打ち上げ
本日1回目の更新です。
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──打ち上げ
記念すべき連休の初日はこれまでの作戦の慰労をすることになった。
慰労会という名目で居酒屋に予約を入れておく。アリスたちも酒は飲めないが食べ物は味わえるので参加だ。飲めないと言っても外見年齢的に問題になるというだけであって、アルコールを分解する能力がないわけではない。必要ならアルコールを分解して、そこからエネルギーを生み出すこともできる。
「それでは、全員今回はよく頑張った。乾杯!」
「乾杯!」
監督責任の都合上、羽地だけはノンアルコールビールを手にしているが、他は全員生ビールだ。久しぶりの酒の味に全員が感嘆の息を漏らす。
アリスたちは各々ソフトドリンクを手にしていた。アリスはメロンソーダ、七海はオレンジジュース、スミレはコーラ、リリスはウーロン茶。
いくら体内循環型ナノマシンがアルコールを分解し、二日酔いなどを阻止するとしても、一時的に酔いはする。そして、いつ任務が始まるか分からない間はその酔いは問題となる。故に海軍と同じで社内での飲酒は厳禁かつ作戦待機中は外出禁止だった。
なので、八木たちには久しぶりの酒になる。
「とりあえず、適当に頼みましょう。俺、から揚げで!」
「焼き鳥のセットがいいな」
古今と月城がそう言う。
「割り勘だからな。俺の奢りじゃないぞ」
「分かってますって。会社にいると金が貯まってしょうがないので安心してください」
確かに会社に缶詰めだと金は貯まっていくばかりだ。誰もが民間軍事企業に引き抜かれるのも納得の高給が支給され、それでいて使う機会は少ない。衣食住は会社が面倒を見てくれるので、せいぜい通信費程度の消費である。その通信費も軍用回線を使えばタダである。通信は検閲されるが、それは民間回線を使っても同じことだ。軍にいる以上その手のプライバシーは防諜の問題からない。そして、金はとにかく貯まっていく。
こういう機会でもない限り、金を使うことはないのだ。
「スミレ、リリス。映画はどうだった?」
「面白かったですよ。劇場版ならではの熱い展開でした。劇場版だと敵味方共通の敵とか出たりして、一時的に共闘したりするのが面白いんですよね」
リリスがそう答える。
スミレとリリスが見に行ったのは女児向けアニメだ。古今と月城はそれに付き合っている。ミミックと人間は必ず一緒に行動するようにとの指示が出ているからだ。
それはミミックが子供の外見をしていることが理由であるし、ミミックが日本情報軍にとって最大級の機密であるからでもある。ミミックの情報は漏洩してはならない。何があろうとも。他の組織に拉致されたりするのは論外だ。故に常にバディが一緒にいなければならない。そして、バディは奪還が困難と判断した場合、ミミックを破壊しなければならない。破壊しなければならないのだ。
「古今。お前はどうだった?」
「まあ、最近のアニメはよくできていますよ。大人でも楽しめるような作りです。けど、やっぱり女児向けは女児向けですよ」
「そんなこと言ってー。映画見た後、少し泣いてたよ?」
「そ、そんなことはない」
古今はスミレが指摘するのに必死に否定した。
「海鮮サラダと若鳥のから揚げ、焼き鳥盛り合わせお持ちしましたー」
「お前らー。野菜も食えよー」
どっさりとした量の料理がテーブルに置かれる。
「私、から揚げ好きー! もらい!」
「レモンは各自の判断で使用されたし」
羽地はそう言ってから揚げを自分とアリスのさらに載せて、サラダも盛り付ける。
「アリスはこういうのはちょっと苦手だもんな」
「すみません。私の判断が遅いせいで」
「いいんだ、いいんだ。今日はしっかり食べるといい」
こういう盛り合わせの料理から自分の分を確保するのが、アリスは苦手にしていた。遠慮し過ぎてしまうのだ。スミレやリリスは要領よく確保していくが、アリスと七海はちょっと取って、それ以上は取れずにいることが多い。
なので、最近では羽地が代わりに確保してやるようになっていた。
「そっちはどうだったんです?」
「ん。よかったぞ。フルダイブ型も臨場感があっていいんだが、昔ながらのスクリーンを眺めて見る映画もいいものだ。フルダイブでは味わえないものがある。今回は映画の経験値が積めたな、アリス」
羽地が焼き鳥を取りながら、アリスに問いかける。
「はい。映画の経験値も積めました。映画とはいいものです。心が安らぎます」
「へえ。アリスちゃん。どういう映画見たの?」
「ロードムービーです。内戦で荒れ果てたロシアの大地を進みながら、人々と親交を深めていくNGO職員のお話でした。途中、びっくりする場面もありましたけれど、いいものでしたよ」
「大人だねえ」
古今が感心したようにそう言う。
「古今。あんた、アクション映画の方はR15指定だったんだろう? 悪影響はないの? あんたの好みは暴力的だからスミレちゃんが心配だ」
「そんな大したもんじゃないですよ。ちゃちなCGのモンスターが出てくる程度です。そして、それを撃ちまくる! マッチョな男と女がモンスターどもを薙ぎ払って勝利! そういうシンプルな話ですから」
月城が早速焼酎に切り替えながら言うのに、古今も焼酎を味わいながらそう言った。
「面白かったですよ、月城さん!」
「それならいいけど」
また悪影響があったら、全員真島さんから説教よと月城が言う。
「女児アニメって真島さんのセレクトでしたよね……。あの人、スミレたちをどれだけ下に見積もっているんでしょう?」
「あたしは楽しいけどなー?」
スミレはそう言う。
「私も楽しい。私たちはいろいろな刺激が欲しい立場だから。大人と同じ刺激も、子供特有の刺激もみんな欲しい。まあ、真島さんが過保護だとは思うけれど」
リリスはそう言ってから揚げをつまむ。
「八木。君はどうだった? いい本は手に入ったか?」
「ええ。SF小説がいいと言われたので、最近新訳版が出たものを何冊か」
「そうか。七海が楽しんでくれるといいな」
最近の書店は本がずらりと並んでいるのではなく、ダウンロード販売するためのタグが並んでいる。店舗そのものもヴァーチャル化しないのは物理的な特典のサービスがあるからだ。今の完全電子化社会で本屋が生き残るにはそれしか方法はなかった。
図書館などはそれと物理書籍のちゃんぽんだ。タブレット端末をレンタルして、電子書籍としてレンタルしたり、物理書籍を昔ながらの方法でレンタルしたりする。
「さあさあ。今日は久しぶりに酒が飲める機会だぞ。今のうちに飲んで、食っておけ。他に何かオーダーは?」
「天ぷらを!」
「天ぷらだな」
リリスが声を上げ、羽地が店員を呼ぶ。
長い暗殺と尋問作戦を終えた人間とミミックの打ち上げは夜遅くまで続いた。流石に二次会をするような余裕はミミックたちにはなく、羽地たちは深夜1時に帰社し、それぞれの部屋に入っていった。
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