ベルゴロドにおける強襲作戦
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──ベルゴロドにおける強襲作戦
ロシアで活動中の羽地たちを日本情報軍は全面的にバックアップしていた。
戦術脳神経ネットワークには分析AI“建御雷”の分析した情報がアップロードされる。偵察衛星の分析情報。ベルゴロドにドネツクを出た列車がまもなく到着するところだった。そこに戦術核があるという保障はないが、ドネツクから何かが運び出されるとすればその鉄道のはずである。
2020年代のウクライナ戦争でも使われた鉄道は、戦車と装甲車を数両乗せており、兵士たちを運んでいる。およそ1個大隊1000名。
対する羽地たちと忠誠派ロシア軍はロシア連邦保安庁のアルファ部隊とロシア連邦軍参謀本部情報総局所属のスペツナズを含めて400名規模の部隊。
皮肉なことにウクライナ戦争に関わったロシア空挺軍第45独立親衛特殊任務連隊からスペツナズは動員されていた。停戦協定を破ってウクライナを再占領した超国家主義派ロシア軍と彼らは戦うことになるのである。
「T-14主力戦車4両。T-15歩兵戦闘車4両。兵員1000名。奇襲しないと不味そうですね」
羽地は忠誠派ロシア軍の指揮官にそういう。
「あれはアクティブ防護システムを装備している。奇襲しても迎撃される。かといって正面突破も確かに愚策か。最新型の対戦車ロケット弾を使えれば、突破可能だが」
ロシア人はロシア人が開発したものを突破するための兵器を生み出している。不思議なものだ。まるで最初から身内で殺し合うことを想定しているかのようで。
「判断はお任せします。こっちは戦術核が確保できれば文句なしです」
「分かった。いい西側の人間もいるものだな」
忠誠派ロシア軍の指揮官はそう言うと、部下に対戦車ロケット弾の準備を始めさせた。最新型の対戦車ロケット弾はダミー弾頭を最初に発射して、それからレーダーに捉えられないステルス弾頭を叩き込む仕様になっている。
もちろん、アクティブ防護システムに日進月歩の進化を続けており、レーダーではなく音響センサーであったり、二重、三重の防御を行うこともできる。
だが、超国家主義派ロシア軍が使用しているT-14主力戦車とT-15歩兵戦闘車は古いモデルだ。そこまで上等なアクティブ防護システムは搭載していない。
「配置完了です」
「3カウントで攻撃開始」
忠誠派ロシア軍の指揮官が命じる。
「攻撃開始!」
対戦車ロケット弾が一斉に放たれ、戦車と装甲車を撃破した。だが、全ての戦車と装甲車を撃破するわけにはいかなかった。爆発反応装甲が辛うじてタンデム弾頭の突破を阻止し、T-14主力戦車1両とT-15歩兵戦闘車1両が生存した。
だが、忠誠派ロシア軍の攻撃はこれで終わりではなかった。
迫撃砲が歩兵の隊列に叩き込まれる。
榴弾砲ほどの破壊力はないが、歩兵を仕留めるには十分だし、それにこれならば戦術核を傷つけて放射性物質が漏洩する可能性は防げる。
忠誠派ロシア軍の82ミリ迫撃砲弾が次々に着弾し、同時に発煙弾も叩き込まれる。
白い煙が戦場を包み始め、忠誠派ロシア軍の特殊作戦部隊に所属するオペレーターたちが熱赤外線センサーの暗視装置を装備する。羽地も敵と間違われないように、そして煙の向こうを見るために暗視装置を装備する。
機関銃が制圧射撃を始め、サプレッサーを装着した自動小銃を手にした忠誠派ロシア軍の特殊作戦部隊が停車している車両に迫る。対戦車ロケット弾が再び叩き込まれ、T-15歩兵戦闘車の方は撃破された。
「戦車の方を狙え!」
