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間違った情報

……………………


 ──間違った情報



 八木たちは残る歩兵を掃討し、トラックの中身を確認していく。


「確かに武器は積んでいたようだな」


「だが、戦術核はない。1発も」


 車両の方も空振りだった。


 戦術核は見当たらない。戦術核が搭載されていた様子もない。


『ジャガーよりレオパード。車列(コンボイ)の方は空振りです。そっちは?』


『レオパードよりジャガー。こっちも空振りだ。戦術核はどこに行った?』


 戦術脳神経ネットワークに羽地は助けを求める。


 戦術脳神経ネットワークもまだ状況を把握できていなかったが、分析AI“建御雷”は一種の推測を行っていた。戦術核はウクライナを横断して、既にポーランドに向かっているのではないかという可能性だ。


 そこから情報が収集され、纏められ、整理され、分析される。


 ヒット。


 超国家主義派ロシア軍はウクライナにダミー会社を保有している。イービス・ロジスティクスという会社で、超国家主義派ロシア軍が非合法な手段で外貨を手に入れる窓口になっていた。そのイービス・ロジスティクスのトラックがウクライナを横断。ベラルーシに入り、そこからポーランドに向かっている。


「畜生。こんな土壇場になって情報ミスとは。アリス、月城曹長、リリス。行くぞ」


 日本情報軍は迎えの輸送機を寄越していた。超国家主義派ロシア軍の保有する地対空ミサイルでは捉えられないステルス輸送機だ。


「八木大尉とは?」


「ポーランドで合流する。ポーランドが最終防衛ラインだ。ドイツに入れば、後を追のは難しい。ドイツは国民を監視する政府を嫌うからな」


 かつて存在した東ドイツの秘密警察(シュタージ)の影響もあって、ドイツ人だけはこの国民監視社会の中で唯一それを拒否していた。ドイツに入国した国際指名手配犯のトレーサビリティはほぼゼロだ。


 戦術核もドイツ国内に入れば行方不明になり、そのままポータル・ゲートを通過してしまう恐れがあった。ドイツは勝手に自国の領空に他国の偵察機が入ることも拒否している。そして偵察衛星はドローンほど使い勝手がよくない。


 ドイツ政府が動いて阻止してくれることを祈りたいが、ドイツ人は自国の領土内で核が炸裂する恐れがあるならば、敢えてポータル・ゲートを穏便に抜けさせるだろう。


 よって、文字通り、ポーランドが最終防衛線だ。


 ポーランド軍は協力的で、ポーランド特別軍とポーランド陸軍が対応に当たり、ポーランドとベラルーシ国境に軍を密かに展開。今度は羽地たちが戦車や装甲車の支援を受けて、超国家主義派ロシア軍を出迎えることになった。


「よろしく頼みます、大佐殿」


「話は聞いている。何としても阻止しなければなるまい」


 ポーランド側の指揮を執るポーランド陸軍の大佐は羽地の言葉に頷いた。


 それから羽地は第501統合特殊任務部隊のブリーフィングに向かう。


「諸君。敵に装甲車や戦車の類はないが、化学兵器を保有している可能性が出てきた。西側が“サイレント・ブルー”と呼んでいる化学兵器で表向きは無力化ガスだが、実際は致死的な効果がある。忠誠派ロシア軍が超国家主義派ロシア軍に占領されたビルを奪還する際に使用したが、その際は超国家主義派ロシア軍の3分2が死亡している」


「超国家主義派ロシア軍もそれを保有していると?」


「ああ。かなりの数のサイレント・ブルーが超国家主義派ロシア軍の手に渡ったと見ている。連中は迫撃砲やロケット弾でこれを利用していた。そして、イービス・ロジスティクスのトラックには迫撃砲と思しきものが映っている」


