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重武装の敵

本日1回目の更新です。

……………………


 ──重武装の敵



「天満様のご神託よ」


 あれから3週間ほど経った日に矢代が宣言する。


「またしても軍閥同士の争いに介入する。今度の係争地はエルデラント帝国。帝国の現体制を支持しているのが大井で民間軍事企業の太平洋保安公司を送り込んでいる。対するのはトートで、トートは現体制の崩壊を目指すというより分離独立を狙っている勢力を支援している」


「まず消すのは?」


「大井の方からよ。天満様のご神託。ただし、大井の軍隊はそれなり以上の規模よ」


 地図上に兵科記号が表示されて行く。


「敵はロシア製の地対空ミサイルを所持。それから2個中隊の戦車部隊と1個大隊の機械化歩兵部隊。自走対空砲を保有しているという情報もあるわ。正直に言って、これまでの作戦の影響だと考えている。私たちが軍閥の指導者と軍事顧問団を殺しまわったから相手も警戒するようになったのでしょう」


「うへえ。どうするんですか、これ? これに突っ込むって、正直死にに行くようなものですよ。まともな人間なら考えません」


「それでもやらなければいけないの。それに全ての敵部隊が護衛任務に就いているわけじゃない。敵は基本的に敵は機甲部隊を前線に出しているわ。一部を抽出して護衛任務に当てているだけで。まあ、今回ばかりは敵の特殊作戦部隊との会敵も予想しなければいけないけれど」


 矢代がそう言って肩をすくめる。


「今回はMV-280輸送機は使えないわ。代わりにC-2輸送機を使う。ただの輸送任務中と偽ったC-2輸送機からのHALO降下で地対空ミサイルを潜り抜ける」


「帰りはどうするんですか?」


「大井の拠点から50キロほど離れた地点に、放棄された野戦飛行場があるわ。それを使ってC-130輸送機で回収する。その輸送機も物資輸送中のタグを付け置くから。なんとしても50キロ先の野戦飛行場まで辿り着いて」


 矢代の目は冗談を言っているものではなかった。


「50キロかあ……」


「まあ、ギリギリか?」


「敵の車両を鹵獲するって手もある」


 シェル・セキュリティ・サービスの面々が口々に作戦を議論する。


「お喋りはそこまで。我々にとっては久しぶりの空挺作戦よ。腕が鈍っていないか、VR(仮想現実)トレーニングで確かめておいて。作戦決行は4日後。それまでに全ての準備を完了させておくように」


「了解」


 社員たちからふざけた雰囲気が消え、軍隊の顔を見せる。


 この瞬間の何とも言えない秘密結社に似た雰囲気が、羽地にとっては不思議と心地よく感じられていた。これぞ軍隊だという雰囲気が、人の仮面の外れる瞬間とでもいうべきものが、羽地の心を揺さぶっていた。


「それでは解散」


 次はこの情報を八木とアリスたちに伝える番だ。


「──ということで敵地にHALO降下して、重装備の敵の護衛をやり過ごし、迅速に目標を仕留め、50キロ先の野戦飛行場まで待つC-130輸送機に乗り込む。以上だ。何か質問は? 愚痴以外のことなら聞いてやるぞ」


「はい」


「なんだ、古今軍曹」


「降下は軍事顧問団を暗殺しに行く連中と同じですか?」


「別の輸送機だが、向こうもHALO降下だ」


「うへえ。HALO降下って割と地獄なんですよね」


 遥か上空の気圧の薄い場所から一気に地上付近まで降下するわけだから、それは映画で描かれるほど華々しいものではないのは事実だ。


「少佐」


「どうした、月城曹長」


「何故我々が? 経験値を積む必要は分かりますが、ここまで無茶な作戦にそう何度も付き合う必要はないように思えます。ミミックたちにしたところで、今の段階で失われては困るのでしょう?」


「ふうむ。恐らくは天満、いや日本情報軍上層部の考えだ。彼らは一刻も早いミミックの実用化を求めている。そのためならば多少の無茶は、というわけだ。気に入らないだろうが、これも命令だ。従ってくれ」


