ベルゴロド市街地戦
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──ベルゴロド市街地戦
八木、七海、古今、スミレの4名は車両襲撃部隊に参加していた。
完全な超国家主義派ロシア軍の支配下にあるベルゴロドの街で、その市街地を超国家主義派ロシア軍の車列を待ち伏せている。
超国家主義派ロシア軍の車列は武装した兵士たちと装甲車に守られてる。列車の部隊ほど大規模ではないが装甲車の脅威は無視できない。
「K-17歩兵戦闘車を戦闘と後方にして前列にK-16装甲兵員輸送車6両。トラック9両。ぞっとしない編成ですね。当然アクティブ防護システム搭載でしょう?」
「トラック以外は爆発反応装甲もついてるはずだ」
古今が双眼鏡で戦術脳神経ネットワークにAR上でマークした目標を示しながら言うのに、八木も双眼鏡で迫りくる車列を見ながらそう言った。
「中佐殿。策はあるのだろうな?」
「もちろんだ。それにしても日本人にしてはロシア語の発音がいいな」
「それなりに勉強したものでね」
忠誠派ロシア軍の指揮官の言葉に、八木がそう返す。
彼は日本情報軍の軍人としてロシア語と中国語が使える。
「まずは先頭車両と最後尾の車両を潰す。今のところ。この車列で最も脅威なのは歩兵戦闘車だ。そして、先頭と最後尾を潰せば、車列は止まる。後は装甲車を片付け、トラックに乗っている歩兵を片付け、戦術核を確認する」
「了解」
戦術脳神経ネットワークには鉄道車両の不発が既に知らされている。
本当にベルゴロドを敵が通過するならば、目標はこの車列で間違いない。
戦術脳神経ネットワークは偵察衛星の映像からベルゴロドを目指していたのが鉄道車両とこの車列であることを把握している。分析AI“建御雷”の分析結果でも鉄道車両か車列である可能性が濃厚との分析結果が出ていた。
最悪なのは戦術核奪還に気づいた超国家主義派ロシア軍が核で自爆すること。そうなればベルゴロドはクレータ―に沈む。日本情報軍の部隊とロシアの特殊作戦部隊を巻き添えにして。そして、多くの市民を巻き添えにして。
「クーガーとスミレはこの位置から支援しろ。敵味方の識別に注意。戦術脳神経ネットワークから常に目標の情報を確認しておけ。撃つのは悪いロシア人だけだ。いいロシア人を撃って関係悪化など招くな」
「クーガーよりジャガー。了解。敵味方の識別には細心の注意払います」
『ここからは生体インカムで通信だ。ここのロシア人もどこまで信頼できるか分からん。可能な限り、生体インカムを使え』
『了解。こそこそ話でいきましょう』
生体インカムは体内の熱で発電し、かつ口の中のしたの動きなどから音声を生み出す。他人には喋っているように見えなくとも、仲間内だけでは情報を伝え合うことができる。まさにこそこそ話だ。
これもまた戦術脳神経ネットワークに接続されており、特殊作戦部隊のオペレーター同士の会話を検出して、分析AIが分析し、会話の中から会話をしている当人や、それに関わる人間に情報を与えることがある。
『戦闘前戦闘適応調整は受けているな?』
『受けています』
『覚悟しておいた方がいいぞ。敵は子供を戦闘に動員している』
K-16装甲兵員輸送車には子供兵がタンクデサントしていた。平均年齢は15歳ほど。大きすぎるカラシニコフを手に、ドラッグを含んだタバコを吹かしている。
中には型落ちした対戦車ロケット弾を装備している兵士もいるが、ベルゴロドは超国家主義派ロシア軍のテリトリーなけあって、彼らは油断しきっていた。
とは言え、ヘリで降下した八木たちと忠誠派ロシア軍の装備も貧相そのもので、こっちには迫撃砲もないし、敵の地対空ミサイルと対空機関砲の影響から航空支援を呼ぶこともままならなかった。
