軍閥への投資
本日2回目の更新です。
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──軍閥への投資
王党派に対する作戦の3週間後にビッグシックスの一角たるアロー・グループが動いた。自分たちの支援する共和派に対する大規模な支援を開始したのだ。
「アローが共和派に大規模な軍事支援を行ったことが確認されたわ。戦車を含む大規模な装甲部隊が編成されたのを空間情報軍団が確認。電子情報軍団はアローの傘下にあるフラッグ・セキュリティ・サービスが頻繁に無線で物資の受領状態を確認しているのを盗み聞きしている」
T-90主力戦車を始めとする戦車部隊を上空から撮影した画像が表示される。
「天満は近いうちに攻撃を仕掛けることを決定している。2、3日以内。もしかしたら、明日かも。攻撃目標は王党派の時と同じで軍閥の指導者と民間軍事企業の軍事顧問団。もちろん、いうまでもないけど正面から戦ってどうにかなる相手じゃない。相手は戦車1個中隊を保有しているし、操縦しているのは間違いなくフラッグ・セキュリティ・サービスの連中だから」
それに加えてBMP-3歩兵戦闘車が2個中隊というとブリーフィングルームに呻き声が響いた。確かに立派な装甲部隊だ。まともに正面から相手にしてどうにかなるものではない。こっちにも戦車部隊が必要な規模だ。
「軍閥の指導者は例によって作戦中だろうとアジトを離れないだろうと考えられている。天満が軍事衝突が起きてから暗殺命令を出すのか、その前に首を斬り落とすべきなのか判断するかはまだ分からない」
いずれにせよ、羽地たちは危険な戦地にもう一度飛び込むことになる。
「それから、今回の軍事物資だけれど、出どころが知りたい。可能であれば軍事物資に関する情報を手に入れて来て。それから今回は地対空ミサイルはないから、航空支援は行えるわよ。QA-10にたっぷりアヴェンジャーの砲弾を降り注がせてもらってもいい」
「マジですか?」
「マジよ」
QA-10無人攻撃機。その名の通り2020年代に退役したA-10攻撃機を無人化したもので、対戦車ミサイルからロケットポッド、ナパーム弾、そして聞くものを震えさせるGAU-8アヴェンジャー機関砲を装備している。
シェル・セキュリティ・サービスの保有する最大の航空戦力だ。
「フラッグ・セキュリティ・サービスは完全にお空がお留守。戦闘機も保有していないし、地対空ミサイルの供与もない。そのことは確認済み。だけど、こちらもタグ付けしていない航空機で攻撃をするのはリスクが大きいからいざという時にしてね」
「まあ、航空支援があるだけでありがたいもんですよ」
できれば航空支援のお世話にならなきゃならないような状況は避けたいものだが、とここにいる誰もが思っていた。シェル・セキュリティ・サービスの保有するQA-10無人攻撃機はたったの3機。戦車1個中隊と歩兵戦闘車2個中隊を相手にするには不足する。
「基本的には隠密を推奨するわ。強行突破はリスクが大きすぎる。相手がどの程度警戒しているか。天満様の指示する攻撃のタイミングがいつなのか。それらによるけれど、正面突破するには戦力不足なのはハンター・インターナショナルの連中を襲った時に分かったはず。こちらは寡兵で勝利しなければならない。そのためには頭を使わないと」
「ですね。俺も作戦は隠密で進めることを推奨します」
羽地も矢代の意見に同意した。
「何か意見は?」
「また待ち伏せされてたら、隠密はできませんよ、ボス」
「今度は相手にステルスドローンがないことを祈るのみね。ただ、航空戦力については本当に戦術級小型ドローンと輸送ヘリぐらいで、他に戦闘機や戦術級大型ドローンを保有しているという情報はない。けど、悲観的に準備するならば、待ち伏せされることも考えるべきでしょう。その上で隠密ができるように考えて。頭を使って」
「ボスもかなりのサディストですね」
社員たちの中から笑い声が漏れる。
「私たちはあなたたちを育てるのに相当な資金を投じているのよ。いざという時に使い物になってもらわなければ困るわ。そして、今回のようなときがいざという時そのものよ。頭を使って、戦術を駆使して、これまで投じた費用に合った戦果を上げて」
「了解です、ボス」
社員のひとりがそう言いながらも真面目な表情を浮かべていた。
「それでは天満のご神託があるまで待機。天満からご神託が下ったらいつでも動けるように。航空偵察は頻繁に行っているから、情報は常にアップデートして。その上で作戦を組み立てて。かなりの自由裁量をあなたたちには許可するから」
矢代のブリーフィングはそれで終わった。
羽地は情報を受け取りつつ、頭を悩ませた。
軍閥の指導者の情報は受け取っている。やはり、典型的な軍閥の指導者だ。大義を振りかざし、逆らうものは殺し、子供兵を戦闘に動員している。ただ、前の指導者と違うと思われるのは正直、アローとは上手く行っていないのではないかと思われる点だ。
「どう思う、八木大尉」
「これは電子情報軍団が傍受した情報ですか?」
「そうだ。頻繁にアロー──もとい、フラッグ・セキュリティ・サービスとやり取りしている。内容の半分上は文句だ。『自由で公平な共和国を目指す共和革命において、貴君たちの行動は目に余るものが云々かんぬん』という具合だ」
「権力を握るための上辺だけのイデオロギーではなく、本気でそのイデオロギーを信じているという証左でしょうね。しかし、こうなると面倒です。相手は理想のためならば命も捨てかねない。自爆、という作戦も選択肢に入ってきます」
「うむ。指導者自ら自爆攻撃のようなことをする恐れがあるわけだ」
「あり得なくはないでしょう。中東の過激派は追い詰められると指導者でも自爆した例があります。彼らがこれを“聖戦”とやらと捉えているならば、部下はもちろん指導者自身も自爆する可能性はあります」
八木の指摘するように、中東の宗教原理主義者は追い詰められたとき、自爆することがあった。家族の有無を気にせず、自らの理想に殉じるのである。
「となると、面倒なことになる。俺たちは“ウルバン”について調査する任務もあるんだ。尋問対象が吹っ飛んでしまったらそれはできない」
そう、羽地たちは以前の軍閥の指導者と同様に今回の軍閥の指導者も尋問しなければならないのである。謎の兵器ブローカー“ウルバン”が果たしてハンター・インターナショナルの兵器調達係なのか、それともどちらの陣営にも武器を売るような人間なのか調査するために。
「かなり気合を入れて隠密しなければなりませね」
「ああ。この前のように全く気付かれずに行動する。それが必要だ」
「予行演習を行っておくべきでは?」
「いや。作戦開始は明日かもしれない。無駄な体力は消耗させたくはない。今はしっかりと休ませてやろう。いつも通りにやれば上手くいく。この前も上手くいったんだ。土壇場になって焦ってもしょうがない」
「同意します。今は作戦開始に備えて休ませましょう」
「では、俺と君は作戦に向けての調整だ。敵地の航空偵察映像は届いている。驚け。敵は戦車1個中隊と装甲車2個中隊で武装しているぞ」
「ますますぞっとさせられる話です」
そう言って八木は肩をすくめた。
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