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起爆

……………………


 ──起爆



 羽地たちは何とか超国家主義派ロシア軍の攻撃を潜り抜け、ポーランド軍特殊作戦部隊の下へ辿りついた。


「指揮官は?」


「私だ。最先任として指揮を委譲された」


 ということは、本来の指揮官は死亡したということだ。


「航空支援を要請してもらいたい。あの迫撃砲を狙って攻撃を」


「神経ガスで辺り一帯が覆われるぞ」


「どのみち、連中は全弾をこっちに叩き込んでくる。その前にこちらで吹っ飛ばしてやろう。敵が神経ガスの中に沈めば、戦術核を奪還するチャンスは生まれる」


「最悪の場合、戦術核ごと吹き飛ばせという命令を受けている」


「最悪の場合は、だ。今はまだ取り返しようがある」


 羽地の言葉にポーランド軍特殊作戦部隊の指揮官が考え込む。


「分かった。航空支援を要請しよう」


「援護する」


 レーザー照準器が持ち出され、羽地たちが制圧射撃で超国家主義派ロシア軍を抑える中、指揮官が無線で上空のF-35A戦闘機に爆撃を要請する。


 爆撃は直ちに行われ、上空からL-JDAMが投下される。


 L-JDAMは超国家主義派ロシア軍の保有する全てのサイレント・ブルーを爆破させ、同時に超国家主義派ロシア軍のNBC防護を剥ぎ取った。自分たちの陣地のど真ん中でサイレント・ブルーが撒き散らされるのに、超国家主義派ロシア軍はガスマスクが爆発によって損傷し、神経ガスを吸って倒れていった。


 それでも全滅とはいかない。


 超国家主義派ロシア軍は抵抗の意志を示し、銃火器で反撃してくる。そこにポーランド陸軍の歩兵戦闘車が前進を始め、40ミリ機関砲で超国家主義派ロシア軍を制圧して行く。超国家主義派ロシア軍は対戦車ロケットも対戦車ミサイルも品切れになったのか、歩兵戦闘車を攻撃できず、ポーランド軍特殊作戦部隊と羽地たちは歩兵戦闘車の後に付いて前進を続けていく。


 周囲にサイレント・ブルーで死亡した超国家主義派ロシア軍の死体が転がる中をポーランド陸軍の歩兵戦闘車は進んでいき、敵の抵抗があれば機関銃か機関砲で排除していく。超国家主義派ロシア軍の抵抗は次第に弱まっていき、羽地たちはようやくトラックの荷台を拝むことができるようになった。