「対戦車ロケット弾──」
対戦車ロケット弾を叩き込もうとした兵士が戦車の無人銃架から放たれた50口径弾によって蜂の巣にされた。兵士がミンチになり、対戦車ロケット弾が明後日の方向に飛んでいく。
「対戦車ミサイル準備よし」
「撃て!」
ここでT-14主力戦車は無理やり固定された状況から離れ、鉄道車両を破壊しながら無理やり動き始めた。
対戦車榴弾が放たれ、忠誠派ロシア軍が押される。負傷者は多数。流石のロシアの特殊作戦部隊も敵地のど真ん中で軽装備のまま戦車を相手にするのは分が悪い。今回はヘリで運べる装備だけだったために、軽装備である。
発射された対戦車ミサイルがダミー弾頭を射出し、アクティブ防護システムを掻い潜ってT-14主力戦車に叩き込まれる。
だが、アクティブ防護システムが阻止できなかった弾頭だったが、爆発反応装甲によって阻止された。どうやら超国家主義派ロシア軍は爆発反応装甲だけ次世代型のタンデム弾頭を阻止できるものに換装していたらしい。
再び無人銃架が火を噴き、対戦車ミサイルを放った兵士が八つ裂きにされる。
『アリス。そこに落ちている対戦車ロケット弾を拾え。予備の弾頭もあるはずだ。援護するからその隙にやってくれ』
『了解』
超国家主義派ロシア軍の歩兵たちと戦闘を繰り広げながらも羽地たちは戦車を狙う。アリスが死んだロシア兵の落とした対戦車ロケットを拾い、弾頭を再装填して狙いを定める。その間、羽地はT-14主力戦車のアクティブ防護システムを攻撃し、戦車の狙いを自分に向けさせながら移動する。
『アリス。爆発反応装甲が既に炸裂した場所を狙うんだ』
『了解』
敵の戦車の爆発反応装甲はタンデム弾頭に対応している。爆発反応装甲が残っている場所を狙っても、効果は見込めない。
そして、アリスが対戦車ロケット弾を発射した。
アリスの完全に制御された姿勢から発射された対戦車ロケット弾は爆発反応装甲が剥げた敵戦車の装甲を貫き、敵戦車は爆発炎上する。ついに超国家主義派ロシア軍の切り札であった戦車が失われたのだ。
「行け、行け、行け!」
それから忠誠派ロシア軍の特殊作戦部隊が敵を制圧するまでは瞬く間だった。流石はロシア軍の精鋭なだけはあり、瞬く間に敵を制圧した。
「戦術核の確保を」
「分かっている。ここで戦術核で自爆されても困る」
忠誠派ロシア軍の指揮官はそう言い、鉄道車両の中を掃討していく。
戦術核があることを想定しつつ、慎重にひとつの車両ごと、掃討を続ける。
そして──。
「戦術核はない」
「なんですって?」
「ガイガーカウンターにも反応がない。ここに戦術核はなかった」
全ての車両を掃討し終えて、忠誠派ロシア軍の指揮官がそう言う。
「なら、敵は車両で?」
「その可能性は高い。車両襲撃部隊の報告を待つしかない」
忠誠派ロシア軍は特殊作戦部隊をふたつに分けていた。
鉄道襲撃部隊と車両襲撃部隊。
どちらもこのベルゴロドを通過する。
しかし、果たして鉄道襲撃部隊と同じように車両襲撃部隊は超国家主義派ロシア軍の襲撃に成功するのだろうか?
『オセロット。移動の準備をしておいてくれ。最悪の場合はポーランドで荷物を押さえることになる。第501統合特殊任務部隊と合流する準備を』
『ヘリはどうします?』
『忠誠派ロシア軍を頼るしかない。それにしてもここは地対空ミサイルと対空機関砲だらけで不安が残るが』
羽地は月城にそう伝えると、無意味に終わった作戦の後片付けが行われてる様子を眺めつつ、忠誠派ロシア軍のヘリが迎えに来るのを待った。
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