 迫撃砲で化学兵器を撃ち込んで強行突破を図るというわけか。


 だが、こっちには戦車もいるし、歩兵戦闘車も配備されている。どちらもNBC(核・生物・化学)兵器防護は完璧だ。


「全員、NBC防護を怠るな。敵がただサイレント・ブルーを使用してくるだけとは限らない。ロシアの内戦で漏洩したのは核兵器だけじゃない。生物兵器や化学兵器も漏洩している。そして、ロシアはこれまで予算不足を理由に化学兵器の放棄を怠って来た」


 全く以てぞっとする話だと羽地は思った。


 もし、鉄道車両を襲撃したときなどに化学兵器が使用されていればどうなっていたことか。自分も月城も死んでいたかもしれない。


 アリスたちは生き延びるだろう。彼女たちの代謝は人間とは異なる。


「NBC防護態勢で敵の車列(コンボイ)を出迎える。トラック12両の大編成の輸送車列だ。攻撃開始の合図はポーランド軍から発される。ここではポーランド軍が主導権を握っている。我々はあくまでアシストだ。それを忘れるな」


「了解」


「では、準備は入れ」


 第501統合特殊任務部隊の電子情報軍団の兵士たちは通信傍受を始め、空間情報軍団の兵士たちは偵察衛星からの最新の情報とドローンから情報を受け取る。


 特別情報軍団──羽地たちは装備を選び始める。


 ポーランド軍は西側と同じ5.56x45ミリNATO弾を使用している。装備の共通性は大きい。特殊作戦部隊などになると羽地たちと全く同じ銃を使っている。その点は7.62x39ミリ弾や5.45x39ミリ弾を使っていた忠誠派ロシア軍よりも弾薬の融通が利く。


 羽地はアンダーバレルにグレネードランチャーをマウントしたサブコンパクトモデルの自動小銃を。アリスはただのサブコンパクトモデルの自動小銃を。八木は空挺仕様の分隊支援火器を。七海は八木の使う分隊支援火器の予備弾薬を持ちつつサブコンパクトモデルの自動小銃を。月城は羽地と同じアンダーバレルにグレネードランチャーが装備されたもの。リリスはアリスと同じ。古今は.338ラプア・マグナム弾を使用する狙撃銃を。スミレは7.62x51ミリNATO弾を使用する選抜射手ライフルを。


 今回は戦車も装甲車も味方として存在する。そうそう火力不足に陥ることはないはずだ。むしろ、戦車砲が戦術核を傷つけて放射性物質を拡散させないかが心配なぐらいだ。


 そして、今回は敵の対空火力もないと思われるので航空支援が要請できる。


 F-35A戦闘機がL-JDAMを搭載して上空待機している。要請あれば羽地とスミレの保有しているレーザー照準器で目標を指示して爆撃を行わせることが可能だ。


『超国家主義派ロシア軍──イービス・ロジスティクスの最新情報だ。連中は無事にベラルーシに入った。真っすぐ国境を目指して進んできている。建御雷からのご神託だが、進行ルートはカリーニングラードを経由して、海路でドイツを目指すルートと、このままポーランドを横断してドイツに向かうルートを考えられる。濃厚なのは後者だ。カリーニングラードを目指すにしてはベラルーシをあまり北上していないとのことだ』


 カリーニングラードは超国家主義派ロシア軍の拠点のひとつになっている。経済制裁を受けて孤立したカリーニングラードは一時期回復した経済が嘘のように悪化し、最悪の都市となってしまった。


 その自分たちの拠点のひとつであるカリーニングラードを経由してドイツに向かうのか、それとも陸路でドイツを目指すのか。濃厚なのは後者だ。


『敵の進行ルートに合わせて移動する。ポーランド軍も協力してくれる。ここで食い止めないと本当に戦術核がポータル・ゲートを越えかねない。気合を入れていくぞ』


『了解』


 それからも羽地は戦術脳神経ネットワークから情報を得つつ、いよいよイービス・ロジスティクスの車列がポーランド領内に入ると聞いて、輸送機に乗り込んだ。


 ここで食い止めなければどうなるか分からない。


……………………

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