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サイレント・ブルー

……………………


 ──サイレント・ブルー



 全員が対NBC装備を身に着けた状況で地上に降りる。


 既にポーランド陸軍の戦車と歩兵戦闘車は配置についている。


「日本情報軍!?」


「そうだ! 応援に来た!」


「歓迎します!」


 対NBC装備のポーランド陸軍の将校が羽地と握手を交わす。


 外に出るとローターの音が凄まじいので自然と大声になる。


「ここを起点に幹線道路をわき道を10キロに渡って封鎖していますが、そちらの偵察衛星の情報では車列はどの地点に?」


「真っすぐこの道路を目指してきている。車両は12両。どれも大型トラックだ。わき道は通れないだろう。だが、用心はしておいてくれ。地上の足は? うちの輸送機は一時的に撤退する」


「地上の足はあれですよ。BWP-2050歩兵戦闘車。敵は化学兵器を使う可能性があるんでしょう? あれならNBC防護はばっちりです」


「そいつはありがたい」


 BWP-2050歩兵戦闘車はポーランド軍の国産歩兵戦闘車だ。40ミリテレスコープ弾を使用する機関砲と機関銃、対戦車ミサイルを武装とする装軌式歩兵戦闘車である。現代の歩兵戦闘車の中では新しい部類に入る。


「既にうちの特殊作戦部隊も配置についています。そちらも指示通りに」


「了解」


 ポーランド軍と調整を行っている第501統合特殊任務部隊司令部から配置命令が出る。戦術脳神経ネットワークから指示がAR(拡張現実)上に表示され、羽地たちはその位置に付く。位置的にはポーランド軍の前線から一歩下がった位置だ。


 ポーランド軍がポーランドの国土を守るのは当たり前の話だ。日本情報軍は今回も外様だ。それにポーランド軍の特殊作戦部隊は訓練されてる。よほどのことがない限り、ヘマはしないだろう。


 羽地たちはいつでも動けるように羽地たちに割り当てられたBWP-2050の傍で待機し、夏の日差しの暑い中で、ガスマスク越しにポーランドの空気を吸っていた。ガスマスクはあまり進化したところはなく、蒸し暑く、呼吸しにくい。


 そこで戦術脳神経ネットワークから報告が入った。


『全員。イービス・ロジスティクスのトラック12両が全てがこの道路に入った。予定通り、ポーランド陸軍が迎撃する。俺たちはポーランド陸軍の撃ち漏らしを相手にする。やはり迫撃砲を搭載したトラックがいる。NBC防御は継続』


『了解』


 上空をポーランド空軍のドローンが飛行していく。


 かなりの高度から撮影を始めるのが分かった。ポーランド軍が共有を許可したのか、戦術脳神経ネットワークにもポーランド軍が撮影したドローンの映像が入ってくる。ドローンは12両のトラックを捉えていた。


 そして、2台のトラックの幌が払われると、中から迫撃砲が現れ、ポーランド軍の陣地に向けて砲撃を始める。どうやらイービス・ロジスティクス──というよりも超国家主義派ロシア軍もポーランド軍の動きに気づいていたらしい。


 迫撃砲弾の着弾地点に青い煙が広がる。


 サイレント・ブルーだ。


 ドローンの映像はズームし、トラックに乗っている超国家主義派ロシア軍の兵士たちがガスマスクを装着しているのを確認する。


 そして、戦闘が始まった。トラックは強行突破を試みたが、ポーランド陸軍の戦車の砲撃で先頭車両が吹き飛ばされる。かなりの荒業だ。先頭車両に戦術核が積んである可能性は低いものの、皆無ではない。それを砲撃で吹き飛ばすのだから、ポーランド陸軍は後でナノマシンによる放射性物質除去を行うつもりだったと分かる。


