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人形のカウンセリング

本日2回目の更新です。

……………………


 ──人形のカウンセリング



 羽地たちは民間軍事医療企業の精神科医たちから戦闘後適応調整を受ける。


 言葉と薬でオーバードーズを引き起こしそうになりながらも、精神科医から日常に引き戻され、戦場が、戦争が遠ざかったことを把握する。いつまでの戦争気分ではなく、しっかりと戦争に終わりをつける。


 では、アリスたちはどうするのか?


 アリスたちは全てを真島に委ねている。


「アリス。メンテナンスポッドに」


「はい、真島博士」


 メンテナンスポッドは棺桶のようであった。


 アリスは低反発素材で内部が作られ、そして自分の脳の演算を真島が把握できるような、そんな棺桶の中に横たわった。横たわったと同時に意識が真島が使っているコンピューターに移される。


「アリス。これから自己診断プログラムを走らせる。準備してくれ」


『準備はできています』


「よろしい。では、始めよう」


 真島は自己診断プログラムを走らせる。


 正直に評価すると、この自己診断プログラムを快く思っているミミックはいない。


 自分が丸裸にされる感触。頭脳の演算にかかる大きな負荷。何かのミスで大切な思い出を失うのではないかという恐怖。


 それらが入り交じって、ミミックたちはあまり積極的に自己診断プログラムを受けようとは思わない。今回のように戦闘後戦闘適応調整でやむを得ず受ける場合を除けば、いろいろと理由を付けて断っている。


「では、自己診断プログラムを実行する」


 強力な負荷が生じる。


 自分が丸裸にされている感触。これからどんな受け答えをしても真島は事実を知っているということ。真島は自己診断プログラムだけに頼らず、会話によってアリスたちミミックの真意を探ろうとしていた。


「アリス。思ったより戦闘で生じるはずであるストレスが少ない。何かコツを見つけたのかね。私の戦闘前戦闘適応情勢が上手く行っているとだけでは考えられないほどにいい数字だ。かなり健全な状態にある」


『ストレスの解消方法を見つけましたので』


「ほう。それはどのようなものかな?」


『羽地先輩と話すことです。かなりストレスが緩和されます。羽地先輩は私を頼り、私は羽地先輩を頼る。それが恋人としての関係だと、羽地先輩が』


「君たちは恋人関係になったのかね?」


『はい。羽地先輩の許可もいただきました。正直、恋人とは何をするのか分かりませんが。羽地先輩は丁寧に恋人ついて教えてくだ覚ます。こう、心の通ったパートナーなんです。以前よりもポジティブな反応が帰ってきます』


「なるほど。それでは言うことはない。今回も記憶を編纂することはできるが、どうするかね? 戦場の嫌な記憶など消してしまえるよ」


『いえ。結構です。私は私が私であるために、この記憶は保持しておかなければと思うのです。羽地先輩に戦場で頼られたことを忘れたくはありません』


「なるほど。分かった。記憶はそのままにしておこう」


 真島は満足そうにアリスの自己診断を終わらせた。


「次は七海。君だ。準備は良いかね?」


『は、はい。準備はできています』


「では、始めよう」


 真島が自己診断プログラムを走らせる。


「ふうむ。七海、君も戦場で感じるストレスは許容範囲内だ。だが、人を殺す際には躊躇が見られるね。君の精神は膨大なストレスを受けているはずなのに、戦闘終了後まで引きずっていない。どういうわけだろうか?」


 そう真島が尋ねる。


『ひ、日頃の訓練のおかげだと思います。どうするべきかは八木大尉にしっかりと教わりました。私はその通りに動いているだけです。途中でこ、怖くなってしまうこともありますけれど、八木大尉が自分を信頼してくれていると思うと、その、期待に応えたいと』


「それはストレスになっていないのか?」


『な、なっていません。八木大尉は作戦終了後に反省会をして。よかったところがあったら褒めてくださいます。それが何よりも嬉しいのです。私はこのままの関係が続けばいいなと思っています』


「人間になるつもりはないと?」


『あの、私たちは本当に人間にならなくてはいけないのでしょうか? 私は今の立場で満足しています。今の関係を壊すかもしれないことは……少し怖いです』


 七海の答えに真島が唸る。


 七海は機械としての自分の立場を受け入れてしまっている。機械と人間の関係。機械とユーザーの関係。もし、魂を得れば、その関係が崩れるのではないかと恐れている。


 だが、真島としては全てのミミックに人間になってもらいたい。彼女たちが機械のままで終わることなど求めてはいない。魂を得ることによって、生物として認められる権利が欲しい。ゆくゆくは人間と肩を並べて活動する社会の一員になってもらいたい。


 だが、七海は魂を求めていない。彼女は機械であり続けることで、八木との関係を維持しようとしている。


 八木との関係が大事だから。だから、自分は機械でいい。そう考えているのだ。


「八木大尉は君が本当に人間に近い存在になることで関係を終わらせるだろうか? 実際のところ、そこまで深刻ではないのではないだろうか?」


『分かりません……。分からない故に怖いんです。もし私が魂を得たら、八木大尉は離れて行ってしまうかもしれない。それが怖いんです。それが怖いから、踏み込めないんです……。真島博士、私のこの恐怖を消し去ることはできますか?』


「すまない。それはできない。記憶は消去できるが、感情までは完全にコントロールできない。君たちの感情は複雑に入り組んだ演算の結果なのだ。一本の線が導き出す答えではなく、数十本、数百本の演算が複雑に絡み合い、導き出されているものなのだ」


『そう、ですか……』


 記憶は消せる。だが、感情を消すことは難しい。


 戦闘前戦闘適応調整では、自己保存の本能を維持しつつ、一定の恐怖心を抑え、適度な殺意と緊張感を持たせる。この時、確かに恐怖はある程度消えているが、完全に消えたわけではない。ぼやけたようなものである。


 恐怖は確かにそこに存在する。ただ、認知しにくくなっただけだ。


 いずれ時間が経てば、何かしらのイベントに出くわしたら、恐怖を認識してしまうだろう。複雑に絡み合った演算が、答えを、恐怖を導き出すのである。


 だから、ミミックから感情を消し去ることはできない。


「いつか君の気が変わったら教えてくれ、七海」


『は、はい。私が勇気を持ったら、いずれは……』


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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