結局のところ、あるものでどうにかするしかにのだ。
「対戦車ロケット弾及び対戦車ミサイル準備」
忠誠派ロシア軍の指揮官がそう命じる。
『クーガー。戦術級小型ドローンを展開させろ。熱光学迷彩モードで。そして、装甲車をマークしてくれ。こんなもことあろうかと対戦車擲弾を持って来た。忠誠派ロシア軍がしくじったらすぐにバックアップに回る』
『クーガーよりジャガー、了解。戦術級小型ドローンを展開。目標をマークします』
視神経介入型ナノマシンで目標はマークできるが、ドローンでマークした方がより正確かつ、相手の予想外の動きに対処できる。
古今は目標をマークしていき、八木が対戦車榴弾弾頭にグレネード弾を装填する。戦車を抜くには威力不足の弾頭だが、装甲車程度の装甲ならば貫くことは可能である威力を有している。
問題はアクティブ防護システムと爆発反応装甲。それだけだ。
八木はアンダーバレルに装着されているグレネードランチャーに目標への誘導の機能があるグレネード弾を装填した。
そして、忠誠派ロシア軍の攻撃の様子を窺う。
一斉に対戦車ミサイルと対戦車ロケット弾が襲い掛かるのに、アクティブ防護システムが直ちに作動する。しかし、ダミー弾頭を撃ち落し、本命を捕えそこなったものや、捕えそこなっても爆発反応装甲で弾頭を防いだもの、防げなかったもの。
装甲車計8両のうち、撃破できたのは6両。2両が残っている。
『グレネード弾、発射』
そこで八木が支援に回る。
グレネード弾はフィンを展開させて誘導コースに乗り、生き残ったK-16装甲兵員輸送車に突っ込んだ。そして、炸裂。先ほどの忠誠派ロシア軍の攻撃がよかったのか、グレネード弾は見事に装甲車を貫き、炎上させる。
『次をマークしろ。忠誠派ロシア軍の攻撃と同時印攻撃する』
『注意してください。連中、気づいてますよ』
そこでK-17歩兵戦闘車の機関砲が火を噴いた。機関砲弾は八木たちが立て籠もっていた建物の壁を貫き、全員が一斉に床に伏せる。
機関砲の射撃が続くが、八木も忠誠派ロシア軍も攻撃を諦めたわけではなかった。
『古今、スミレ。お前たちはあの装甲車のアクティブ防護システムを潰せ。俺と七海は地面に降りて攻撃する』
『了解。努力します』
八木と七海はそう言って機関砲の砲撃の合間を縫って、窓から地上に降下した。
その間、古今とスミレも猛砲撃を受けている建物の最上階から下の階層に移動。忠誠派ロシア軍も合間を縫って下に降りてくる。
機関砲を乱射している超国家主義派ロシア軍は兵士たちが移動していることに気づかず、同じフロアを砲撃し続けている。
「対戦車ロケット弾、準備よし」
忠誠派ロシア軍が対戦車ロケット弾を準備するのに古今が窓の合間から装甲車のアクティブ防護システムを狙う。
『距離700メートル。風速1.5メートル。いける、古今軍曹?』
『ばっちりだ』
ズンと発砲音が響き、50口径のライフル弾がアクティブ防護システムを潰した。
『クーガーよりジャガー。敵のアクティブ防護システムは潰しました』
『よくやった。装甲車をマークしろ』
『装甲車、マーク』
前方の装甲車をロックオンすると八木と七海が時間差で対戦車榴弾を放つ。
放たれたグレネード弾はフィンによって誘導され、敵の装甲車に突っ込む。敵の装甲車を守るのは爆発反応装甲だけになり、グレネード弾は八木の放ったものは爆発反応装甲に止められたが、七海の放ったものは爆発反応装甲の既に炸裂した個所に命中した。
ついに敵の装甲車は壊滅した。
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