 歩兵戦闘車も交戦を開始し、40ミリテレスコープ弾と機関銃がトラックを次々に撃破する。とうとう超国家主義派ロシア軍のトラックの車列は停車し、サイレント・ブルーを叩き込みながら、歩兵部隊が対戦車ミサイルをポーランド陸軍の歩兵戦闘車に叩き込み始めた。当然ながらポーランド陸軍の歩兵戦闘車はアクティブ防護システムを搭載しており、それもダミー弾頭タイプの対戦車ミサイルにも対応したレーザー迎撃型で、ダミー弾頭と本体の両方を空中で爆破した。


 ポーランド軍の特殊作戦部隊も動き始め戦車を盾に前進し、超国家主義派ロシア軍の歩兵部隊に銃弾を浴びせる。銃弾を受けてガスマスクが外れた兵士が風上から流れて来たサイレント・ブルーを吸い込んで窒息状態になり死んでいく。


 だが、超国家主義派ロシア軍も舐められてばかりではなかった。戦車に向けて対戦車ミサイルを乱れ打ちにし、アクティブ防護システムを飽和させ、ついには撃破する。爆発炎上する戦車からポーランド軍特殊作戦部隊が一時的に退避し、代わりに歩兵戦闘車が前に出る。


 そこで第501統合特殊任務部隊司令部から命令が来た。


 戦術脳神経ネットワークを経由して発された命令は『ポーランド軍特殊任務部隊を支援せよ』とのものだった。


『全員乗車。このまま戦場に突っ込むぞ』


『了解』


 羽地たちが歩兵戦闘車に乗り込む。


 最大で9名を輸送可能な装甲車は容易に羽地たちを乗せて、戦場に向かった。


『まもなく最前線!』


『降車、降車!』


 羽地たちが一斉に降車する。


 装甲車は頼もしい仲間だが、攻撃が集中しやすい。戦車ほど頑丈なものでなければ、戦場で傍にいたいとは思えない。その戦車にしたところで対戦車ミサイルの格好の標的にになるのでは傍にはいたくないものだ。


 降車した羽地たちはサイレント・ブルーの煙の中を進んでいく。


 サイレント・ブルーが無力化ガスとして失敗だったのは、致死性だけではなく、この青い色もだった。この青い色がガスとして発生すれば、敵は自分たちが化学兵器で攻撃されていることに気づく。そうなってしまえば、対NBC防護なり、あるいは人質を殺すと脅すこともできる。実際、超国家主義派ロシア軍が起こした立て籠もり事件では、ガス攻撃を察知した超国家主義派ロシア軍が人質を殺害すると忠誠派ロシア軍を脅迫している。


 だが、神経ガスとしてはサイレント・ブルーは優秀だ。


 即効性が高く、瞬く間に敵を制圧する。


 実際は青い煙だけではなく、その青い煙の周辺にも揮発性の高い無色の神経ガスが漂っている。青いガスから逃れれば安全だと思った敵を、致死性の高い神経ガスで完全に殺すというとんでもない兵器だ。


 最初から神経ガスとして設計されたのではないだろうかと思うが、ロシア内戦のどさくさで資料が喪失しており、関係者の行方も辿れず、国連がこれを神経ガスとして設計されたとは認定できなかった。


 とは言え、運用している方が完全に神経ガスとしてこれを運用している。忠誠派ロシア軍も、超国家主義派ロシア軍も、サイレント・ブルーを敵に対する致死的手段として使用していた。


 迫撃砲から再びサイレント・ブルーの弾頭が撃ち込まれる。


『レオパードよりシープドッグ。航空支援は?』


『その権限はポーランド軍部隊にある』


『了解。ポーランド軍部隊と合流します』


 羽地たちはお互いに援護射撃でカバーし合いながら、交戦中のポーランド軍特殊作戦部隊の場所を目指す。敵の銃火はなかなか途絶えず、苦しい戦闘を強いられていた。お互いにガスマスクへの被弾が致命傷になる。


『行け、行け、行け!』


『前進!』


 羽地たちはそれでも大破した戦車付近で戦闘を継続しているポーランド軍特殊作戦部隊を目指して進む。


……………………

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