ポータル・ゲート・ワン
本日2回目の更新です。
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──ポータル・ゲート・ワン
ポータル・ゲート・ワンはその名の通り、世界で最初に設置されたポータル・ゲートだ、と言いたいところだが、正真正銘最初のポータル・ゲートは富士先端技術研究所で実験的に作成されたものであり、その有益性から東京湾に“開門島”という巨大な施設が建造され、そこにポータル・ゲート・ワンは設置された。
ポータル・ゲートは世界に3つ存在し、日本、アメリカ、ドイツの3ヵ国が保有している。これ以上のポータル・ゲートの建造は疫学的問題から国連と国連主導で定められた横浜条約によって禁止されている。核心となる技術に必要な素材や機器も今では核兵器のパーツ並みに輸出管理が厳しい。
その代わりポータル・ゲートは国連から制裁を受けている国以外はどんな国でも使用できるようになっている。誰も望んでいないのだ。これ以上ポータル・ゲートが増えて、疫学的管理が制御不能になるようなことは。
羽地たちは検疫のための隔離期間中に様々な検査を受けてから地球に足を踏み入れる。アリスたちは“荷物”扱いで、滅菌処理を施されたら、すぐに地球に足を踏み入れることができた。
「懐かしき我々の故郷」
開門島から首都東京を眺める。
羽地の出身は東京ではないが、東京は日本の象徴だった。
居並ぶ高層建築。開門島から伸びるいくつもの道路。パイプライン。コンテナターミナル。全てが首都東京の光景だった。
羽地たちはここから異世界へと飛んだのだ。
「戻ってきましたな、地球」
「ああ。戻ってきたな」
八木が言うのに羽地が頷いた。
「市ヶ谷で第501統合特殊任務部隊と合流する。向こうの指揮官とも打ち合わせしなければならない。全員、IDチェックに気を付けろ。俺たちは民間軍事企業のコントラクターということになっている。不必要な出入りは目を引くぞ」
「了解。徹底させます」
「頼んだ」
それから、と羽地が言いよどむ。
「まあ、なんだ。七海もようやく自分らしさを確立しつつある。大切に接してやってくれ。今は真島さんの言う通り多感な時期だ。軍隊らしさも必要だろうが、感性を磨く部分にも手を入れてやってくれ」
「前の負傷の際に真島さんが何が言っていましたか?」
「ああ。なるべくならば守ってやってくれと」
「それが容易ならばそうするでしょう」
八木はそう言って立ち去った。
「容易じゃないってことだよな……」
羽地自身もどこまでアリスを守ってやれるか分からなかった。
それから羽地たちは身分を悟られらない恰好で電車に乗り、開門島から山手線へ。山手線から東京駅へ。東京駅から市ヶ谷へと移動していく。
今の東京は本格的な国際都市だ。ポータル・ゲートの存在が、東京にあまりにも多くの外国人を招き入れていた。その外国人の全てがそうだとは言わないが、中には外国の諜報機関に所属している人間もいるだろう。
そういう人間に気づかれないことが重要だった。それからビッグシックスにも。
「ビジネスの件で」
羽地は身分を悟られないように、市ヶ谷の守衛にそう伝え、国防省に入ることを許可される。それからはARによる案内で、第501統合特殊任務部隊の司令部か、あるいはブリーフィングルームに向かう。
「失礼します」
室外の生体認証スキャナーで掌紋と網膜、顔認証を済ませると、羽地は室内に入った。室内には日本情報軍のデジタル迷彩の戦闘服姿をした男女が椅子に腰かけていた。
「ようこそ、第501統合特殊任務部隊へ、羽地少佐。私は児島古河日本情報軍大佐であり、第501統合特殊任務部隊の指揮官だ。まあ、座りたまえ」
「はっ!」
ここでは階級ははっきりしている。カバーはない。
うっかり間違って児島をボスと呼ばないようにしなければなと羽地は思った。
「さて、今回の『ライトハウス作戦』はポータル・ゲートのこちら側と向こう側の両方で行われる。こちら側が可能な限りの武器を差し押さえると同時に“ウルバン”の身柄を確保する努力を行う。それに失敗したらポータル・ゲートの向こう側が担当する」
3Dプロジェクターが忠誠派ロシア軍と超国家主義派ロシア軍の手によって崩壊したロシアの地図を映し、そこからドイツはハンブルグにあるポータル・ゲート・スリーまでの道のりを示した。
「“ウルバン”は超国家主義派ロシア軍の指導者の口座に前金1000万ドルを入金した。後はロシア人が誠意を見せるだけだ。ロシア人が現段階で何を売るつもりなのかは分からないが、今回の取引の額は大規模だ。ロシア人が最新の兵器は売らないという法則も崩れるかもしれない」
ロシア人は自分たちの兵器の技術がリバースエンジニアリングされることを恐れている。だから、最近では輸出モデルを別途作成することになっている。湾岸戦争のときに主張された輸出用の質を落とした、いわゆるモンキーモデルではなく、同型のスペックで使用される技術が微妙に異なるというものだ。
輸出対象国に技術支援を行い共同開発したものを販売するというパターンもでき、ロシアの武器輸出は多様性と輸出量を増していた。
だが、そこで内戦が勃発した。
これまでのように共同開発やスペックは同じで技術は違うなどという兵器を輸出している余裕はなくなり、ロシア人は自分たちが使わなくなった旧式の武器を売り払い、新型の武器を製造することを急いだ。
それがロシア人が最新の武器は売らないという法則。
しかし、今回は動いている額が額だ。9000万ドル。これだけの金を提示されれば、ロシア人でも最新の武器を売るのではないかと思われる。
これまでのようなT-90主力戦車やBMP-3歩兵戦闘車、ZU-23-4シルカ自走対空砲などではなく、ロシア人がウクライナやシリア、中央アジアに投入した最新鋭の武器が売却される可能性があった。
そうなればポータル・ゲートの向こう側のパワーバランスは崩壊する.最新の武器を手にしたビッグシックスは嬉々として戦争を始めるだろう。その結果がどうなるかは神のみぞ知るというわけである。
「だが、我々はまず知らなければならない。ロシア人は“ウルバン”に何を売るつもりなのかについて。ものによっては早期に対処しなければならない。よって、羽地少佐。君と君のバディをロシアに送る」
「ロシアに? 内戦中のロシアにふたりで?」
「そうだ。表向きの身分は大使館のアタッシェだ。大使館職員ならば、子供連れでも怪しまれないし、いざという時は外交特権が使える。向こうにはこちらのカウンタ-パートが控えている。ロシア連邦保安庁の捜査官だ」
ロシア連邦保安庁がカウンターパートか。時代は変わったなと羽地は思う。
「明日にでもモスクワに発ってもらう。我々は君の部下とともにポーランドに向かう。君が一刻も早くロシア人が“ウルバン”に何を売るつもりなのか突き止めてくれることを願う。以上だ」
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本日の更新はこれで終了です。
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