「了解」


 月城の不満は明白だったが、今は堪えてもらうしかなかった。


 これは天満の、日本情報軍上層部の判断だ。駒である羽地たちは従うしかない。


「敵はかつてないほどの重装備だ。少なくともこれまでT-90主力戦車、BMP-3歩兵戦闘車、BTR-90装甲兵員輸送車、SA-11ガドフライ地対空ミサイル、ZSU-23-4シルカ自走対空砲を確認している。実際はまだまだ隠し玉があるだろう」


 対戦車ミサイルや対人地雷、アーマードスーツ、自走多連装ロケット砲。考えられなくはない組み合わせだ。そして、どれも少人数の暗殺部隊には致命的だ。


「よって作戦オプションは隠密(ステルス)以外、あり得ない。最後の最後まで隠密(ステルス)を貫く。さもないとそれこそ戦車1個小隊、2個小隊ぐらいと殴り合いをする羽目になるぞ。今回は移動が長距離に及ぶため、重装備も持っていかない。敵は地対空ミサイルとレーダーを有しているため、航空支援もない。装甲部隊に見つかったら、終わりだということを頭に置いておけ」


「了解」


 全員が返事をする。


「さて、問題はHALO降下の降下地点だ。敵に気づかれないからと言って哨戒線に内側に降下するのはリスクだ。やはり哨戒線の外に降下しようと思う。敵に気づかれない範囲で開けた場所。地雷原の可能性がない場所」


 HALO降下はかなり狙った位置に降下できる。特に最近のパラシュートはナノマシンとモモンガなどの滑空飛行する動物の筋肉や表面素材のバイオミメティクスを活用し、降下地点のずれは1メートル範囲内と言われている。


 だが、その狙った場所が安全な場所とは限らない。


 うっかり地雷原のど真ん中に降りてしまったら不幸では済まない。敵のパトロールに早々に発見されるのも論外だ。パラシュートも人も第6世代の熱光学迷彩で隠れているとは言えど、重量のあるものが落下する音はする。


 まずは降下地点をしっかりと定めなければならない。


「航空偵察の結果だ。輸送任務中の輸送機にカメラを取り付けて撮影している。どう思う? 作戦運用AIはこの地点への降下を推奨してる。ここ24時間人の出入りがないからだそうだ。だが、俺にはどうにも落ち着かないものがある」


「24時間人が入っていないということは地雷原の可能性もあるわけですね」


「そう、その通りだ。どうする? 別の地点を探るか?」


「自分としては航空偵察の写真を見る限り、この地点を推奨します」


 八木は先ほどの地点とは別の場所を指した。


「軍閥の拠点からはずれますが、轍の跡があり、装甲車両が通過した形跡があります。地雷はないでしょう。そして轍は古いもので、降下する際に装甲車両と出くわすことはないかと思いますが、どうですか」


「採用しよう。助言に感謝する、八木大尉」


「いいえ。当然のことです」


「では、降下地点は決まった。武器弾薬はカーゴに収めて一緒に降下する。各自必要な装備を準備して、カーゴに入れる準備をしておけ。弾薬は多めに準備しておけ。何せ、野戦飛行場までは50キロもある。補給なしというのはぞっとするからな」


「了解」


 矢代は言わなかったが、今回も“ウルバン”について聞き出すのだろうか?


 “ウルバン”、“ウルバン”、“ウルバン”、“ウルバン”。


 “ウルバン”とは何者だ?


 ただひとり、戦場の死体の山の上に君臨している男。死の商人。混沌の担い手。


 いや、男か女かすら分からない。確かに兵器ブローカーは男が多いが、女の兵器ブローカーがいないわけではないのだ。


 だれも、未だに“ウルバン”の心的イメージを組み立てられずにいる。


 情報が足りない。戦場で入手する情報はどれも似通っているし、今のところ第403統合特殊任務部隊の“ウルバン”に関するソースは戦場で得たものに限られている。そこには日本情報軍本隊から与えられた情報はない。


 “ウルバン”は大井にも武器を売ったのだろうか?


 “ウルバン”はトートにも武器を売ったのだろうか?


 “ウルバン”は何を考えているのだろうか?


……………………

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