「この車両じゃない」


「先頭車両とサイレント・ブルーを搭載した車両は吹っ飛ばした。残り9両だ」


 羽地たちは1両、1両とサイレント・ブルーの中を進み、確認していく。


 不意に超国家主義派ロシア軍の兵士がトラックから飛び出て来て銃を乱射する。幸い銃弾は命中せず、ポーランド軍特殊作戦部隊によって蜂の巣された。


「これは、戦術核か?」


 トラックの荷台に積み込まれていたのは何かの機械だった。


 樽のような形をした物体。


「ガイガーカウンターが反応している。戦術核だ」


「戦術核確保、繰り返す戦術核確保」


「1発だけしかないぞ。他のトラックにも乗せられていない」


 ポーランド軍特殊作戦部隊のオペレーターのひとりが荷台に乗って戦術核を確認し始める。そこでそのオペレーターは非常に不味いことに気づいた。


「戦術核がタイマーになっている! 残り45秒で爆発する!」


「畜生。離脱だ! 急げ、急げ!」


 ポーランド軍特殊作戦部隊の隊員たちと羽地たちはポーランド陸軍の歩兵戦闘車に飛び乗り、そのまま大急ぎで戦術核から離れる。


『レオパードよりシープドッグ! 離脱の輸送機を要請する!』


『了解した。直ちにそちらに向かている』


 既に羽地たちの会話を聞いていたのか、輸送機はすぐそばまで来ていた。


 そして、着陸する。


 起爆まで30秒。


「乗り込め、乗り込め! 装甲車の乗員も乗り込むんだ!」


 羽地たちは輸送機に飛び乗り、ポーランド軍特殊作戦部隊とポーランド陸軍の歩兵戦闘車の乗員も同じように乗り込む。


 起爆まで25秒。


『全員乗り込んだ! 離陸しろ!』


『了解。直ちに作戦空域を離脱する』


 起爆まで20秒。


 それから全速力で輸送機が退避していく。


『シープドッグより全ユニット。ポーランド空軍が戦術核に対して爆撃を試みるも失敗した。爆発に備えろ』


 第501統合特殊任務部隊司令部からの連絡が入る。


 起爆まで5秒。


『畜生。5キロトンの核の殺傷範囲ってのはどれくらいだ?』


『広島に投下されたのの3分の1だ』


 起爆3秒前。


『爆発閃光を直接視認するな。ここはもう殺傷圏外なのか?』


『シープドッグよりレオパード。爆発に備えろ』


 起爆。


 機体が大きく揺さぶられた。墜落するのではないかというほどに機体が振り回され、辛うじて姿勢を制御した形で輸送機が降下していく。墜落するのかと羽地は思ったが、まだギリギリで輸送機は飛行している。


 そのまま飛び続け、何とか高度が復帰すると窓から起爆地点の様子が見えてきた。


 もうもうとした禍々しいキノコ雲が立ち上り、衝撃波が地上を駆け抜けた様子が見えてくる。ポーランド軍の兵士たちは自分たちの国土で起きた出来事に呆然としていた。彼らはついに世界で2番目の被爆国になったのだ。


『住民の避難はできていたのか?』


『住民は避難していたそうですが、他の地域に展開していた地上部隊は……』


『なんてことだ』


 戦車や装甲車の装甲が彼らを守ってくれることを祈るしかない。


 戦術核の煙は立ち上り続け、地上爆発を起こしたそれはフォールアウト──放射性降下物を盛大に引き起こし、地表の砂塵を放射線で汚染し、巻き上げ、地上に降らせた。辺り一面が放射線で汚染される。


 不幸中の幸いは羽地たちとポーランド軍特殊作戦部隊はその汚染地域から脱出していたということだ。彼らはフォールアウトによる汚染に巻き込まれることなく、後方の空軍基地に帰投した。


 帰投後、輸送機を含む全ての装備と人員が除染処置を受けた。彼らはサイレント・ブルーの中で行動していたし、被爆してる可能性もあった。ヨウ素剤が配布され、羽地たちはそれを服用する。


「戦術核は間違いなく1発だけだったんだな?」


 第501統合特殊任務部隊の司令官である日本情報軍大佐は何度も同じことを確認していた。彼にとっては最悪のニュースだ。2発の核弾頭は行方不明なのだ。


「流出した戦術核は本当に3発なのか? どうして超国家主義派ロシア軍は1発だけドイツに運ぼうとしていた? 彼らはまだロシア領内かウクライナ領内に2発の戦術核を温存しているのではないか?」


ロシア連邦保安庁(FSB)の情報をどこまで信じるかによります。我々はロシアの核について、把握していない。全く。超国家主義派ロシア軍がどの程度の数の戦術核を入手したのか。また手に入れたとして、それをどう使うか。我々には情報があまりにも足りていません」


 羽地は地獄から生き延びられて、生還したことに奇跡染みたものを感じていた。


「ああ。そうだな。我々には情報がない。ロシア人の言い分を信じるなら残り2発の戦術核がどこかにある。もしかすると、既にドイツに運び込まれている可能性もある。イービス・ロジスティクスについては監視対象になったが、もう大規模な車列が動く気配はない。戦術核は完全に行方不明だ」


「ポータル・ゲートの向こう側でも阻止作戦を展開中でしょう?」


「ああ。第403統合特殊任務部隊が作戦行動に当たっている」


 矢代の部隊だ。


「しかし、どうにも腑に落ちない。本当に流出した戦術核は3発だったのか。3発だったとして残り2発はどこに消えたのか」


……………………

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[良い点] この設定での短編がどれも最高だったから連載になってよかったです。これからも執筆頑張ってください! [一言] 最高
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