅威にさらされていないということもない」


 何としても漏洩した可能性のある戦術核は奪還せねばならないのだと第501統合特殊任務部隊の司令官は告げる。


「では、ロシア人の提案に乗りましょう。そして、戦術核を奪還しましょう。それが必要とされていることならば。我々は軍人です。国家の行えということを行う駒。国民を守るための盾。得てして駒も盾も命令通りに動くものです」


「理想的な軍人だな。全ての軍人が君と同じような思想を持ってくれれば文句はないのだが。さて、我々は再びロシアに向かう。いいロシア人と作戦について調整を行い、流出した2発の戦術核を追う。ポーランドも、諸外国も大騒ぎだ。これ以上騒ぎを大きくしないように迅速な解決を図ろう」


 本来、この問題を解決すべきはいいロシア人たちなのだが、彼らは西側を自分たちの戦争に巻き込もうとしている。


 それは西側に『いいロシア人は悪いロシア人と戦っている。ロシアで起きているあらゆる不都合な問題は悪いロシア人のせいだ』とアピールすることが狙いなのか。それともいいロシア人は人手不足なのか。


 後者はあまり考えられない。アルファ部隊もスペツナズ(特殊任務部隊)も未だに忠誠派ロシア軍にいるのだから。


 となるとアピールか。PR戦争を制したものが、戦争を制するとまで言われる時代になったが、ロシアの内戦でもPR戦争が現実に起きている。西側の番組に出演し、祖国の窮状を訴えるいいロシア人たち。彼らの目的は西側を戦争に巻き込むことだ。


 とは言え、西側もウクライナ戦争とアジアの戦争を経験していて、軍事的な打撃を受け、そして世界的な軍縮ムードの中で軍の規模は削減されている。今さらロシア人同士の殺し合いに介入しろと言われても、そんな体力はないというのが現状だ。


 結局はアメリカのように少数の特殊作戦部隊を送り込み、資金援助を行い、ロシア人同士で殺し合ってもらうしかないのだ。


 日本情報軍の戦略もアメリカ路線だ。


 第501統合特殊任務部隊は大佐が指揮するが規模はそこまで大きくない。1個中隊の電子情報軍団の部隊、1個中隊の空間情報軍団の部隊、1個中隊の特別情報軍団の部隊、そして羽地たち第101特別情報大隊第4作戦群第44分遣隊。


 これ以上規模が大きくなると、機動力と即応性に欠ける。


 第501統合特殊任務部隊のロシア再派遣は速やかに承認され、第501統合特殊任務部隊はロシア中部の空軍基地に向かった。


 ロシアに向かうC-2輸送機の中で羽地は考える。


 これで得をするのは誰だろうかと。


 “ウルバン”は本当に得をするのだろうか? 横浜条約では大量破壊兵器のポータル・ゲートの通過も禁止している。


 確かに無力化ガスや催涙ガスが現地住民に致死的だと知りながら使用している性質の悪い民間軍事企業も存在する。だが、核兵器はレベルが違う。


 もし、ポータル・ゲートの向こう側の民間軍事企業が核兵器を使用したら、流石の地球も対応を迫られるだろう。それは非人道的行為だし、何より地球にとって差し迫った脅威になりかねない。


 ポータル・ゲートの向こう側の核の撃ち合いが地球に波及しないという可能性はないのだ。ポータル・ゲートの向こう側で巨大企業同士が核軍拡を始め、ポータル・ゲートの向こう側で巨大企業が核開発を始める。その技術はある。


 ただ、今まではその必要性も、意志もなかったから行われてこなかったのだ。核兵器は軍閥を支援するにはあまりに大きな兵器だ。カラシニコフで済む話を、戦術核にまで肥大させる必要性は認められてない。


 だが、軍閥のどこかが核を手に入れたら。巨大企業のいずれかが戦術核を手に入れたら。それに対する抑止力として核兵器は必要になるだろう。国連の監視のない異世界ならば、いくらでも核開発は行える。


 だが、そうであるからこそ、そのきっかけとなる“ウルバン”の戦術核の密輸で得をするのは誰だろうかという話になる。


 誰も得をしない。巨大企業も、軍閥も、核攻撃の危機に晒され、抑止力としての核開発を迫られる。これで得をする人間などいないではないか。


 “ウルバン”は一体誰に戦術核を渡すつもりだったのだろう?


……………………

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