ゲーム・エンド
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──ゲーム・エンド
「日本情報軍が戦術核の炸裂を望んでいる……?」
そう聞かされても羽地は自分はそこまで驚いていないのを感じていた。
「日本情報軍の一部の派閥です。彼らは考えていた。どうすればポータル・ゲートのこちら側に国家の影響を及ぼせるだろうかと。どうすれば、今のビッグシックスによるポータル・ゲートのこちら側における支配を終わらせられるだろうかと」
どうすればいいと思います? と司馬が尋ねる。
「戦術核を炸裂させても……」
「横浜条約のこの文言をお忘れではないですか。“地球に対する差し迫った脅威があると国連安全保障理事会が認定した場合、国連軍をポータル・ゲートの向こう側に派遣できる”と。要は危機さえあればいいのですよ。例えば、戦術核が炸裂するような」
「国連軍を派遣するために自作自演で核を炸裂させるつもりか」
「まあ、そんなところです。戦術核が炸裂すれば、多くの人間の目が覚めるでしょう」
偽りの繁栄から、搾取と略奪の時代へと。
「ならばなぜ俺たちは戦術核の奪還を命じられていた」
「言ったでしょう。戦術核の起爆を望んだのは日本情報軍の一部の派閥。これまでいくつかの作戦で彼らのあぶり出しが行われていたのです。日本情報軍として戦術核を炸裂させてまで、国連軍を介入させるべきだとは思っていない。自分たちの力でビッグシックスの支配は打倒できると思っていた」
「俺たちは派閥争いに振り回されただけなのか?」
「お互いが、です。私もまた振り回されたのです」
あなた方が戦術核に近づくたびに私がどれだけ苦労したか、と司馬は言う。
「そもそも大井の人間がどうして日本情報軍の作戦を助けている」
「ああ。そうでしたね。私は日本情報軍が用意したスリーパーエージェントなのですよ。私の忠誠は大井に向けられているようで、実際は日本情報軍に向けられていた。それだけの話ですよ」
司馬はそう言って戦術核に近づく。
「やめろ! 核を起爆するな! ここにいる全員が巻き込まれるぞ!」
「ええ。それも仕事のひとつ。我々は仕事をするただの人間」
ただの人間。仕事をするただの人間。
ウルバンの正体はその通りだった。仕事をするただの人間。何かしらのカリスマや神秘性を持った人間でもなく、ただただ仕事をするだけのただの人間。
羽地は自動小銃を構えようとして、自分の腕が吹き飛ばされたことを感じた。
「余計なことはしないでください。無駄です。戦術核は起爆する。絶対に」
仕事をしなければいけないと司馬は言う。
その時だった。
アリスが自動小銃を構え、その銃口を司馬に向けていたのを見たのは。
「おや。まだ邪魔をしますか」
司馬も銃口をアリスに向ける。
「核は起爆させない。絶対に」
「核は起爆する。絶対に」
そう言ってお互いに引き金を引いた。
「アリス!」
思わず羽地が叫んだ。
司馬の額を銃弾が貫き、彼の体が崩れ落ちる。
アリスの額を銃弾が貫き、アリスの頭部が爆ぜる。
静けさが辺りを支配した。
「ああ。アリス……。君は……」
羽地は涙が流れるのを押さえられなかった。
『フォックスハンターよりレオパード。装甲車部隊がそちらに到着する。戦術核は確保できているか?』
『レオパードよりフォックスハンター。核は確保できている』
『了解、レオパード』
そして、装甲車で国際経済センターにやってきたシェル・セキュリティ・サービスの一団が戦術核を解体し、“ウルバン”──司馬が手に入れた全ての核は無力化された。
ひとりの犠牲とともに。
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戦術核騒動が終わった。
ポータル・ゲートのこちら側は世はこともなし。
一度は引き上げたビッグシックスも戻ってきて、また企業統治を始める。
「昇進が決まった。俺は中佐になる。これからこの作戦は後方で指揮を取ることになるだろう。これまで諸君とともに戦えたことを光栄に思う」
羽地はそう言う。
彼は無事に中佐に昇進した。それでもなおミミック作戦に囚われている。
彼の脇にはアリスはいた。魂を有さないアリスが。バックアップから復元されたアリスが。彼の隣にいた。
魂を失った後も、魂を得た後と同じように微笑むアリスがいた。
「俺とアリスが後方から諸君らを助ける。何か質問は?」
羽地がそう尋ねた。
「純粋に戦闘要員が2名減るということですよね。その埋め合わせは」
「ああ。もちろん、行われる。紹介しよう。新しいミミックとそのバディだ」
物語はここで終わる。
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本作品はこれて完結です! これまでお付き合いいただきありがとうございました!
 




